11 魔法の実験
ブックマーク・☆での評価、ありがとうございました。
囁き──無詠唱──祈り──回復!
オークに回復魔法をかけてみると、切断されて喪失したはずの手が生えてきた。
「おお、トカゲの尻尾みたいにゃ」
そうだね。
でもこの回復魔法は、そんな再生能力を元から持っていない生物に対しても、同様の効果があるようだ。
ふむ……喪失した部分まで復活するとは、回復力を高めていると言うよりは、復元している感じかな?
つまり、身体の何処かに──あるいはアカシックレコードみたいな場所に、正常な肉体構成の情報が記録してあって、それを読み取って損傷部分を再構築している……みたいな?
まあ、詳しい原理は推測の域を出ないが、魔法書の説明通りにやったらできたので、それで良しとしよう。
それじゃあ次に私は、右手の人差し指の爪を鋭く伸ばす。
そして未だに何が起きているのか把握できていないオークの身体にそれ突き刺し、毒を注入してみる。
ポチッとな。
「ブモッ!?」
オークが小刻みに痙攣して苦しみ出す。
死には至らないが、苦痛と麻痺を与える2種類の毒だ。
それでは、解毒の魔法を試してみよう。
オークの痙攣が止まり、大人しくなった。
ふむ……効果があるようだな。
だが、麻痺は解けていない。
どうやら麻痺は、通常の毒と別枠のようだ。
まあ、麻酔みたいなものだし、用途によっては有益だもんな。
それじゃあ次は、麻痺解除の術を──
「あの……レイちゃん、何をしてるの?」
私が実験に集中していると、キエルが声をかけてきた。
ちょっとドン引きしているように見えるのは、気の所為だろうか。
「魔法の練習ですよ。
昨日習得したばかりのものがあるので、効果を試していました」
「えっ、でも詠唱とか、全然しなかったじゃん!?」
キエルが驚いた顔をしているけど、私には無詠唱が当たり前だからなぁ。
「おかしなことを言いますね、キエルさん。
魔法に詠唱なんて、必要ありませんよ?」
「でも普通は、詠唱しないと無理なんじゃ……」
いちからか?
いちから説明しないと駄目か?
「いいですか、考えてもみてください。
魔物だって魔法を使ってくるでしょ?
でも、魔物が言葉を使いますか?」
「はっ!?」
使います。
人間が言葉と認識していないだけで、魔物にも言葉はある。
それはゴブリンでも証明済みだが、逆に言えばどんな言語による詠唱でも、魔法は問題無く使えるということでもある。
そしてどんな言語でもいいのなら、そもそも魔法の発動に言葉は必須なのか?──ということになる。
事実、ヘビやスライムのような、本来は声を出すこともできないような生物でも、魔法を使うことはできた。
まあ、ややこしくなるので、その辺についてはキエルに説明はしないけど。
それでも、彼女は納得してくれた。
「あっ、そうか!」
「はい、コツさえ掴めば、無詠唱でもいけます。
今度キエルさんにも教えましょうか?
マルガでも初歩的なモノなら使えますから、不可能ではないはずです」
「え……うちが魔法?
うちは剣士だけど、できるのかな?」
「まあ、才能は必要かもしれませんが、空間収納くらいは使えた方が便利ですよ?」
私は空間収納を発動した。
すると空間に裂け目が生じる。
そして既に死亡しているオークの身体を、その中に収めることにした。
回収! オークは回収です!
対象を指定して、掃除機のように吸い込むだけの簡単な作業だ。
ちなみに血抜きや解体などの食肉加工の作業は、血の臭いなどで他の魔物が寄ってきて危険なので、基本的にはダンジョン内ではやらないのが鉄則らしい。
肉の鮮度は落ちるけど、しゃーない。
「オークは素材として売れるのですよね?」
「ああ……食用肉としての需要はあるね」
…………もしかして、冒険者ギルドの食堂で食べたあのステーキは……。
まあ、今まで色々と食べてきたんだ。
気にしないでおこう……。
「この通り、素材を多く持ち帰れば、それだけ収入に繋がりますよ?」
「そうだねぇ……。
じゃあ、後で教えてもらおうかな?」
「はい、ではそのように……。
さて、キエルさん。
これから最後に残っているオークの麻痺を解除するので、動き出したらあなたがトドメを刺してくれませんか?」
「え? レイちゃんがやらないの?」
キエルが「なんで?」って顔をしているけど、これについてはしっかりと理解してもらわないと、今後も困ることになる。
「その……私はこうなので」
私は何も無い床に、風の魔法を撃ち込む。
するとその床が、ズタズタに引き裂かれた。
これをオークに対して使えば、原形をとどめないだろう。
「この通り、素材が台無しになってしまうと思います……」
「すご……っ!
って……手加減できないの?」
「私は……生き物の命を奪う時、その身体を完膚なきまでに破壊しないと、私自身が死んでしまうと言う、特殊な呪いを受けています。
だから敵にトドメを刺す時は、常に全力でなければなりません。
まあ、例外もありますが……」
「え……マジ?」
「マジです」
勿論嘘である。
「乗っ取り」が発動する機会が減ることを、極力減らす為の方便だ。
「そうだったのかにゃ?」
し~っ!
マルガは黙っていてっ!!