17 流 血
ブックマーク・☆での評価・感想をありがとうございました!
次に私達が気がつくと、何処かの通路にいた。
幸いにも石の中に放り込まれるということは、なかったようだ。
もしも石の中だったら、いくら私でも死亡していた可能性が高いのだから、運が良いと言える。
まあ、例のゲームだったら、死ぬ前に再び転移をすれば助かる場合もあるが、実際に試すような状況はさすがに御免こうむる。
しかし……どうやらまだダンジョンの中のようだが、どの階層のどの辺にいるのか、全く分からない。
これは脱出に手間取るかもしれないな……。
自分の位置がハッキリしない状態で更に転移するのは、失敗を誘発しかねないし……。
「すいません……。
私が罠を踏んでしまったようです」
私はマルガとキエルに頭を下げた。
今日はずーっと違和感があって、集中力も散漫だった。
こうなる前に、帰路についていれば良かったのだ。
「いや……みんな無事だったからいいよ。
むしろレイちゃんでもこういう失敗があるんだって、うちはちょっと安心したよ。
うちなんて、もっと失敗しているんだからさぁ」
「キエ姉の言う通りにゃ!」
「皆さん……ありがとうございます」
みんなは許してくれたが、最悪の場合は命に関わることだ。
その優しさに甘えてばかりはいられない。
取りあえず周囲に敵の気配は無いが、いつまでも安全だとは限らないので、早めに上層へ戻る手段を確保した方がいいな。
とはいえ、やれることと言えば、罠に気をつけながら探索を続けることくらいだが……。
早期に上に行く為の階段が見つかれば、それで良し。
見つからなければ、ダンジョン内でキャンプをすることは避けられないだろう。
まあ、キャンプとは言っても、いつ魔物に襲われるか分からないダンジョン内では、テントや寝袋を使っている余裕は無い。
見張りを立てて交代しながら、床にごろ寝するのが精々だろう。
全然ゆるくない、ガチ以上にガチのやつです。
……野宿とも言う。
いずれにしても、まずは周囲のマップを確認して、1番安全そうな場所を見つけてからの話だ。
「まずは先に進んでみないと、何も決められないね」
と、言う訳で、探索を進めることにした。
で、暫くダンジョン内を進んだのだが、階段が見つからない。
それどころか──、
「なんだか、同じところをぐるぐると回っているような気がしません?」
「うちも……そんな気がするよ……」
ダンジョンの壁や床には、傷などを付けて目印を作ってもすぐに修復されてしまうので確認できないが、どうも先に進んでいる感じがしない。
何処までも同じような見た目の通路が続くばかりだ。
私の脳内に作ったマップで確認して見ても、四角形を描くように繋がった回廊の中に私達はいるようだ。
回転床などで方向感覚を狂わせるような罠でも無い限りは、これであっているはず……。
もしかしなくても、出口の無い場所に閉じ込められている!?
ここは空間転移の罠に引っかかった者達を、閉じ込める為だけに作られた空間なのか?
ええええ……なんてえげつない……。
脱出する手段が無いと飢え死にするしかないから、下手をしたら「石の中にいる」で即死の方がマシだぞ……。
これは一か八かで、転移魔法を使って脱出するしか無いのかぁ?
いや、それは最終手段だ。
「何処かに隠し扉のようなものが、あるのでしょうかね……?」
「うん……それを探した方が良さそうだね」
この場所が人工的に作られた場所であるからには、作る過程で確実に人が出入りしていたはずだ。
おそらくその出入り口は、完成後に塞がれた可能性が高い。
その出入り口のあった場所なら、他の場所よりも壁が薄いはずだ。
私の力なら、その壁を破壊して脱出することも可能だろう。
だが、まずは位置の特定だ。
打音検査で、地道にやるしかないな……。
「では壁や床を叩いて、音がおかしなところを見つけましょう」
「にゃっ!」
それから、地味な単純作業が続く。
それが2時間ほど続いただろうか。
体力的な余裕があっても、精神的には酷く疲れるぞ、これ……。
「くっ!」
私はつい苛ついて、八つ当たり気味に壁を蹴った。
その瞬間──、
「っ!?」
股間から何かが漏れるような感覚が……。
え、尿漏れ!?
私は慌てて、穿いているズボンの股間を見ると、そこは赤く染まっていた。
なんじゃ、こりゃああああぁぁぁぁぁぁ!?
「ちょっ……え?
血……っ!?」
ま……まて、取りあえず落ち着け。
まずは深呼吸をして、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー。
……いや、なんか違う。
素数を数えて落ち着こう。
1192年作ろう鎌倉幕府、 710年見事な平城京──。
……あれ? 素数ってなんだっけ!?
「あれ? あれ? あれええええぇぇぇ!?」
「レイ姉、怪我をしたのかにゃ!?」
「え、レイちゃん、どうしたの!?
って、あ────!!」
駆け寄ってきたキエルが、私の惨状を見て、すぐに事情を察したようだ。
「もしかしてレイちゃん……初めてなの?」
そうだね、こんな事態は初めてだ。
ああ……そうか、今日感じ続けていた違和感の正体は、これだったのか。
たぶん私には色々な耐性があるから、あまり苦痛に感じていなかったが、ずーっと身体の調子が悪かったんだ……。
「そ、そのようです……」
……どうやら今晩は、お赤飯を炊かなければいけないらしい。
餅米とかの材料は無いがな。
ちなみに私は、北海道式の甘納豆が入っているのが、割と好き──と言うと、「甘いのが駄目」と、異議を唱える人も多いかもしれないが、でもおはぎの延長だと思えばいける。
いや、今はそんなことを言っている場合じゃない。
……まさかこのタイミングで、初潮が来るなんて、想定外だよ……っ!!
今回からTS物としては避けて通れない、センシティブな内容になりますが、ある意味最大のピンチです。
なお年号の語呂合わせは、現在では違いますが、「私」が習った時代ではそうだった……ということです。