エピローグ6 歴史の先にいる
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「えっ、クラエスだったの!?
ごめんなさい」
私の世話役のメイド、クラリスとクラエスは双子の姉妹なんだけど、まったく見分けがつかないのよねぇ……。
でも、最近はちょっとだけ、分かるようになってきた気がしていたのよ?
だから少し自信があったのだけど……。
「まだ私個人を認識されてなくて、悲しいです……」
さめざめと泣き真似をするクラエス。
「ごめんなさいってば!」
この子達、苦手なのよね……。
基本的には良い子ではあるんだけど、時々私をからかうし、有無を言わせぬような威圧感を放って、なんだか逆らえないような空気を作るし……。
と、その時──、
「姫様ー、おやつにパンケーキを焼いてきましたよー!」
あ、もう1人の方が来た。
「ありがとうクラリス」
「え、私はクラエスですけど?」
「おぉぉーいっ!?
やっぱり正解だったんじゃないのぉ!?」
私はクラリスの方に詰め寄る。
「でも、あっさり騙されたってことは、確信がまだ持てなかったからですよね?
もしクラエスの方が嘘を吐いていたとしたら、見破れました?」
「そ……それはそうだけど……」
この子に口で勝てたためしが無いのよねぇ……。
しかもそれが2倍だ。
「もう……クラリスったら、姫様の反応が面白いからって、あまりからかっては駄目でしょ?
まあ……気持ちは分かるけれど」
クラエスは「気持ちは分かるけれど」の部分を、強調して言った。
表情もニヤニヤとしている。
結局この子も、面白がっているし……。
「まったく……この双子は……」
「え、私達が双子だなんて、いつ言いましたか?」
は? こんなにそっくりなのに双子じゃないの?
姉妹ってそんなに似るもの?
「はっ!!
まさか三つ子だとかいうオチ!?」
「「はずれですね」」
「ハモって駄目出し、しないでよ!」
なんかそれ、ムカつくから。
「そもそも私達が、姉妹だとも言っていませんよ?」
「えっ!?」
まさか母娘……!?
2人とも私と同じくらいの年齢に見えるのに?
いやいやいや、まさかでしょ!?
あるとしても、精々従姉妹とかでしょ?
「あなた達、また私をからかっているわねっ!?」
しかし2人は否定も肯定せずに、ただクスクスと笑うだけだった。
そういえば彼女達が私の世話役になってから数年が経過したけど、見た目が変わったような気がしないわね……。
本当に何歳なのかしら……?
はい、クラリスです。
魔族との戦争が終わってそろそろ200年くらい経過しているけど、私と娘のクラエスは健在で、実は未だにローラント王室に所属している。
ただ、私達の正体は一部の関係者しか知らず、王室に仕えるただのメイドということになっているけどね。
ちなみに、かつて乗っ取った身体に例外なく現れた、身体の一部が赤くなるという特徴だが、「擬態」のスキルで消してあるので、初見で私とクラエスを見分けることができる人間はまずいない。
魔力量やオーラなどを視ることができれば、あるいは……って感じだけど、そういう内面的な部分もある程度クラエスに寄せているので、まあ分からないと思うよ。
ましてや私達が母娘だとは、誰も想像できないだろうなぁ……。
まあ、長く付き合っていると、もう親子とかそういう感じでは無くなっているけどね。
既にもう1人の自分みたいなものというか、そもそも私の魂から分かれる時にクラエスには、我が能力の半分くらいを譲渡しているので、本当に分身だと言える。
やろうと思ったらできてしまった。
だからその気になればクラエスにも「魂の融合」が使えるはずなので、万が一私の方が死にそうになっても、彼女に吸収されて産みなおしてもらえば、2人で永遠に生きていける。
ともかくフローネ王女が王位を継ぐまで、私達の正体については秘密だ。
今から彼女がどんな反応をするのか……ネタばらしをする日が、楽しみで仕方がない。
その時には、実はフローネの名付け親が私だということも教えるつもりだよ。
そしていつか、南の島に連れて行ってあげようと思う。
でも古いアニメが名前の元ネタだと、理解してくれる人が少なくて寂しい……。
「さあ、姫様。
ご休憩が終わりましたら、お勉強ですよ」
「姫様も頑張って、その人名辞典に載れるように、偉業を残しましょうね」
「いや、これって載るだけなら簡単じゃない……。
王家の生まれってだけで名前は載るし、重犯罪をやらかした犯人も載っているし」
まあ、有名になりさえすれば載るよね……。
「でも不名誉な載り方はしたくないですよね?
頑張りましょう」
「え~、テレビを見ながらでもいい?
私、苦手なことに集中していたら、長くは続かないわ」
「仕方がありませんね……。
それでは国営放送のチャンネルを」
フローネが我が儘を言うので、私はテレビのスイッチを入れた。
「あんまり面白くないところじゃない!?」
いや、結構色んな知識が得られて面白いと思うよ。
それにニュースを見て、世界情勢を知るのもためになるし。
私の意向で偏向報道は許していないので、有益な情報源だと思う。
あと、意外とアニメが充実しているのも良い。
今は丁度ニュースの時間だ。
そこには見知った顔がある。
『──魔国のユー陛下は、近日我が国に来訪予定で……』
「姫様は、今度ユー陛下と会談なさる予定なんですよね?
楽しみですね」
「そう……?
歴史上の人物に会うとか、緊張しかないのだけど……」
「私達の前でも緊張していないのなら、大丈夫ですよ」
「どういう意味!?」
そんなフローネの声を軽く受け流していると、
『次のニュースです』
新しいニュースが耳に入ってきた。
それは私達にとって思わぬもので、だから──、
「クラエス、聞いた!?」
「ええ!
姫様、ちょっと用事ができたので、今日は早上がりします!」
「え!? ちょ、待っ」
私達はフローネの返事を待たずに転移した。
明日は用事があるので、更新できないと思います。




