15 お風呂は乙女の嗜み
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宿屋に帰り着いた私は、ベッドの上に転がっていた。
なんだか精神的に凄く疲れたよ……。
1日ただ働きは、正直言ってちょっと堪えた。
まあ、キエルは床の弁償代を半分を出してくれるとは言っていたけど、さすがに私が壊した物は、私が払わなきゃ筋が通らないので、丁重にお断りした。
私から見ればあの連中も悪いが、客観的に見れば実際に暴れて、相手を一方的に叩きのめし、そして床を大破させてギルドに損害を与えたのは私自身なのだから、私が責任を取るのは仕方がない。
今回は咄嗟のこととはいえ、やり方が悪かった。
未だ人権意識の低いこの異世界ならば、相手に怪我をさせただけならば、お咎めなしだった可能性は高い。
たぶん「よくある冒険者同士の喧嘩」で済まされただろう。
だから次の機会は、もっと上手くやろう。
ん……そろそろ予約の時間かな。
ちなみに、正確に時間を計れる時計が無いので、体内時計でなんとなくという判断だ。
この世界にはまだゼンマイ仕掛けの時計は発明されていないようだが、魔法によって動く時計はあるらしい。
だが、それは一般庶民が買えるような価格ではなく、それ故にこの世界の大半の人間は、時間を正確に知る術を持っていない。
時間にうるさい本日本人としては、そんな時間にルーズな社会では不便に感じるので、いずれ時計を作って世界に広めよう。
それはともかく、いよいよ予約していた入浴の時間である。
「……さて、私はお風呂に行きますが、マルガは本当に行かないのですか?」
「水に濡れるのは嫌にゃ~」
相変わらずである。
「もう……後で全身に櫛を入れて、綺麗にしますよ?」
あとは、自分でも綺麗にできるように、浄化の魔法を覚えさせた方がいいかもな……。
「それではお留守番、お願いしますね」
「はいにゃ」
そしてお風呂の脱衣所に来た私は、服を脱ぐ。
ちょっと心配になるほど白く細い裸身が露わになり、ちょっとドキッとした。
今は自分の裸だけど……完全に児童ポ●ノです。
ただ、この身体にどうこうしようという気にはなったことは、ただの一度もない。
私がロリコンじゃないから……というのもあるのかもしれないが、男の欲望に曝され続けていたこの身体を、更に欲望で汚していいのか……という想いがある。
それが無ければ、私にとって未知が満ちあふれた女の子の身体だ。
色々と試して、日課三昧になっていたことだろう。
だが現状では、えっちなのはいけないと思います!
……そう言わざるを得ない。
ある意味では、私はまだこの身体を自分の物として、受け入れることができていないのかもしれないな……。
私は大きく嘆息し、そして洗い場に向かおうとしたその時、
コンコンコン
──と、入り口をノックする音が聞こえた。
「レイちゃん? うちも入っていいかな?
ちょっと汗をかいちゃったからさぁ~」
「キエルさん!?」
え……、なにこの思わぬトラブる。
私としては、巨乳美少女との混浴なんて、願ってもないことだけど……。
本当にいいのですか!?
「え……ええ、いいですよ?」
私は身体にバスタオルを巻いてから、入り口の鍵を開けた。
……はい、レイレイです。
ただいまキエルに、背中を流してもらっています。
なにこのプレイ?
後で料金とか請求されない?
勿論、キエルの裸も見たよ。
凄い! デカイ!
そして綺麗!
ありがとう、そしてありがとう!
あなたが神か!
マジでキエルの裸体は神々しかった。
これはハゴータみたいな悪い虫が言い寄ってくるのも、分かるわ……。
しかし私と言えば、こんな思わぬ幸運というか、慣れない状況に一杯一杯になっている。
女の子と裸の付き合いなんて、経験無いもん!
どうしたらいいのか、分からないよ!?
「レイちゃん、気持ちいい?」
「は、はひっ!
そうですね!?」
いかん、緊張でどうしても挙動不審になってしまう。
「さ~て、身体を洗い終わったから、一緒に湯船に浸かろうかぁ!」
「いっ、一緒にですか!?
さ……さすがに狭いのでは……?」
「大人2人ならそうかもだけど、うちとレイちゃんなら丁度いいと思うよ」
そうかな……そうかも(凹凸の無い身体を見ながら)。
「そうですね……それではどうかよろしくお願いします!」
「ふふ……なにそれ」
そんな訳で、私はキエルと湯船に浸かっているのだが、もう湯加減とかはよく分からなかった。
もう背中にキエルの胸が「あててんのよ」状態なので、それどころではない。
これは背中に意識を全集中せざるを得ない。
つか、のぼせて鼻血を吹いてしまうのも、時間の問題のような!?
だがそれで失血死してもいい。
我が生涯に一片の悔い無し!
「あの……レイちゃん……。
大丈夫……?」
ほわっ、私の挙動不審を怪しまれた!?
「え、なんですか?
狭くは、ないですよ!?
丁度……いいかも、です!?」
「いや……そうじゃなくて……。
ギルドで、あの男を投げ飛ばした時、凄く怖がっていたでしょ……?」
「あ……」
レイチェルの身体が拒絶反応を示していたことに、気付いていたのか。
「うちもゴブリンに襲われかけたから、男の人って苦手なんだけど……。
レイちゃんも、奴隷商に売られたこともあるって言ってたから、男の人に触られるの、嫌なのかな……って思って。
ううん、もしかしたら、今うちと触れ合っているのも、本当は怖いの?
なんか……ずっと様子がおかしかったし」
ああ……もしかしてキエルが急に一緒にお風呂に入ろうって言い出したのは、私のことを心配して、慰めてくれようとしていたのかな?
「いえ……キエルさんは大丈夫ですよ。
ただ、人と一緒にお風呂に入る経験が無かったので、少し取り乱してしまいました」
「そ、そう、それなら良かった!
うちはまだ、レイちゃんどころか、マルガちゃんと比べても頼りないかもしれないけど、怖い男からレイちゃんを守れるように頑張るから、これから何かあったら、なんでも話してね!」
聖女かよ……。
こんなの惚れてしまうやろ……。
「……ありがとうございます」
私は全幅の信頼を寄せて、キエルの胸に身体を預けた。
不思議と、先程までの緊張感や興奮などが消えて、心は落ち着いている。
ああ……久しぶりに私、心から安心しているんだな。
「私、キエルさんとパーティーが組めて、本当に良かった……」
気が抜けたのか、目が涙で潤んできた。
恥ずかしいので、キエルには気付かれなきゃいいけど……。
あ……無言でキエルが私の頭を撫でてきた……。
これ、気付かれているかも……!
私は証拠隠滅する為に、お湯の中に顔を突っ込んだ。
次回は閑話です。明後日の更新予定。