26 帰還後
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60層のボスのフロア──だが、私達はここに用はない。
なので──、
「さて、私達はこれから地上に帰りますけど、あなた達はこのまま進むのですか?」
「いや、我々もここで引き返そう。
できれば下の階層の情報も欲しい。
移動しながら聞いてもいいかな?
なんなら、情報料を払ってもいい」
そんな提案をドラグナがしてきた。
「いいですけど、情報は最終的にギルドにも報告しますよ?」
そうしないと他の冒険者達に対して不公平だし、彼らの生存率をも左右するからね。
「それでもいい。
どうせギルドが情報を精査して公開するまでには、日数がかかる。
それまでの間、俺たちは有利に攻略を進めることができるのなら、問題は無い」
「なるほど。
ではそうしましょう」
そんな訳で私達は、帰りの道すがら情報を提供しつつ、上へと登っていった。
地上に到達したのは、更に2日ほど経過した頃だろうか。
敵の強さは下層から比べればぬるい物だったが、やはり広大なダンジョンは、歩くだけでも時間がかかる。
なお、戦闘はドラグナ達に殆ど任せたが、たまにキエルやマルガが参戦して、その能力の高さを見せつけていた。
これで彼女達が舐められることは、減るだろう。
そしてようやく地上に戻った私達は、ギルドに魔物の素材を預けるだけ預けて、そのまま宿へと直行した。
換金とかにはどうせ時間がかかるので、後回しでいい。
とにかく今は、安全で温かいベッドの上で眠りたかったのだ。
あとはお風呂があれば最高だったが、残念ながら予約していなかったので、その日は無理だった。
多少の汚れを落とすだけなら浄化の魔法で事足りるとはいえ、やっぱりお湯で温まりたいよねぇ……。
まあ、今は疲れを癒やす為に、泥のように眠ろう。
はあ……時間を気にせず、惰眠を貪ることができるって幸せ……。
私達はそのまま、2日ほど寝て過ごした。
怠惰ですねぇ……。
で、帰還してから3日目──。
そろそろ冒険者ギルドへと、顔を出すことにする。
納品した素材は、いくらくらいの値段が付いたかな?
「あっ、来た来たっ!!
ちょっとこっちの部屋に来て、こっち!
大事な話があるから!」
ギルドに入るなり、受付のお姉さんによって別室に案内された。
未踏破の階層に踏み込んで、未知の魔物の素材を持ち込んだのだから、色々と情報を聞き出したいのだろう。
これが面倒臭いから、納品後すぐに宿屋へ帰って、引き籠もっていたというのもある。
で、応接室らしき部屋で数分ほど待っていると、身長が2mほどある大男が部屋に入ってきた。
「待たせたな」
ボサボサの髪に髭面で、右目にアイパッチをした壮年の男だ。
……山賊かな?
「ここのギルドマスターのザグルだ」
ギルドマスターかよ。
ギルドと犯罪組織が裏で繋がっていて、私達を売ろうとしているのかと勘ぐってしまったわ。
「あ、3姉妹のレイ・ヤナミアです」
「キエル・グランジです」
「マルガにゃ!」
「ああ、楽にしてくれや」
私達が畏まった態度で頭を下げると(幼児のマルガは除く)、ザグルは私達が座っているソファーの正面に設置されているソファーへと、勢いよく腰を下ろした。
見た目通り、礼儀作法にはあまりこだわりが無いようだ。
「俺も暇じゃないから、すぐに本題に入らせてもらおう。
お前達を呼んだ理由にはいくつかあるが、まず納品された魔物の換金については、少々時間がかかる。
なにせ、我々も初めて見るものばかりでな。
査定に手間取っている。
全額の支払いは暫く待って欲しい。
だが、新種の情報は貴重だ。
あとで係員をよこすから、新種やこれまで未踏破だった階層の情報も報告してくれれば、前金で金貨100枚出す」
あれ!? ずいぶん額のレベルが高いな。
「ひゃくっ!?」
キエルが素っ頓狂な声を上げる。
まあ、金貨1枚で5万円くらいの価値だとすると、500万円くらいだから当然だな。
だけど情報は、あらゆる戦略において命だ。
決して高いとも、言い切れないかもしれない。
「……情報については、ドラグナさんに多少話していますが、それでも構いませんか?」
「ああ、噂話よりも、本人に聞いた方が情報の精度が違うからな。
だが、今後はあまり情報は漏らさないでくれ。
特に魔族については、混乱を招く可能性があるから、これについては絶対に外で喋るな」
魔族は魔王が倒されて以来、存在が殆ど確認されていないという話だからねぇ。
つまり、魔族が出た=魔王が復活しているかもしれないということでもある。
そしてダンジョンの最奥に魔王が眠っている……なんて与太話に、ちょっと現実味が出てきた。
本来なら、国全体で対応すべき問題だろう。
「そう思って、魔族に関しては誰にも話していませんよ」
「上出来だ。
残りの未知の素材は、これから価値を決めていくから時間はかかるが、最低でも金貨数百枚は期待してもいいと思うぜ?」
「すうひゃくっ!?」
よし、それなら家を買えるな!
