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38 クジュラウスの野望

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 我が名はクジュラウス。

 魔王軍四天王の1人だったが、今は魔王──そう、魔王クジュラウスだ。


 ……まあ、魔王などという地位は、正直どうでもよいのだがな。

 私は思う存分、万物を研究し、全てを理解したい。

 だがその為には、資金も権力も必要だ。


 だから魔王の地位を奪う為に、あらゆる策を講じた。

 勇者に倒された魔王の後継者となり得る王女を、我が刺客によって暗殺し、他の四天王もカシファーンはダンジョンを人間に奪われるという失態を理由に、権力を奪った。

 グリーグスは、あえて危険なスライムの変異体や天狐族が治める町を攻めるように(そそのか)し、自滅させた。

 ヘンゼルと魔王は、復活を手助けするふりをして、勇者召喚による人体強化の実験体として活用させてもらった。


 そして我が地位を支える兵力も用意した。

 我が研究の末に生み出した無限のクローン軍団と、合成魔獣(キメラ)

 更に古代文明の文献から発見し、地下深くの封印から蘇らせた古代兵器・終末の巨人(スルト)──。

 これだけの兵力を前にしては、もう何者も私には逆らえない。

 これらを投入すれば、人類の殲滅すらも容易(たやす)いだろう。


 そう、人類の殲滅だ。


 今や人類は魔族を押しのけ、この世界の支配者のごとく振る舞っている。

 そんな世界で、魔族の私は自由に出歩き研究することができない。

 だから人類は邪魔だ。

 この世界を我が実験場とする為に、我らは人類に戦いを挑む。


 それに……1つの種が滅びた後の世界がどうなるのか──それを実験してみるのも一興……。

 それで何か問題が顕在化するのならば、異世界から人間を召喚して増やせばいい。

 あるいはごく狭い土地にだけ生存を認め、飼育観察するというのも悪くない。


 とはいえ人類の抵抗も激しく、そう簡単に事は運ばないようだ……。

 まさか数千万の魔物の群れが、押し返されることになろうとはな……。

 やはりローラント王国とかいう国の──特に王族の関係者が強い。

 あの連中は、他の四天王も倒しているしな……。


 おそらくはかつての魔王ゼファーロリスを倒した勇者ですら、赤子のように扱うであろう実力者揃いだ。

 だが私も長い時間をかけて、そのような者達に勝つ為の準備をしてきたのだ。

 理論上、終末の巨人に勝てる者は存在しない。

 事実、終末の巨人以上に巨大なあのスライムでさえも、(ほふ)ることができた!


 ……いや、そのスライムの分身と思われる存在が忍び込み、研究資料を奪われたことには肝を冷やしたが、今更戦いの趨勢(すうせい)には影響することはなかろう。

 私が暗号を織り交ぜて(しる)したものが、簡単に解読できるとも思えぬしな。


 そして我々を乗せた終末の巨人は今、王国の首都を目の前にしている。

 この人類の繁栄と文化の象徴たる都市を潰せば、人類を絶望の淵に落とすことができるだろうし、奴らの生活を支えている経済が死ぬ。

 それがこの戦いの結果を、左右することになるだろう。


 それは人類の側も理解しているらしく、奴らめ……滑稽にも死に物狂いで抵抗してくるわ。

 飛空挺の体当たりごときでは、この終末の巨人はビクともせん!

 だが、のんびり構えていて、またいらぬ邪魔をされてもつまらない……。


「腹部主砲──劫火の剣(レーヴァティン)の発射用意!」


『発射、よーい!』


 この司令室兼制御室に、我が命令を復唱の声が響いた。

 

 「劫火の剣」はこの終末の巨人にとって、最大の攻撃力を誇る兵装である。

 その一撃は都市どころか、小国ならばその領土全体を焦土と化すことも可能だ。

 数万度に達する高熱を伴った爆発には、いかなる存在も耐えることはできないだろう。


 ただ、エネルギーの充填に7日(なのか)もかかる為、連発できないのが欠点だが……。

 だが、一撃あれば十分。

 さあ……王国が終わる時がきたぞ……!


 ところがその時──、


『前方に高威力反応出現しました……!!』


 その報告に、私はまた無駄な抵抗を……と、一笑に付そうとした。

 だが……前方の光景が(うつ)し出された大型の映像投影版には、円形の光の膜が確認できる。

 あれは……古代魔法の「反射鏡(ミラー)」……!?

 あんな巨大な……!?


 馬鹿な……!

 我が資料を、人間ごときが解読したとでも言うのか!?

 いや、それよりも問題は──、


「発射を中止しろ!!

 今すぐにだっ!!」


『む、無理ですっ!!

 今無理矢理止めたら、行き場の無くなったエネルギーが暴発しますっ!!』


 くっ……それならば……!!


「ならば最大出力で撃てっ!!

 出せる限りの、最大でだっ!!」


『は、はっ!!』

 

 いくら古代魔法の「反射鏡」だとしても、「劫火の剣」ほどの膨大なエネルギーを、完全に反射できるとは思えぬ。

 ならば強引に打ち破るまでだ。


「それと念の為に、この頭部ユニットの切り離し準備を!

 急げっ!!」


『そ、それでは、胴体部分にいる者達は……?』


 配下の者から、疑問の声が上がる。


「万が一の時に、脱出させる時間があると思うのか……?」


『いえ……しかしそれでは……!』


 そやつは逡巡しているようだが、今はそんなことを論じている暇など無い。

 話はこれで終わりだ。


「私は必要なことしか言わぬぞ……」


『く……分かりました!』

 

 助からぬ者達を助けようとするのは、無駄なことだ。

 そんなことよりも、この私が助かることこそが、1番大事なのだ。


 その後、「劫火の剣」は撃ち出されたが、私の狙い通り「反射鏡」を強引に突破することができそうだ。

 問題は王都に届くまでに、威力が格段に落ちてしまいそうなことだが──、


『前方に高魔力反応……!!

 こ、これは「劫火の剣」に匹敵するほどのエネルギー量ですっ!!』


「なんだとっ!?」


 次の瞬間、「劫火の剣」が逆流し──


「緊急分離っっっ!!」


 私が叫んだ瞬間、凄まじい衝撃が下部の方から伝わってきた。

 直後、床に押しつけられるかのような、強い上昇感──脱出装置が無事に発動したらしく、我々の命が消えることはなかった。


 ただ、外部の状況を伝える映像版は、一面が光に包まれ、何も分からない。

 だがおそらく終末の巨人は、爆発した。

 私が数百年かけてようやく捜し当て、発掘した巨人が──。


 おのれ……っ!

 まさか人類にここまでの力があろうとは……っ!!

 だが、このままでは済まさぬ!


「王都を撃てっ!」

 

 私の命令を受けて、巨人の目から撃ち出された光線が、王都の中心にある城へと吸い込まれていく。

 それは「劫火の剣」ほどではないが、都市に壊滅的な被害を与えるには十分な破壊力があるはずだった。

 

「…………っ!?」


 しかし巨大な爆発に飲み込まれてもなお、城も町も形を崩すことなく存在し続けている。


「まさか……幻術だと!?」


 それを自覚した瞬間、激しい衝撃が我々を襲った。

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