20 未知の領域
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夜のダンジョンの天井を──。
私達は天井を見ながら、歩いていた。
そこに脱出路があると、推測しているからだ。
おそらくここって、転移の罠の送り先として造られた空間なのだと思う。
このダンジョンは内部で死んだ生物等をエネルギー源として維持されているっぽいから、転移の罠の餌食になった者を、ランダム転移させてダンジョン外に飛ばしてしまっては、エネルギーが回収できなくなってしまう。
故に転移先を固定する為に、こういう空間が必要だったのだろう。
そして更に効率よくエネルギーを回収する為には、落とし穴の罠の底としても、この空間を活用しているのではないか──私はそう考えた。
つまりこの空間は、上の階からボッシュートされた冒険者や魔物を閉じ込める為の場所でもあるのだ。
だから天井に落とし穴の仕掛けがあるのではないか──と、探している訳だ。
そしてそこを壊せば、上の階へと脱出することもできるだろう。
で、暫く進むと予想通り、天井に違和感がある部分を発見することができた。
「ありました!
あそこから脱出できるはずです」
「でも……どうするの?
あそこまで10mくらいあるんだけど……」
「ああ、それはこうすればいいのですよ。
ふんっ!」
「にゃっ!?」
私はジャンプする。
イメージ的には、世界一有名な配管工が、頭上のブロックを崩す感じで。
キノコとかでてこないかな?
……いや、これはどちらかというと──、
昇ー●ー拳っっっ!!
対空技ですな。
私の振り上げた拳は、天井にある落とし穴の蓋を跳ね上げて、上の階への突破口を開いた。
そして私自身は上の階まで突き抜けたので、そのまま床に着地する。
それから索敵で周囲の安全を確認してから、下の階へと呼びかけた。
「それでは、これから引き上げますよー!」
「凄……っ!!
でも、どうやって?
ロープを持ってるの?」
「いえ、魔法を使います。
この距離なら転移でも大丈夫でしょう。
なるべく動かないで、じっとしていてください」
で、問題無く2人を転移させて、脱出は成功である。
このまま転移でダンジョンからの脱出も不可能ではないが、長距離転移はまだ経験が無いので、使わない方が無難だな。
そんな訳でダンジョンの探索を継続しつつ、上層へ向かうことにする。
「それにしても、ここは何階なのでしょうかねぇ……?」
「さあ……それはちょっと……。
ただ、魔物は下層にいる方が強い──って聞くから、魔物と遭遇すれば分かるんじゃないかな?」
なるほど……。
となると、万が一何十層も下へ送られていたとしたら、私はともかく、キエルやマルガでは太刀打ちできない敵が出てくる……という可能性もあるのか。
これは私が前衛で戦った方が、いいかもしれないな……。
「乗っ取り」が発動しないように手加減しながら……というのがメンドイが。
そして暫く進むと、索敵に反応があった。
「前から来ます!
4体……と、数はそれほどでもないのですが、大きいっ!」
現れたのは、全高が5mはあろうかという巨人だった。
大きさ以外は普通の人間って感じだが、それだけに厄介な相手だという印象だ。
剣や鎧で武装しているし、もしかしたら魔法だって使ってくるかもしれない。
その上であの巨体が発揮する力は、侮れないものであるはずだ。
「キエルさん、アレについて何か知っていることはありますか?」
「いや……巨人を見るのは初めてだよ……。
でも、巨人が出現するのは、47層より下だって聞いたことがあるよ」
ということは、ここが47層よりも更に下の階層だということはほぼ確定だな。
いきなり敵のレベルが跳ね上がっているのだから、キエルやマルガに任せるのは危ないかもしれない。
ここは安全策をとって、睡眠魔法に麻痺毒を重ねがけする。
すると4体の巨人のうち、3体が昏倒した。
ぬう……これでも1体は残るのか。
弱くは……ないな……。
「キエルさんとマルガは、倒れているのにトドメを刺してください。
私はまだ動ける奴を、抑えます!」
「いいけど、大丈夫!?」
「はい、抑えるだけなので」
そう、私はこの巨人を倒すつもりはない。
折角1体だけ残ったのだ。
練習台になってもらおう。
私は左手に装備している盾に対して、防御魔法である「結界」を施した。
そして巨人の前に立ちはだかる。
巨人は手にした剣で斬りかかってきたが、私は盾で弾いていなした。
ふむ……私は問題無いけど、キエルやマルガなら、「結界」をかけていたとしても、力負けして吹っ飛ばされるだろうな。
最悪の場合は、一撃で戦闘不能になるかもしれない。
だが、私が全部やってしまったら、彼女達の成長は無い。
私は暫く巨人の相手をして、息攻撃などの危険な全体攻撃が無いことを確認した上で、キエルとマルガへ任せることにする。
「キエルさん、マルガ!
あとはお願いします。
一応防御魔法はかけますが、直撃を受けたら瀕死になると思ってください!」
「分かった!」
「にゃー!」
それから2人と巨人の攻防は、30分近く続いた。
マルガの持つ弓矢やナイフでは、巨人の硬質な皮膚に決定的なダメージを与えることができず、チョロチョロと動き回って、巨人を翻弄することしかできなかった。
そしてキエルの剣での攻撃は、一応巨人の皮膚を切り裂いてはいたが、オークを両断した時のような、劇的な効果は見られない。
一応勝つには勝ったが、辛勝……といった感じである。
……これは本人達の成長も必要だが、装備をもっと強力な物にしないと、今後は通用しないかもしれないな……。
というか、敵1体に対して辛勝って……。
私の手が塞がっている時に集団で襲われたら、詰むぞこれは……。
そうならないようにする為にも、これからビシバシと2人を鍛えないといかんな!
「皆さん、よく頑張りました。
でも、まだまだ頑張ってもらいますよ……!」
「あれ……?
レイちゃん、目が怖いよ……?」
「あ、山で修行していた時の目にゃ……」
2人が不安に戦いている。
うん、ごめんな……。
だけど、これからが本当の地獄なんだ……。
次回は明後日の予定です。