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閑話 増える苦労人

 ブックマーク・☆での評価・誤字報告・感想をありがとうございました!!!!


 なお、ギルドマスターの名前は変更しています。

 俺はザグル。

 クラサンドの冒険者ギルドで、ギルドマスターをやっている。

 正直自分は責任者をやるような柄じゃねーんだが、過去にSランク冒険者をやっていた関係で、ギルドマスターを押しつけられた。


 ダンジョンで片目を失っていなければ、まだ冒険者をやっていたんだがなぁ……。


 で、今日は休憩(・・)がてらに、酒場で一杯ひっかけて、これからギルドに戻るところだ。

 決してサボりじゃねぇ。

 あくまで休憩だ。


「ん……なんかギルドが騒がしいな?」


 俺がギルドに戻ると、なにやら場が騒然としていた。

 何か事件でもあったのか?

 なんだか……急に酒場へと戻りたくなったぞ……?


 しかし責任者としてはそうもいかないので、ギルドの中を覗き込む。

 中で誰かが乱闘している──という訳でも無さそうだな。

 ちょっと前にも、小さな女の子が暴れて色々と破壊したと聞くが……。


 ふむ……どうやら冒険者や職員が、何事かを興奮した様子で話し合っているようだ。

 そういや、ドラグナが60階層に挑戦していたはずだが、それが成功したか……あるいは失敗して未帰還になったか?


「あ、マスターっ!!

 いいところにっ。

 75階層を突破した者が現れましたっ!」


「はあっ!?

 ……ドラグナの野郎、そこまで行ったっていうのか!?」


 受付をやっているシェリーの報告に、俺は度肝を抜かれた。

 つい最近まで、50層を攻略するのにも手こずっていたのに、なんだそれ!?

 だが、驚くのはまだこれからだ。


 シェリーは声をひそめて、信じがたいことを告げた。


「いえ……それが、新人の小さな女の子達が……。

 3姉妹(ノルン)というパーティーです」


「……それはひょっとして、ギャグで言っているのか?」


「そういう反応になるから、あまり大きな声では言いたくなかったのにぃ……。

 でも、事実らしいです。

 ちょっと納品された物を見てください。

 それで信用してもらえるはずです」


「お、おう……」


 俺はシェリーに連れられて、納品された魔物達が保存されているという倉庫へ向かった。

 解体場には入りきらなかったので、一時的に保管しているという。

 倉庫の中は肉などの鮮度を保つ為に、魔法で低温が維持されている。

 

 俺はそこに入った瞬間、全身を震わせた。

 寒さの所為ではない。

 驚愕によって──だ。


「こいつは……!!」


「……ね?

 事実だったでしょう?」


 そこには膨大な数の魔物の(むくろ)があった。

 しかもその殆どは、全身が丸ごとあり、中には5mを超える巨人の姿まである。


 こんなのは、物理的に持ち運べる訳が無い。

 だから多くの冒険者は、持ち運べる重量を考慮して、貴重な部位だけを持ち帰ることも珍しくないのが現状だ。

 まあ、大容量の空間収納があれば、その限りではないがな……。


 つまりこの魔物達を納品した者は、その大容量の空間収納を持っているということだ。

 とはいえそんな術者は、町に1人いればいいくらいのレアさだぞ?


 更に言えば、見たことが無い新種の魔物も多い。

 これは確かに、75層を突破したという話も頷ける……。

 いや、この目で見ても信じがたいが……。


「ん……?」


 魔物の死体の中に、黒焦げになっている物があった。

 他のは比較的損壊が少ないのに、これだけは元の姿が辛うじて分かるといった感じだ。

 それだけ激しい戦いを繰り広げた結果──ということなのだろう。


 おそらくこいつが、今回納品された魔物の中でも、1番の強敵だったに違いない。

 だが、それも当然だろう。


「まさか……こいつは魔族?」


「やはり……そう見えますか?

