閑話 Sランク冒険者は知りたくなかった
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今回は異世界物なら1度はやってみたかったネタです。
俺の名はドラグナ。
クラサンドの町で、唯一のSランク冒険者だ。
ただ、Sランクになれたのは、全て俺が持つスキルのおかげだと言ってもいい。
俺が持つスキルは「鑑定」──相手の能力などの情報を分析して、視覚化する能力だ。
何故情報を読み取って分析できるのか、その理屈は分からないが、とても便利で強力な能力だ。
それだけに所持している者は、国に1人いるかどうかというほど、レアなスキルだ。
いや、俺のように他人に隠している者もいるだろうから、実際にはもっと多いのかもしれないが。
なにせこの能力があれば、正体不明の間者の正体とかも、簡単に看破できる。
国にとっては喉から手が出るほど欲しい能力だし、国に知られれば一生監視されることになってもおかしくない。
だからこのスキルを所持していることを、隠す者は多いという。
で、この能力によって俺は、勝てないと分かった相手とは絶対に戦わなかった。
逃げて、逃げて、逃げ続けて、常に生き残っていたら、いつの間にかSランクになっていた。
確かに俺と一緒に逃げた者達の命が、数多く助かったのも事実だ。
その功績が故の、Sランクなのだろう。
だが、見捨てた命も多い。
俺の忠告を聞かずに、勝てない相手に戦いを挑んで命を散らした冒険者を、俺は何人も見てきた。
そんな俺には、Sランクの地位は重すぎると感じている。
そしていよいよSランクの地位を捨てて、田舎に帰りたくなるような事態が発生した。
最初は俺のクランに所属する冒険者・ハゴータが、俺に泣きついてきたことが切っ掛けだった。
こいつは素行が悪くて、よく問題を起こしているが、それでもクランの所属メンバーとして、一定額の上納金を納めている以上、助けを求められたら動かない訳にもいかない。
しかしその問題というのが、小さな獣人の女の子と揉めて、怪我をさせられたとかなんとか……。
実に頭が痛くなるような内容だった。
そんなのは恥ずかしくて、普通は人に言えないぞ。
だが、本来はそういう問題を自力で解決するのも、有能な冒険者の条件ではあるのだが、遠慮無く他者に頼るというのも、生き延びる上では間違った戦略ではないのも事実だ。
ともかくハゴータは、何らかの報復をしないと気が済まないようだ。
しかしいくらなんでも小さな女の子に対して、酷く痛めつけるようなことをすれば、今度は俺の名誉に傷が付く。
精々厳重注意が、いいところなのではなかろうか……。
いや……この実力主義が全てで、自己責任が当然の冒険者の世界だ。
子供が相手ならなおのこと、厳しい現実を見せつけて、この道を諦めさせるのも優しさなのかもしれないがな……。
だが、わざわざ嫌われ役を演じたくもないな。
なるべく穏便に済ませよう……そう思っていたのだが、件の女の子達が、また問題を起こしたという。
丁度近くにいたので現場に出向いてみれば、そこには化け物がいた。
まず比較対象として、ハゴータと揉めたキエルと獣人の子の鑑定結果を見てみよう。
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●キエル・グランジ 17才 女 人族
生命力 332
魔 力 132
攻 撃 286
防 御 227
体 力 266
精 神 161
信 仰 276
速 度 174
器 用 277
運 301
●所持スキル
剣術LV7 格闘術LV4 狩り術LV3 植物採取LV4
調理LV3 探索LV6 気配察知LV4 隠密LV3
身体強化LV2 防御強化LV2 苦痛耐性LV4
回復促進LV1 毒耐性LV2 麻痺耐性LV3
投擲LV3 魅了LV4 巨乳LV2 空間収納LV1
●称 号
揺れ動く運命 追放者 強さを追及せし者
聖母の卵 中堅冒険者 使徒の義姉
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この若さで既に、実質Bランク上位を狙える実力があるな。
これは将来有望だ。
そして獣人の子の方もこうだ。
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●マルガレテ 8才 女 上位猫型獣人族
生命力 182
魔 力 54
攻 撃 101
防 御 62
体 力 234
精 神 98
信 仰 34
速 度 356
器 用 251
運 184
●所持スキル
夜目LV5 爪攻撃LV3 霊視LV2 魅了LV3 天候予知LV2
気配察知LV6 弓術LV8 狩り術LV7 格闘術LV6
五感強化LV6 筋力強化LV5 毒耐性LV2 苦痛耐性LV3
植物採取LV5 農業LV2 罠設置・解除LV3 風魔法LV2
土魔法LV1 短剣術LV1 空間収納LV1 探索LV1
●称 号
愛らしき者 使徒の義妹 新米冒険者
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……魔力と防御と信仰は低いが、速度が飛び抜けているので、大人の獣人と比べても遜色ない身体能力だと言えるだろう。