大きなお風呂付きの家だ!
「それとお前ら全員、ランクアップだ。
レイがS、キエルがA、マルガがBだな」
「えっ!?」
これには私も驚いた。
ちょっと前に1つランクアップしたばかりだが、それでもまだまだ最底辺の新米だった。
それがいきなり最高ランクかい。
「あの……いいんですか、それ?
ちょっと特例過ぎでは?」
こういう特別扱いは、難癖を付けてくる奴が出かねないからなぁ。
ハゴータとかハゴータとかハゴータとか。
「まあ、それだけの実績を出したからな。
それにドラグナからの推薦もあった。
奴もお前らの実力に関しては太鼓判を押しているから、妥当な昇格だと思うぜ?」
「ドラグナさんが……」
やるじゃん、あのおじさん。
でも、ありがた迷惑な結果になる可能性も、ありそうなんだよなぁ……。
「それに、実力がある者がそれなりの待遇を受けていないというのは、それはそれで問題だからな。
実力者が待遇に不満をもって、ギルドから離反されても困る。
それから実力に関係なく、ランクが低いというだけで見下す奴らはいるし、それでお前らと諍いになられるのもな……。
お前らが高ランクだと周知されていれば、わざわざ虎の尾を踏むような奴は減る」
「まあ……私達も、相手から手出しされなければ、迎え撃つ必要もありませんが……。
ただ、私は貴族や男性が大の苦手なので、S級だからと言って安易な指名依頼は困ります。
その辺は留意しておいてください」
「ぐ……だが、貴族から命じられれば、庇いきれないぞ?」
やめろ、聞きたくない。
ギルドマスターとしての立場も分かるが、この素直に「はい」と言えない感じ……わかりますか?
貴族は……特に男は嫌なんだよぉ……。
「できれば、お互いに関わらない方が幸せなのでしょうけどねぇ……」
私は遠い目をして、明後日の方向を見た。
嫌とは明言しないが、ザグルには明確な拒絶の意思を感じ取ってもらえた──と思いたい。
その後、ザグルと色々と話し合った後、係員に情報を伝える作業に入る。
実際に納品した魔物の素材を見ながら、どういう能力があったのかということを、事細かに報告した。
それが3時間ほど続いて、終わったら報酬の前金が支給される。
これでキエルとマルガの装備を、最高の物へ刷新しようと思う。
現状の装備では、下層の敵に対応できないしね。
次回は明後日の予定です。
※ギルドマスターの名前が某アニメキャラと被っていたので、修正しました。外見も似ているとは思っていたが、まさか名前までとは……。元ネタは『ガンダム』のザクのつもりだったんだ……(片目なのもその所為)。
ちなみにドラグナは、『機甲戦記ドラグナー』って昔のアニメ。……からの、ロボットアニメ繋がりでザクという流れ。