22 悪 魔
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私達の前に現れた山羊頭の悪魔──。
某ゲームだと、レッサーなデーモンとして出てくる奴に似ているな。
ただ、バフォメットという超有名な悪魔もあんな感じなので、こっちのタイプだと強さが「レッサー」なんてことは有り得ないだろう。
事実キエルは、あの悪魔を見て動揺している。
「レ、レイちゃん、アレは駄目だよ!
どう見ても魔族だけど、魔族なんて魔王が滅びてから確認されたことがない、伝説上の怪物だよ!?」
……そうなのか。
「うち達では、勝ち目が……!!」
まあ、伝説上の怪物を目の前にしたら、最初から勝負を捨てるのも当然か。
ここはキエル達に任せず、私が奴を瞬殺した方が無難だな。
「マルガとキエルさんは、後退を!!
ここは私が対処します!!」
「1人でいいのかにゃ!?」
「私は大丈夫ですから!
魔法とかを撃ち込まれる前に、早くっ!!」
ぶっちゃけ、2人を庇いながらだと厳しいかもしれないしね。
いない方が助かる。
「わ……分かったけど、もしもの時は、転移魔法を使ってでもいいから、この階層から脱出しようね?」
「その辺の見極めは、任せてください」
私は2人が20mほど後退したのを確認しつつ、戦闘準備を整える。
まずは、転移魔法で石の中にでも送る──効かない!?
抵抗されたか!
確かに某ゲームでも悪魔系は、魔法抵抗力が高いもんなぁ。
じゃあ麻痺毒──これも駄目か!?
0.1mgでクジラとか動けなくする毒なんだけど。
まあ、クジラと直接会ったことはないが。
ともかく、悪魔が近づいてくる。
これは接近戦もやむを得ないか!
……さて、「乗っ取り」が発動しないようにするには、どう戦おうかな?
最初から全力の方がいいのだろうか?
でもそれだと、悪魔の身体が跡形もなく消滅してしまう可能性が高いんだよなぁ……。
伝説の怪物とまで言われているのなら、その身体をギルドに持ち帰れば、かなりの高額査定が期待できるのだが……。
だがその為に、余計なリスクを負うのは馬鹿らしい。
よし、最悪腕の1本でも手に入ればいいや。
私は掌にビームサーベルを形成して、悪魔と対峙する。
さすがにこれなら効くだろう。
そして悪魔に斬りかかる為に、踏み出そうとした瞬間──。
『もう……こんなところまで、人間が来るとはな……』
喋った!? しかも人間の言葉!?
……それだけ知能が高いということか。
……あと、「来る」というか、罠に引っかかって送られただけなんだが……。
だけど、あそこから脱出して、更にこの階層の魔物と戦ってまだ生きているというのは、あの悪魔にとっても想定外なのだろうな。
たぶんこの悪魔は、偶然近くに転移して来たのではない。
おそらく彼は、これ以上ダンジョンの攻略を進めて欲しくない──だからわざわざ我々を排除しに来たのだ。
つまりこのダンジョンの最奥には、この悪魔にとって何か大切な物があるということが推測できる。
「なるほど……。
あなたは想定外の侵入者の、様子を見に来た……ということですか?
そして、これ以上先には進ませたくない……と。
我々生かして帰さないつもりのようですが、一言で情報を漏らし過ぎですよ?」
『!!』
悪魔の気配が大きく膨らんだ。
図星を突かれて、怒ったか。
『滅せよ、下等な人間がっ!』
次の瞬間、悪魔が魔法攻撃を放った。
通路全体を覆い尽くすような、爆炎だ。
「くっ!」
この攻撃をマルガやキエル達のところまで、到達させる訳にはいかない。
私は広範囲に「結界」を展開し、爆炎を防ぐ。
衝撃は伝わってくるが、「結界」が破壊されるほどではないな。
この程度ならいける!
私は悪魔との間合いを詰めて、ビームサーベルでその脚に斬りかかる。
鉄格子をも斬り裂く私の斬撃だが、一瞬引っかかるような感覚があった。
結局斬り裂くことはできたが、完全な切断にまでは至っていない。
悪魔の皮膚は、鉄格子以上に強度があるということか!
これはもうちょっと本気でいかないと駄目だな。
私はビームサーベルの出力を上げて、再び攻撃に移ろうとしたが、悪魔の行動の方が速い。
今し方のダメージも、動きを阻害するほどではないということなのだろう。
ともかく、悪魔が勢いよく腕を振り下ろしてくる。
その太い腕による一撃を受ければ、普通の人間なら完全に潰れるだろう。
まあ、直撃すればの話だが。
私はその攻撃を躱し、同時に斬りつける。
『ガァッ!!』
今度こそ、その腕は切断できた。
しかし悪魔はそれに怯むことなく、至近距離から爆炎の魔法を撃ち込んでくる。
さすがにしぶといなぁ!
「うわっ、危な……っ!」
私はその攻撃を「結界」で防御しつつ、距離を取る。
……って、あの悪魔、切り落とした腕が、早くも再生し始めてない?
こりゃ、長期戦で相手の体力を削り切るというのは、難しいか。
つまり私が悪魔をどんなに弱らせても、マルガやキエルにトドメを任せる手は、リスクが大きくて使えないということだ。
彼女らの攻撃力では、決定打を与える前に回復されるのがオチだろう。
やはり私が、しっかりとトドメを刺すしかない。
さ~て、ここからが本番だな。