5 交錯する運命
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「だけどよぉ……。
お前、何処にも行き場所が無いんだろう?
そんなお前に対して俺ぁ、親切に声をかけてやっているんだぜ?」
と、勧誘しているのは、若く軽薄そうな男だった。
容姿は金髪碧眼で悪くないが、いかにも性格が悪そうだ。
私なら、お近づきにはなりたくないな。
一方、勧誘を受けているのは──、
「う、うちが他のパーティーに居づらくなったのは、お前の所為だろ!?
うちの変な噂を流したの、お前なんだろっ!?」
こちらはまだ顔にあどけなさがあるけど、胸部装甲を見る限り、立派な大人の女性だな。
17……か18才くらいか?
栗毛の髪をポニーテールにしていて、顔にそばかすが薄らと残っている。
…………んん?
あるぇ? なんだか凄く見覚えがあるような……。
「噂……って、お前がゴブリンに攫われたことがある……って話か?」
うっ……わ、超知ってる。
あの時の娘か!!
前に見た時はまだ子供って感じだったけど、この2年で凄い育ってるな!?
特に胸が!
一方私は──、
……まるで成長していない……。
くっ!
「そしてゴブリンに操られて冒険者の集団をおびき出して、危うく全滅させかけた……って?」
なにそれ、そっちは知らない!?
確かにあの状況は、一歩間違えれば冒険者達が全滅していた可能性もあるけど、それは彼女の所為ではない。
単純に、冒険者達の実力が足りなかっただけだ。
「違うっ! うちはそんなことしてないっ!!」
「だけど、ゴブリンに攫われたことだけは、事実なんだろぉ?
お前と同じ故郷の奴らに聞いたぜぇ?
そんな扱いに困る奴は、誰もパーティーを組んでくれないだろ?」
「だからっ、お前がそれを更に言いふらしたんだろっ!!」
「ハッハッ、知らんなぁ……」
ああ……ゴブリンに陵辱されたかもしれない女の子に、どう接すればいいのか──それが分からないという人は多いかもしれないな……。
腫れ物に触れるような、扱いになってしまうかもしれない。
しかも噂に尾ひれがついた状態なら、更に敬遠されるか……。
噂が真実かどうかなんて、現場にいた人間でもなければ、確認しようがないのだろうしね……。
でもだからこそ、行き場の無くなったこの娘をパーティーに入れれば、恩も売れるし、弱味も握れる。
そして上の立場から、彼女を支配することもできる──。
あの男の目的は、そんなところかな?
……はあ、レイチェルも領主達に陵辱されているから、全く他人事ではないんだよなぁ……。
私だって誰かから、ああいう噂を流されてもおかしくない。
だからこれは……見過ごす訳にはいかないな。
ましてやあの娘は、実際にゴブリンには何もされていない。
それなのに、事実でもないことで貶められて苦しむなんて……。
そんなの、許されていいはずがない。
私が許さない!
「不快ですね……。
食事が不味くなります」
「あ?」
「先程から聞いていれば、情けない……。
自分には手の届かない高嶺の花を貶めることで、自分にも手が届くようになるのではないか──そんな勘違いも甚だしい」
「なんだと、このガキ?
誰に向かって、言ってると思ってるんだ!?
B級冒険者のハゴータ様だぞっ!!」
羽子板?
知らんがな。
見た目は子供の私に煽られた程度で、激高している辺りはどう見ても小物なんだが。
「あなたが何者か知りませんが、卑怯な手を使った時点で、その価値は落ちます。
そんなあなたがいくら手を伸ばしたところで、彼女に手は届きませんよ。
女性に対しては、誠意をもって接するべきです。
恥を知りなさい!」
「……このっ!!」
私の挑発に、ハゴータは反論できなかった。
本人も何処かで自覚はあったのだろう。
だから口では勝てないと思ったのか、怒気を撒き散らしながら、私達のテーブルに歩み寄ってくる。
「おや、暴力ですか?」
「子供がっ、大人に舐めた態度を取って、無事では済まないってことを教えてやらぁ!!」
「ちょっ、小さい子相手にやめなよっ!」
ハゴータが拳を振り上げる。
あの娘が止めに入ろうとしているけど、間に合わないだろうな。
だが、私は動く必要性を感じない。
こんな奴に殴られたところで、私はダメージを受けないと思うけど、だからと言ってただ殴られるのも面白くはない。
それでも私が動くよりも先に、動いている者がいた。
なので私は、静観することにする。
「レイ姉の食事を、邪魔しちゃ駄目にゃ!」
「ぎっ!?」
ハゴータの動きが止まる。
マルガが、彼の足の甲を踏みつけたのだ。
この子、私に凄く懐いているから、私に敵対する者には結構容赦ないんだよなぁ……。
「ぐあぁぁぁぁっ!?」
踏みつけられた足の痛みに耐えかねて、ハゴータは転倒した。
あれは最悪、骨にヒビくらいは入っているかもな……。
まあ、後はマルガに任せて、私は食事の続きをするとしますか。
たぶん、私が動くまでもないだろう。
久々のキエルさんの登場でした。
次回は明後日の予定です。