4 孤高のグルメ
ブックマーク・☆での評価・誤字報告・感想をありがとうございました! 本当にありがてぇ……。
え~と、時間や社会にとらわれず、幸福に空腹が云々で、孤高の行為がどうこうして、 最高の癒しといえるのであったりなかったり。
つまり、グルメの時間だ! コラァ!!
私達は冒険者ギルドの、酒場兼食堂に来ている。
昼食の時間は少し過ぎているので、あまり混雑はしていないようだ。
これならさほど待つこともなく、料理にありつけるだろう。
それにしても店で料理を食べるなんてことは、レイチェルの記憶を除けば、異世界に転生をして初めてである。
それに自分で調理したもの以外の料理を食べるのは、ネコの時に貰った残飯以来か。
ある意味では初めて食べると言っても過言ではない異世界の料理──果たしてどんなものなのか、実に興味深い。
私はメニューとにらみ合っていた。
何を注文すべきか、まだ迷っている。
マルガはさっさと、「山鳥のからあげ」と「川魚のムニエル」をメインに、パンとスープを注文していたので、意外と決断力はあるようだ。
ふむ……前世のように、写真付きのメニューというものが存在しないので、料理名から判断するしかないが、あれもこれもと目移りしてしまうな……。
たとえばこれとか……。
いや、こっちもいいな……。
む? そういうのもあるのか!
「よし、決めた!
これとこれ、お願いします!」
さあ、注文は済ませた。
あとは料理が運ばれてくるのを、待つだけだ。
……おっと、私が注文したのと入れ替えに、マルガの注文した料理が来た。
「レイ姉、先にいただきますにゃ~!」
「はい、どうぞ」
美味しそうに料理を食べているマルガの姿を見ていると、同じ物を注文しても良かったかな……と思ってしまう。
こう……待っている時間って、長く感じるよねぇ……。
そして、マルガが食べ終わる頃になって、ようやく私が注文した料理が運ばれてきた。
ステーキ(サラダ付き)とシチュー、そしてパンだ。
ほ~、いいじゃないか。
こういうのでいいんだよ、こういうので。
やはりここは、よく分からない料理を注文してハズレを引くリスクを冒すよりも、味のイメージが容易にできる、シンプルな料理を注文して正解だったな。
「いただきます!」
私は早速、料理を口に運ぶことにする。
ちなみに、この地域で箸は一般的ではないので、ナイフとフォークを使う。
まずはステーキ。
500gほどあって、結構なボリュームだ。
これまで生肉から焼いた肉まで食べ慣れてはいるが、しっかり調理された物は、この異世界ではあまり食べたことがない。
どれどれ……ほう、これは……肉は少し硬めだし、そもそも何の肉なのかも分からないが、ソースの味が鮮烈だな。
山奥の大自然の中では、塩や香辛料はなかなか手に入らなかったから、味気ない食事が多かった。
そんな病院食のように味の薄い料理に慣れた私の舌にとっては、味が濃すぎると言ってもいいくらいだ。
だが、それが前世の食事を思い起こさせる。
シチューも同様だ。
味は濃すぎるのだが、決して嫌ではない。
なんというか、激辛料理を食べているような感覚だと言えばいいのだろうか?
辛さで美味しいかどうかすら曖昧な状態になっているのに、何故かクセになるような……。
そんな感覚に似ている。
本当に懐かしい……。
文化的食事、バンザイ。
「うにゃ?
レイ姉……泣いているのかにゃ?」
「そ、そんな訳ないじゃないですかぁ。
欠伸をしただけですよ」
「ふ~ん?」
私が懐かしさから涙ぐんでいるのを、マルガは目ざとく気づいたようだ。
私は慌てて涙を指で拭うが、さすがにあの苦しい言い訳では、誤魔化せた気がしない。
……いい年をして泣いてしまうだなんて、恥ずかしいなぁ。
……まあいい、今は食べることに集中しよう。
しかし私のご機嫌なお食事タイムは、背後の方から聞こえてきた喧噪に邪魔された。
「なあなあ、いいだろぉ?
いい加減考え直せよぉ」
「しつこいなぁ! いくら誘われても、うちはあんたのところに行く気なんか、無いからぁ!!」
……ん? 若い男女の声?
痴話喧嘩かな?
人の食事中にうるさいなぁ、アームロックを決めるぞ!
「なんだよぉ、Bランクの俺様のパーティーに入れてやろうって、言うんだぜぇ。
悪くない話だろうがよぉ」
いや、人員の勧誘か。
……それなら、我々が加入できる余地もあるのでは!?
これはよく話を聞いてみる必要があるな。
私は、耳をそばだてる。
「うるさいっ!
お前の女癖の悪さは有名じゃないか!
死んでもお断りだっ」
あ……駄目だ。
これはナンパだな……。
レイチェル的に、女性の扱いがだらしない奴のところは論外だわ。
明日も更新予定です。