 これの対応については、さすがにギルドマスターに方針を決めてもらわないとどうしようもなくて、査定の作業すら手を付けていません」


 ん……まあそうだろうな。

 これは一介のギルド職員の手には余る。

 いや、俺の手にだって余るわ。


 魔族──その可能性を否定したかったが、その黒焦げの死体には、確かな悪魔の特徴がある。

 それによく見たら、黒焦げの死体の陰に小さな悪魔らしき死体が3体あった。

 おいおいおいおい……!!


 魔王が勇者に倒されたとされてから、約250年──。

 一部の例外を除いて、魔族の姿はほぼ確認されていないはずだ。

 その魔族が、このダンジョンの地下に潜んでいるというのか……!


 いや……あるいは魔王と何か関係があるのか?

 だとしたら、国に報告して指示を仰がなければならなくなる。

 くっそ……面倒事を持ち込みやがって!


 これから色々と、対策を話し合わなければ……。

 その前に、これを持ち込んだ者に話を聞くのが先か?


「あれを持ち込んだやつらは?」


「疲れたから……と、宿に帰りました。

 後ほど報酬を受け取りに来ると思いますが……」


「じゃあ、顔を出したら、俺と面談だ。

 応接室に通せ。

 あと、他に話が分かる奴はいるか?」


「ドラグナさんが、彼女らと途中で合流して一緒に帰ってきたとか。

 まだ食堂の方にいたはずですが」


「すぐに呼べ。

 色々と聞きたい。

 あと、査定の作業を急がせろ。

 最低額だけでもいいから、出してくれ。

 それによっては、大幅なランクアップも考慮しなければならん」


「は、はいいっ!」


 これから数日は、眠る暇すらも無くなるぞ……!!




「あのレイとかいう娘とは、絶対に敵対するな……!」


 応接室に呼び出したドラグナは、開口一番でそう言った。


「ん……?

 どういう意味だ?」


「あれは俺が知る限り、この世界で最強の存在……だと思う。

 もしかしたら魔王を倒した勇者というのは、ああいう存在だったのかもしれん」


「はは……そんな馬鹿な」


 俺はそう否定したが、ドラグナは俺の顔をじっと見つめたまま沈黙した。

 信じないのなら、これ以上話をするつもりはない……とでも言うかのように。

 こいつ、本気だ……!


 元々冗談を言うような奴ではないが、いつも以上にガチだ。


「そこまでなのか……?

 確かにあの大容量の空間収納だけでも、常識外れだが……」


 それに魔族を倒したのも、事実ではあるようだ……。


「彼女さえその気なら、単騎で国を滅ぼせるだろうよ。

 だからこそ、なんとしても味方に抱き込め。

 もしも彼女の逆鱗に触れるような事態が起きたら、俺は冒険者をやめて田舎に逃げるぞ」


「馬鹿野郎……俺には荷が重いわ……」


 俺は思わず頭を抱えた。


「取りあえずSランクという立場を与えて、首輪にしたらどうだ?

 本人は嫌がりそうだが、責任感が全く無いタイプには見えなかった。

 それなりの立場があれば、自重してくれるかもしれん」


「む……そうするしかないか……。

 あとは報酬をケチらないとか、待遇面で配慮するしかないな……」


 俺はドラグナの提案を採用することにした。

 だが、それで問題が解決した訳ではない。

 場合によっては、もっと問題が大きくなる可能性だってある。


 ……全く頭の痛い話だ。


 


 しかしこれはまだ始まりにすぎなかった。

 これからレイという娘が、この町を救うという偉業を成し遂げ、そしてあっさりとこの世界から消えていくことになろうとは……。


 この時点では、誰も予想できなかっただろうな……。

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― 新着の感想 ―
[一言] あー世界から消えるって語り部視点ではそうなんだろうね。つまりまた乗っ取り案件が発生してしまうと…レイチェルボディー…
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