8 宿屋で準備
ブックマークと☆での評価、ありがとうございました。
「それでは、これからよろしくおねがいします」
「よろしくにゃ!」
「うん、よろしくね」
パーティーを結成した私、マルガ、キエルの3人は挨拶を交わした。
しかしこれですぐに、冒険開始という訳にはいかない。
まずは……、
「あの……済みません。
私達は今日この町に来たばかりなので、良い宿屋を知りませんか?」
と、キエルに宿を紹介してもらうことにする。
「いいよ。
うちが泊まっているところを、教えてあげる」
で、案内されたのが、少し古ぼけてはいるが、そこそこ大きな宿屋だった。
だが──、
「え……?
『血塗れの斧亭』……?」
物騒な名前ぇっ!?
ええぇ……?
異世界では、これが普通なの……?
なんだか深夜に斧で寝込み襲われるとか、スプラッター映画みたいなことになりそうで怖いんだけど……。
「変な名前だよねぇ。
なんでも初代オーナーが、戦斧の使い手の元戦士で、戦場で沢山の血を斧に吸わせたってのが由来らしいよ」
ああ……店主の武勇伝を、そのまま店名にしちゃったのか……。
良かった……これが異世界の当たり前でなくて……。
「ここは部屋を1月借りても、食事付きで銀貨10枚ちょっとだよ」
ふむ……食事付きでも2万円くらいか。
悪くはないな。
「そうですね。
取りあえず数日泊まってみて、決めましょうか」
その後、宿泊の手続きを終えた私達は、キエルに宿の中を案内してもらった。
まずは、1番重要……というか使用頻度が高い場所。
「ここのトイレは共用だよ」
むう……当然だけど、水洗式ではないのだな。
となると、汲み取り式かな?
その割には、臭いはしないけど……。
魔法とかで浄化している?
「!?」
私が便器の中を覗き込んでみると、数mほど下で何かが蠢いているのが見えた。
「こ……これは……?」
「なんかいるにゃ」
「ん? スライム式は初めて?」
「スライム式っ!?」
「田舎だと肥料にするから汚物は貯めているけど、都会だと衛生面を考えて、スライムに食べさせて浄化してもらっているところも多いよ」
「へ……へぇ~……」
元スライムとしては、凄く複雑です……。
というか、大丈夫なの、これ……?
私が知ってるスライムだったら、このくらいの穴なんて、簡単に脱出できそうなんだけど……。
種類が違うのかな……?
これは落ち着いて使えるようになるまでは、ちょっと慣れが必要そうだ……。
ただ、もしかしたら地球の公衆トイレよりも清潔そうなので、それはありがたい。
「あと、こっちに浴室があるよ」
「えっ、お風呂があるんですか!?」
「うん、予約制で、別料金だけどね。
誰でも自由に入浴していたら、あっという間にお湯が汚れちゃうから、1日5組限定だって」
むう……元日本人としては、毎日お風呂に入りたいけど、5組限定の予約制だとそうもいかないか……。
そもそも、むさ苦しいおっさんが使った後は、できれば使いたくないんだけど……。
う~ん、常に一番風呂を予約することって、どうにかできないものなのだろうか。
それが可能なら、宿代を倍額払うことも考慮するが。
いや……それならお金を貯めて、一軒家を借りた方がいいかな……。
いずれにしても、久々のまともなお風呂は、今から楽しみだ。
それはとっても嬉しいな……って。
「マルガ、今度一緒に入りましょうね」
「嫌にゃ!」
「…………」
……さすがネコ娘は水嫌いだな。
思えば山での暮らしでも、お風呂や水浴びは嫌っていたからなぁ……。
今まで通り、毛繕いと、濡れた布で身体を拭いて清潔にしてあげるしかないな。
まあ、「浄化」の魔法書も買って来たから、それが使えるようになったら、それでもいいが。
でも、凄く汚れた時には、強制的に丸洗いするよ!
次に私達が泊まる部屋へ行く。
そんなに広くはないし、ベッドも1つだけだが、小さな身体の私とマルガが寝泊まりするだけなら十分だろう。
「シーツとかが汚れたら、有料で交換してもらえるよ。
服の洗濯もお願いできるし」
ふむ、なんだかんだで追加料金はかかるんだな。
だが、自分で洗濯をする必要が無いと思えば楽か。
なかなかよいではないか。
「案内、ありがとうございました。
それではここで、冒険の準備を整えたいと思います」
「うん、後で呼びに来るから、一緒に夕食を食べようね」
「はい、分かりました」
さて、買って来た魔法書を読んで、魔法の練習をしようか。
とにかく最優先で習得しなければならないのは、空間収納だな。
これの有無で、ダンジョン内から持ち帰れる戦利品の量が、劇的に変わるはずだ。
つまり収入に直結する。
まあ、魔法自体は今まで使っていたから、使い方さえ分かれば、習得は難しくないと思うけど、「乗っ取り」を介せずに正規ルートでの習得は初めてだから、実際にやってみないと分からない。
どれどれ……ん? 詠唱が必要なの?
いや、いらないでしょ。
私は今までに1回も使ったことないし。
ふむ……魔力をこうして……こうやって……いや違うか。
……う~ん……。
じゃあこうやって……おっ、いけそう。
あの術の応用だな。
「どうにかなりそうですね。
後でマルガにも教えますから、しっかり習得するんですよ」
「はいにゃ!」
そんなこんなで、2時間ほど魔法の練習をしていたら、キエルが夕食のお誘いにきた。
今日は更新しない予定でしたが、1000ポイント達成記念ってことで更新することにしました。
というか、この辺の展開はちょっとゆっくりなので、話を進めたいな……というのもある。