1 私は取り返しのつかないことをしてしまった
ブックマーク・☆でのポイント、をありがとうございました。
我が名はめぐm──もとい、レイチェル!
人前で本名はマズイので、「レイ」って呼んでね。
只今、妹分のマルガと一緒に、ダンジョンがあるという町へ向かって旅をしている。
あれから2年ほどが経過した。
そろそろ領主を焼き殺したり、奴隷商を襲撃したりした件については、ほとぼりも……冷めたと良いな。
冷めたんじゃないかな。
まあ、少しは覚悟しておこう……。
それにこの2年間で、マルガもそれなりに成長して、長期間の旅にも耐えられるような体力もついたはずだ。
そんな訳で、ちょっと大きな町へ移り住んで、冒険者でもしながら楽しく暮らしてみようと思っている。
山の中の生活は平和だけど、やっぱり退屈なんだよね……。
あと、せっかく異世界転生したんだから、冒険者として英雄的な活躍もしてみたいし。
前世の知識を活かして、商売で成り上がるのもいいなぁ……。
で、大きなダンジョンがすぐ側にあり、それを攻略する為に冒険者の出入りも多い、クラサンドという町で当面は活動しようと思っている。
そこでなら冒険者としての仕事には困らないだろうし、人の出入りが多い大きな町ならば、私のような後ろ暗い経歴を持つ人間でも潜む余地はあるだろう。
ともかくクラサンドの町に行く為に、もう何十日も街道を歩き続けている。
私が本気で走れば、何分の1にも期間を短縮できるのだろうけど、さすがにそれではマルガがついてこれない。
1度マルガを背負って走ったら、彼女が揺れで酔ってしまい、背中に吐かれて大変なことになってしまった。
2人でゲロインという、不名誉な称号を得てしまった……
それにマルガにも冒険者をやってもらうつもりだから、これも1つの訓練だと思って、歩いてもらうことにする。
脚力や体力を鍛えておいて、損は無いしね。
……が、やはりまだ幼児。
適度に休ませるのも重要だ。
「レイ姉~。
そろそろ休みたいにゃ」
マルガが疲労を訴えてきたので、休憩することにした。
「それでは、少し休みましょうか」
私は道の脇に手頃なサイズの岩を見つけたので、そこに座る。
そんな私の太股の上に、マルガは腹を載せてうつ伏せになった。
膝枕ならぬ膝布団?
「レイ姉~。
わしゃわしゃ、してにゃ~」
「はいはい、これが終わったら、また歩くのを頑張るのですよ」
「はいにゃ~!」
私はマルガの頭や背中を撫でてあげる。
妹ちゃんとの毛繕いで鍛えられた私のテクニックに、マルガはもうメロメロだ。
更に尻尾の付け根を軽く叩くという、前世の知識にあったネコが喜ぶ方法を使うと、幼女がしてはいけないような恍惚とした顔になっている。
出会った当初は、私との間に薄い壁のようなものがあったマルガだが、女同士、人里から隔絶された環境、2年間……何も起きないはずがなく。
コミュニケーションの一環で行ったこのグルーミング行為で、マルガは即堕ちした。
今では私に懐いて、実の妹か、あるいはそれ以上に仲良しである。
「うにゃあ~、気持ちいいにゃあぁ~」
……ちょっと、やり過ぎてしまったような気もしないでもないが。
それと、お気づきになられただろうか。
マルガの語尾が、「にゃ」になっていることを。
マルガと一緒に暮らし始めた当初、マルガは普通に喋っていた。
……喋っていたのだが、赤ん坊に対して幼児言葉で話しかけるようなノリで、私が語尾を「にゃ」にして話しかけていたら、見事に伝染ってしまった。
そして、私が冷静になった時には既に手遅れで、矯正できないくらいその語尾は定着してしまっていたのだ。
正直、スマンかった……。
でも仕方がないじゃん。
可愛いネコ幼女を相手にしたら、口調だって乱れるって!
「んにゃ?
レイ姉、手が止まってるにゃ?」
「ああ……ごめんなさい。
ちょっと考え事をしていて……」
私は再び手を動かす。
マルガの甘えたような鳴き声が上がる。
「…………」
なんか気まずい。
こんな時、どんな顔をすればいいのか分からないの……。
笑えばいいとは、思わないよ……。
クラサンドまでは、あと一日ほどで到着の予定だ。
そんな日の、昼下がりの一時だった。
次回は明後日の予定です。