エピローグ お母さん
ブックマーク・☆での評価、ありがとうございました。
私の「乗っ取り」能力について、1つ疑問がある。
それは、不死系モンスターの身体を乗っ取ったら、どうなるのか……ということだ。
身体は既に死んでいる訳だから、乗っ取った瞬間に私が即死するというオチも有り得る。
だから不死系モンスターに対する乗っ取りだけは、試したことがない。
まあ、私の能力の本質は、「魂の吸収」である可能性もあるので、それが事実ならば魂の無い相手に対しては、能力が発動しないのかもしれないが……。
しかし、「かもしれない」で試すには、ちょっとリスクが大きすぎる。
ともかくそんな理由もあって、不死系モンスターに対してはちょっと苦手意識を持っている私だが、その不死系モンスターが出てきそうな夜の墓場に私達はいる。
この異世界では、まだ土葬が主流だろうから、ゾンビとかが出てきても不思議ではない。
今にも「脳みそ食べた~い」とか言いながら、地中から出てきそうだ。
正直言って、すぐにここから立ち去りたい。
だが、今はそうも言っていられない。
たぶんここに来る機会は、町を出たらもう無くなってしまうだろうから……。
ここには、レイチェルの母親が眠っている。
流行病にかかった彼女は、2ヶ月ほど前にはもう、亡くなってしまっていたのだという。
結局レイチェルは、親の死に目にも会えなかったということになる。
そしてレイチェルの母親は、日本で言うところの無縁仏のような形で葬られたそうで、その墓も小さくて簡素なものだった。
これを見ると、なんとも言えない気持ちになる。
夫に裏切られ、娘との再会も叶わず、どんなに無念な最期だったのだろうか……。
もしもレイチェルがまだ生きていたのならば、彼女は自身の親不孝を嘆いたかもしれない。
彼女は母親に対して、何一つ親孝行ができなかったことを悔いていた。
むしろ自身の存在が、母を不幸にしてしまった……とも。
思えば私も、キツネのママンには、何の恩返しもできぬまま死んじゃったんだよなぁ……。
本当に親不孝な娘達だ……。
そして「親孝行、したい時には親はなし」ということわざが、今は痛いほど実感できる。
「ごめんなさい……」
自然と口から言葉が漏れる。
そして、目から涙も──。
「ごめんなさい、お母さん……っ!」
嗚咽混じりのそのその言葉は、最早誰の意識から漏れ出たものなのかよく分からなかった。
ただ、心が壊れ、まともに泣くこともできなくなっていたレイチェルの身体に、涙がようやく戻って来た──それだけは確かだった。
「……大丈夫?」
私が泣き止んだ頃合いを見計らったかのように、マルガが声をかけてきた。
空気が読める良い子だ。
「うん、待たせちゃったね」
私は沈んでいた気分を切り替えて微笑む。
これからは私が、マルガの母親役をやらなければならないのだ。
いつまでも泣いている訳にはいかない。
……うん、子育ての経験なんて無いから、めっちゃ不安だけどな!
しかも、色々とやらかしたから、この町から出る必要はあるけれど、近くの町までは歩いて1~2ヶ月ほどかかるらしい(レイチェルの記憶調べ)。
そんな長期間の旅に、小さな女の子が耐えられるとは思えない。
そもそも、追っ手をかけられる可能性もあるから、街道を歩くのはちょっと危険かもしれない……。
ここはほとぼりが冷めるまで山奥に潜伏して、旅の準備を整えた方がいいのかもなぁ……。
まあ私にはサバイバルの経験と知識が豊富だし、人間の身体を得て道具も使えるようになったから、人里離れた場所での潜伏生活でも、マルガにはさほど苦労をかけない自信はある。
そしてマルガが、長距離・長期間の旅に耐えられるほど成長するのを待つのも、1つの選択肢だ。
いずれにしても、今すぐにこの町から、旅立たなければならない。
そろそろ夜も明けるしね。
「……さあ、行きましょうか」
私はマルガの手を引いて、歩き出す。
まずは、人が入り込んで来ないような、山奥に隠れよう。
そんな日陰者の私達が進む未来には、色々な困難が待ち受けているかもしれない。
でも、自由はある。
レイチェルがあの閉じ込められた環境の中で、いくら渇望しても手に入らなかった自由が──。
これから彼女の身体には、好きなだけ自由を経験させてあげよう。
その為にも私は、新たな一歩を踏み出した。
新しい朝日を浴びながら──。
今回で第2章は終わりです。閑話を挟んで、次々回から第3章に入ります。




