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16 やり残し

 ブックマーク・☆での評価・誤字報告・感想をありがとうございました。皆様の応援で本作は成り立っています。


 なお、明日は『おかあさんがいつも一緒』の更新日なので、本作は前倒して更新しました。

 私はその()を、牢屋がある地下から連れ出した。

 決してお持ち帰りでも、事案でもない。

 この前のは気の迷いだ。

 今の私も幼女だし。


 その小さな女の子は、ネコの獣人のようだった。

 もしかしたらヒョウやライオンなどの、別のネコ科の獣人である可能性もあるけど、赤ちゃんならみんなネコみたいなものだし、ちょっと区別がつかないな。


 なんにしても、美少女にネコミミがついたタイプの獣人ではないのがちょっと残念だが、妹ちゃんで鍛えられてケモナーレベルが上がっている今の私ならば、まあ充分萌えられる範囲だ。

 いや、萌え抜きでも、普通にきゃわたんだけどね。

 ……凄くモフりたいです……。


 いや、その前に確認しなければならないことがある。


「君……お母さんと、お父さんは……?」


 地下にいる獣人達の中には、ネコ科の獣人は他にいなかった。

 ということは、ここにこの娘の親はいないってことだ。

 ……となると、レイチェルと同様に事情があって親に売られたのか、それとも孤児だったのが人身売買業者に捕まったか……というところだろう。


 そして少女は、質問の意味が分からないとでも言うかのように、首を(かし)げる。

 ……ん~、これは物心が付く前から親と離ればなれになっていた所為で、親に関する記憶も殆ど無いってことなのかな?

 実際、「お母さん」や「お父さん」という言葉にも、あまり反応を示していないし。

 

 でも5才くらいなら、本来はまだまだ親が恋しい年頃だろうに……。

 なんて哀れな……。


 いや……そもそも、言葉が通じているのか?

 ロクな教育を受けていない、なんて可能性も……。


「君……名前は?」


 それすらも分からないようなら、オレンジ色の毛色から、「みかん」って強制的に名付けるぞ。

 直立歩行の喋るネコだし、丁度良い。

 しかし彼女は、


「マル……ガ……」


 辿々(たどたど)しい口調だが、一応私の質問に答えてくれた。

 

「マルガ……。

 マルガっていうの?」


「うん」


 あ~、言葉は通じるのか。

 じゃあ、親の記憶が無いってことで良さそうだな。

 ということは、親元に帰してあげるのも難しいか……。


 ならばこれからのマルガの生活は、私が面倒を見てあげよう。

 レイチェルの時は無理だったけど、人間の身体を手に入れた今なら、どうにかなるはずだ。

 子育ての経験が無いのは不安だけど、この娘をこのまま見捨てる訳にもいかないしね……。


「それじゃあ……マルガは、これから私と暮らしましょうね。

 私達は家族になるの」


「家族……?」


 いまいちピンと来ていない様子のマルガ。

 やはり、一般人の標準的な生活を送ったことが、殆ど無いのかもしれない。

 勿論、言葉は扱えるようだが、教育をまともに受けていないというのも事実だろう。

 その辺も、私がなんとかしてあげなくちゃいけないな。


「ええ、いつも一緒ってことですよ」


「ふ~ん……いいよ?」


 やはりまだよく分かっていない様子のマルガだったが、少なくとも嫌がってはいないから大丈夫だろう。

 本人の了解も得たから、これは決して誘拐ではない。

 異世界の法的にも、きっとセーフだ。

 ……よく知らないが。


 暫くして、地下から元奴隷達が上がってきた。

 全身に返り血は浴びているし、凶行の直後ということもあって、凶悪な面構(つらがま)えに見える。

 ……うっわ、正直怖い。


 私も領主の館では、客観的に見たらこんな感じだったのかなぁ……。

 冷静になると、色々と思うところはあるな……。


 だがいつまでも、ここでもたもたしてはいられない。

 この町から夜が明ける前に、すみやかに逃げ出した方がいいのは間違い無いからね。

 だけどその前に、金目の物や衣服などの生活に必要になりそうなものを、店内からかき集めて分配しよう。

 

 ……持ち主がいなくなった物を拝借するだけだから、決してこれは強盗ではない。

 そう自身に言い聞かせて、淡々と作業を進める。

 先立つものがなければ生きていけないから、綺麗事は言っていられないのだよ。

 そしてことが済んだら、全部燃やして終わりだ。


 強盗放火殺人?

 知らない言葉ですね……。


 ……ああ、前の世界の基準だと、物凄い凶悪犯になった気分だなぁ……。

 え、こっちでも凶悪犯だって?

 バレなきゃ、犯罪じゃないんですよ……ということで。


 ……良い子は真似しないで欲しい。 



 

 さて、燃える奴隷商の店から、マルガを連れて逃げ出した私だったが、このまま町を出る訳にはいかない。

 その前にやっておくことが、1つだけあった。

 

 私は目的地の近くの路地裏で、あまり人が来そうにない場所を見つけて、そこでマルガに隠れてもらうことにした。


「ちょっとだけ、ここで待っていてね。

 すぐに戻ってくるから」


「……うん」

 

 ちょっと不安そうな、マルガ。

 ひょっとしたら、私を追ってこようとして、勝手に動く可能性もあるかもしれない。

 子供って、なかなかじっとしてられないしね。

 

 だから万全を期すならば、蜘蛛糸とかで動けなくしておいた方がいいかもしれないけど、まあそこまでする必要はないだろう。

 私の索敵能力の範囲内なら、異常があればすぐに駆けつけられるしね。


 ともかく、目的の場所にマルガを連れてはいけない。

 子供連れだと、ちょっと目立ち過ぎるからね。

 普通は子供なんかいないはずの場所だもの。


 そこはこの町で唯一の娼館で、レイチエルの母親が働いていたと思われる場所だった。

 流行病(はやりやまい)にかかって先が短いと言われていた彼女がどうなったのか、それだけは確かめておかないと、レイチェルは死んでも死にきれないだろう。


 私は奴隷商の店で手に入れたマントと帽子で全身を隠して、娼館に近づいていく。

 盛り場にある店は、深夜でもまだ閉店していないようだ。

 むしろこれからの時間帯が、かき入れ時かもしれない。


 そんな訳で、店の前で客引きをしていた者がいたので、レイチェルの母親の安否を聞いてみた。


 その結果は──。

 マルガはここで解放されていなかったら、たぶん「9 ゲロイン」に出てきたネコ好きのおっさんに買われていたと思う。それはそれで、可愛がられたとは思うけど。

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