しかしそれだけなら、Bランクのハゴータが一方的に負けるということはないように思える。
問題なのはスキルの多さと、そしてレベルの高さだ。
その幼さでは有り得ない充実具合は、余程いい師匠と実戦経験の機会に恵まれたのだろう。
これならBランク相当の実力は間違いない。
ハゴータとは相性で勝った……という感じか。
この2人の少女だけでも瞠目に値する才能なのだが、もう1人の方は異常としか言いようがなかった。
最初は、
「くぁwせdrftgyふじこlp」
と、意味不明の表示がされたので、スキルが誤作動したのかと思ったが、もうちょっと気合いを入れて鑑定した結果、分かったのがこれだ。
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●レイチェル(仮) 12才 女 依り代
生命力 531084
魔 力 188974
攻 撃 68974
防 御 43451
体 力 218237
信 仰 12
精 神 112600
速 度 19854
器 用 7478
運 9999
●所持スキル
魂の融合LV99 前世の知識・再現力LV7 天然LV3
狩り術LV10 万能感知LV10 毒魔法LV10 万能耐性LV10
遠吠えLV6 酸生成LV6 吸収LV5 分裂LV1
風魔法LV10 飛翔LV3 身体強化LV10 魔力増幅LV6
自動回復LV7 立体機動LV4 収奪LV4 発光LV3
蜘蛛糸LV8 水魔法LV10 土魔法LV10 変形LV2
石化LV2 水中生存LV4 思考加速LV4 威嚇LV5
投擲LV5 隠密LV8 予見LV3 雷撃LV9 擬態LV4
植物操作LV7 休眠LV3 操影LV8 大食LV6 邪眼LV3
掘削LV6 生物使役LV5 気操作LV5 防御強化LV6
熱線LV10 炎魔法LV7 天候予知LV5 霊視LV2 営業LV2
魅了LV8 性技LV3 共鳴LV47 言語理解LV6 歌唱LV6
剣技LV3 調理LV5 毛繕いLV10 画力LV4 子育てLV4
弓術LV8 罠設置・解除LV6 農業LV6 空間収納LV5
回復魔法LV6 空間転移LV4 結界LV4 浄化LV3
精神魔法LV3 オートマッピングLV3 探索LV2
●称 号
転生者 百合を愛でし者 ネズミ狩り スライムの虐殺者
世界を彷徨いし者 獣の王 亜人の支配者 高貴なる者
竜を屠りし者 断罪者 自立する天国 文化の特異点
新米冒険者 3姉妹のリーダー 女神の使徒
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生命力53万って!?
最強の魔物の1つに数えられる竜ですら、多くても10万前後だと言われているのに、こんなのは見たことも聞いたこともない。
この常軌を逸した数値……最初の鑑定に失敗したのも当然だ……!
しかも所持しているスキルの数が尋常ではない上に、その多くが限界まで鍛え上げられているものが多い。
こんなの、いくつもの国が連合を組んで総攻撃しても、勝てる気がしないぞ!?
なんだこれは……魔王がお忍びで町に遊びに来たのか!?
……いや、「女神の使徒」なんて称号を持っているからには、邪悪な存在ではないと思う……。
いや、その女神が、邪神とかなら話は別だが……。
信仰の異常な低さも気になる……。
ただこの少女、暴れはしたが、力は限界まで抑えて使っていると思う。
そうでなければ投げ飛ばされた男は、床に埋まる程度では済まなかっただろう。
彼女の全力ならば、彼の身体は原形をとどめなかったどころか、この冒険者ギルドの建物が倒壊していてもおかしくなかったはずだ。
おそらく少女自身も、争いごとを望んではいない。
「火の粉が降りかからない限りは、大人しくしていますよ?」
その言葉、信じるからな!? 絶対だからな!?
とにかく俺は、この少女に対しては何人たりとも手を出させないように、全力を尽くそう。
ハゴータはまだ文句を言っているが、これは俺だけの問題ではない。
最悪この町──いや、もしかしたらこの国が滅びるかもしれない問題なのだ。
あの少女は、絶対に怒らせてはいけない!
……はぁ。
こんな現実、知らなければ、まだもう少しは気ままに暮らしていけただろうに……。
こんな鑑定の能力なんて、欲しくなかった……。
鑑定結果は、本人達からは確認できないので、自分では気付いていない真実や能力もあります。
つまり、本当は使えるけど、使い方を知らないスキルとかが結構あるという……。
それと、通常はスキルLVの上限は「LV10」までです。
希に限界突破する超人もいますがね。
なお、パラメータについては、
生命力=HP 0になると死ぬ。
魔 力=MP 0になると魔法が使えなくなり、気絶する。
攻 撃=筋力など装備抜きでの数値。
防 御=肉体の頑強さなど装備抜きでの数値。
体 力=どれだけ動き続けることができるかの数値。疲労や空腹などで減る。
信 仰=高いほど神々や精霊の力を借りる魔法に補正がかかる。
精 神=高いほど魔法適性があり、魔法の扱いに長ける。
速 度=攻撃・回避・逃走など、色々な面で重要。
器 用=攻撃の命中率や、道具の扱い、罠の解除の成功率などに影響する。
運 =高いほど死ににくいが、激動の人生になる場合もある。
……こんな感じ。