39 魔王と女王
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『よくやってくれたわ、シス。
王都はあなた達のおかげで健在よ!』
と、私は妹のシスに、念話で呼びかけた。
『役に立てたのなら、なによりだよ。
でも、お姉ちゃんのその声と口調は、まだ慣れないなぁ……」
今の私はクラリスそのものだから、アリゼの姿に慣れきったシスには違和感が大きいようだ。
ともかく巨神像は、なんとか撃破することができた。
……が、敵もしぶとく、頭部だけで脱出してまだ完全に停止していない。
そして最後の悪あがきとばかりに、王都へと攻撃をしかけてきたのだ。
でも、それは本物の王都じゃないんだよなぁ。
こんなこともあろうかと、幻術が得意なシスを始めとする天狐族を総動員して、幻の王都を離れた場所に再現させておいたのだ。
それに気付かないまま攻撃した敵だったけど、当然そこには何も無い為、不発に終わる。
ただ、シス達にまったく危険が無かったという訳ではない。
彼女達の幻術にも有効範囲があるので、幻の都市の近くで待機している必要があったし、攻撃に巻き込まれる可能性もあった。
一応転移魔法や「結界」を使えるリーザを同行させて、いざという時には緊急脱出や防御ができるようにはしていたけど、取りあえず大きな危険はなかったようで安心したよ。
『それじゃあ私は、巨神像とその中身にトドメを刺してくるわね』
『うん……アイの仇討ちをお願いね、お姉ちゃん』
シスは私よりも、アイとの付き合いの方が長い。
たぶんその死に、1番怒りと悲しみを感じているのは彼女だ。
ただ、彼女の実力では、巨神像は勿論、四天王のクジュラウスにすら勝てないだろう。
だから──、
『その想い、託されたわ!』
私は空中を浮遊している巨神像の頭部へ向けて、飛び立った。
うん、分離した首の断面には、全身の装甲ほど特殊な防御処理は施されていないっぽいな。
その証拠に本体の爆発に巻き込まれたのか、焼き焦げたような痕跡が確認できる。
それに元々通路や階段があったはずの場所だろうから、構造的にも脆いはず。
よし、このまま突っ込むか。
「吶喊!!」
私は高密度の「結界」を身に纏い、巨神像の首の断面に突入する。
そこは狙い通り破壊することが可能で、中に侵入することもできた。
ここで熱線を乱射して、何もかも吹き飛ばしてもいいのだが、クジュラウスとやらの顔を拝んでおこうか。
それに無差別攻撃に巻き込まれた魔族の身体が中途半端に残ったら、「乗っ取り」が発動してしまうことも有り得るし、慎重に行こう。
え~と、索敵では……制御室らしき場所は上か。
私は天井を突き破りながら、上を目指す。
頭部だけとはいえ、あの巨大な巨神像の一部。
高層ビルくらいのサイズはある。
そこに至るまでに、何十枚もの天井を突き破ることになった。
そしてついに辿り着いたそこは、某宇宙戦艦の艦橋を彷彿とさせる作りになっていた。
大きなモニターが前面にあって、それがいかにもって感じだ。
そこには複数の魔族がいるけど、え~と……クジュラウスってのは……。
お、あの艦長席っぽいところにいるのがそうかな?
長い銀髪をした黒ずくめの衣装を身に纏った男で、まあ美形の部類には入るだろうけれど、何処となく病的な雰囲気がある。
あと、マッドサイエンティストキャラだと主張しているかのように、小さな鼻眼鏡をしているのが目立った。
「あなたが、クジュラウス?」
「……貴様は?」
質問を質問で返すな!
でも、否定しないってことは、クジュラウスで間違いないのだろう。
「私はクラリス・ドーラ・ローラント。
ローラント王国の真の女王よ!」
クジュラウスは訝しげに眉根を寄せた。
そういえば魔族は一部の貴族から、情報を得ていたんじゃなかったっけ?
死んでいるはずだ──と、思っているのだろうな。
てめぇら、国葬の直後に戦争を仕掛けてきた件については、絶対に許さないからなっ!!
……とはいえ、今用があるのはクジュラウスただ1人。
他の連中は邪魔だからお引き取り願おう。
「投降する者は、この場で命までは奪わないわよ。
その気があるのならば、そこから退場してくれる?
あ、クジュラウスは別ね」
と、私は自分が出てきた床の穴の方を見る。
助かりたいなら今の内だよ~。
まあ、後で戦争犯罪人として処刑されるかもしれない……というところまで知ったことではないが。
そして連中もそれが分かっているのか、何人かは武器を手に取って、私に襲いかかってきた。
まあ、近づけさせないけどね。
「「「「ガアアアッ!?」」」」
襲いかかってきた連中が、唐突に床へと落ちる。
「ふむ……転移魔法は使えるようね」
場所によっては、転移魔法が使えないような処置がされていることもあるから、確認がてらに転移魔法で彼らの手足だけを強制転移させてみた。
頭と胴体だけになっては、もう動くことすら困難でしょ。
ただ、これでも手加減はしているんだよ?
その気になれば皮膚だけ残して、血・肉・骨・内臓などの全部抜き取ることだってできる。
まあ、皮膚だけで「乗っ取り」が発動するとは思えないけど、念の為に死なないようにはしておいた。
これで私の実力は理解できたと思うので、回復魔法で手足を生やしてあげよう。
「抵抗が無意味だって理解できたら、さっさと自分の足で消えてくれるかしら?」
「「「「「…………!!」」」」」
私が殺気を放って脅したら、全員が慌てて床の穴に飛び込んだ。
お互いに無事だったら、後で拘束してやる。
「操影」スキルでマーキングしておいたから、仮に転移魔法で遠くに逃げても無駄だかんな。
「さて……と」
私は唯一残ったクジュラウスの方へと向き直った。
「覚悟はいいかしら?」
「人間風情が、調子になるなよ……!!」
私の言葉に対して、クジュラウスは不機嫌そうに返した。




