37 崩壊する巨神
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『見えてきたのです!
陣の中心が奴の腹部になるように、全員左へ210m移動です』
『はいよー!
こっちからも見えている』
レイチェル姉さんから私へと──正確にはリゼやケシィーにも念話が届く。
今、私達4人の姉妹は、巨神像の主砲を反射する魔法を構築する為に、陸上に2人、空中に2人──と、一辺が1500mの正四角形を描く形で待機していた。
位置としては王都から10kmほどの場所であり、巨神像は主砲の射程距離とされる17kmに入ろうとしている。
『はい、ストーップ。
これで位置はいいんじゃない?』
私は真下にいるケシィーに呼びかける。
『はいお嬢様、これでいいと思います』
よし、準備完了。
後は巨神像が、主砲を撃つのを待つだけだ。
奴が発射の態勢に入り、そしてもう発射が止められない状態に入ったと判断したら、私達は全力で反射魔法を構築する。
そのタイミングはなかなかシビアだけど、相手に気取られて発射を中断されたら、攻略手段が無くなってしまうかもしれないから、失敗は許されない。
そもそも王都からは、まだ完全に住人が避難していないからねぇ……。
さすがに数日で数十万人の避難は無理だ。
それに私達の成功を信じて、あるいは民を残して自分達だけ逃げる訳にはいかない──と、あえて逃げない者達もいる。
そんな人達の為にも、マジで失敗できん。
なお、私はちょっと寝た程度では完全に魔力を回復できていなかったのだけど、エリカを呼び出して「吸精」スキルで母さんから魔力を分けてもらった。
そしてついでに、レイリーとの歌唱スキルで潜在能力を引き出してもらっているので、色々と強化はされているが、後日の反動が怖い。
まあそれも、生き残らなければ意味が無いけれど……。
「お……!」
巨神像に向かって15隻にも及ぶ飛空挺艦隊が、艦砲射撃を繰り返しながら突っ込んでいく。
無抵抗で待ち構えていては不自然なので、あれは遠隔操作で動かしている無人の囮である。
これから無人飛空挺爆弾として特攻をしかけ、いかに我々が追い詰められているかということを演出してみせる訳だ。
艦隊の損失額だけで、来年から数年分の防衛予算に匹敵するだろうねぇ……。
我々に来年があれば……の話だが。
あと、これまでに倒された魔物の群れ──特に先程艦隊と竜族に倒されたばかりの飛行型を中心にして、私の「死霊魔術」で死に損ない系の魔物にし、巨神像へ攻撃をさせている。
この攻撃に効果が無くても、相手が鬱陶しいと感じてくれれば、主砲を撃ってくれる可能性が高くなるはずだ。
いや、本当なら撃ってくれない方がいいんだけど、今のところこの反射魔法だけが攻略の糸口なので、発射を期待するしかないというのがジレンマなんだよねぇ……。
ちなみにこの反射魔法は、魔法だけではなく物理攻撃も反射してくれるらしいので、魔法と呼べるのかどうか分からない主砲にも効果があるとのことだ。
……ただし、あの馬鹿げた破壊力を本当に反射できるかどうかは、別の話……。
何事にも限度があるからね。
私達4姉妹が全力で術を構築するから、やれると信じたいが……。
いや、やれるかやれないかじゃない、やるんだ!
やっていこう!
『巨神像の腹部に、大きな熱反応!
来ますよ!
10秒後に反射魔法を発動するのです!!』
姉さんの呼びかけにより、私達はカウントダウンを始める。
『9・8・7・6──』
この数秒後に、全ての運命が決まる。
そして──、
『3・2・1・今っ!!』
反射魔法の術式を構築し、術を発動させた。
その瞬間、空中に滑らかな表面を持つ、光の膜が浮かび上がる。
直径が1km以上ある、巨大な円形の鏡だ。
直後、巨神像が主砲を発射する。
その莫大なエネルギーが、鏡のど真ん中へと直撃した。
「うっ!!」
攻撃を受け止めた鏡が大きく歪み、私にも魔力の逆流がくる。
しかも受け止めたエネルギーは、その場にとどめてこそいるが、反射することができていない。
このままでは行き場を失ったエネルギーが、この場で暴発してしまう!
『魔力が足りない!
もっと込めてっ!!』
そんな私の呼びかけに、姉妹達が答えたのかどうかは、よく分からなかった。
鏡の周囲では膨大なエネルギーが暴れ回り、念話が届いたのかを確認する方法すらない。
私はこの術を維持することが、難しいと感じ始めていた。
だけどここで諦めては、そこで試合終了だ。
「こんにゃろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ──!!」
みんな、おらに魔力を分けてくれぇぇぇ──っ!!
私は周囲に荒れ狂っているエネルギーを、体内に吸収する。
エリカの「吸精」ほど効率はよくないけど、体外の魔力や気だって操れないことはない。
そうでなきゃ遠距離の攻撃だって、自由に操ることはできないからね。
ただし制御に失敗すると、身体が過剰な魔力でパンクとかするので、リスクがあるんだよなぁ、これ……。
ともかく焼け石に水かもしれないけれど、吸収したエネルギーを魔力に変換増幅して、鏡に注入する!!
あ、ちょっと反射できてる!?
よし……そのまま巨神像のお腹に、還ってしまえ!
もっと反射しろ……もっと……もっと……もっと────、
「もう、駄目っ!!
母さんパスっ!!」
唐突に限界がきた。
いくら私が頑張っても、もう他の姉妹がもたなかったと思う。
だから後は、次善策を準備していた母さんに託す。
『よくやったわ!
あなた達が威力をかなり弱めてくれたから、これならいける!!
すぐに退避して!』
そんな母さんからの念話が届いた瞬間、私達は転移魔法でその場から脱出する。
当然、すぐに反射魔法は形を失うけど、完全に効力が切れる前に裏側から母さんが全力の熱線を撃ち込み、巨神像の腹へと主砲の光線を押し戻した。
「入ったっ!!」
巨神像の腹に吸い込まれた熱線は、そのまま背中へと貫通した。
直後、その体内で爆発が生じたのか、巨神像は一瞬膨れ上がったように見えたが、周囲は眩い閃光に包まれ、何もかもが分からなくなる。
ただ、かなり離れた場所に脱出していたはずの私達にも、大爆発の衝撃波が襲いかかり、何百mも吹き飛ばされることになった。
それでも「結界」で身を守っていたので、大きな怪我はない。
だけど無防備でいたら、爆発から生じた熱風で焼かれて、灰になっていたかもしれないな……。
そう思うと身震いがした。
でも、これで巨神像という最大の脅威が取り除かれた──はずだ。
思わず「やったか!?」と、言いたくなったが、さすがにフラグ建立は自重した。
わざわざそんなことをしなくても、世界の命運を懸けたこの戦いが、こんなにあっさりと終わるとは私も思っていないし、油断はしない方がいい。
事実、爆心地に生じたキノコ雲の上部に、何かの反応が現れる。
そして煙の中から、巨神像の頭部が現れた。
「なっ!?
分離して脱出した!?
ジ●ングかよ!?」
そしてその頭部の両目からは、王都に向けて光線が撃ち放たれた。




