36 決戦の前に
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「ふぁ~……」
飛行型魔物現出の一報で叩き起こされた私だけど、結局眠れたのは6時間程度だろうか。
さすがにもう二度寝する気にもならないので、朝食を食べることにしよう。
空間収納に入れておいたハンバーガーを出して……と。
そして火と風の魔法をアレンジして生み出した熱風で、ハンバーガーを包み込むことにより加熱。
温めている間に、他に何か……あ、オレンジジュースもあったかな?
「おっ、クッキー発見。
いつのだろう?」
……これ何年前に入れたんだっけ?
まあ、空間収納内の時間は停止しているから、問題は無いか。
「いただきま~す」
で、朝食が終わったら、私はリビングへと向かう。
姉妹達に招集がかかっていたので、誰かが帰ってきていだろうな……とは思っていたけど、
「きゅ~ん」
キツネの姿になったリゼが、母さんに毛繕いされていた。
リゼはもう孫がいるのに、未だに甘えん坊だなぁ。
なお、状況が状況なだけに、過度な快感を与えると疲弊してしまうので、ヒーリング効果優先の撫で方を母さんはしているようだ。
結果、リゼは今にも眠ってしまいそうになっている。
そしてそんなリゼの様子を、ケシィーが羨ましそうに見ていた。
平静を装ってはいるようだが、尻尾が小さく振られているので隠し切れていない。
母さんもそれには気付いていたようだ。
「次はケシィーの番ね」
「いえ、ご主人様。
私には必要ありません」
もぉ……素直じゃないんだから。
でも、尻尾はだらんと残念そうに垂れ下がっていて、素直だぞ。
「ケシィー……大きな戦いの前だから、悔いを残すようなことは無い方がいいと思うのよ?」
……アイ姉のこともあるし、この先全員無事であるという保証はない。
だから今やれることはやっておきたいというのが、母さんの本音なのだろう。
「そ、そういうことでしたら、仕方がないですねぇ」
なんだかツンデレみたいになってるな、ケシィー……。
でもいざ毛繕いが始まると、トロンとした目に変わり、実に心地よさそうだ。
「ああ……お母さん……しゅきぃ」
あ、もうデレた。
即堕ちである。
そして母さんは、次なる標的を私に定める。
「アリタ、おはよう。
次はアリタもする?」
母さんはそう言うが、
「おはよう。
いやぁ……外見年齢的にキツイっす」
「そう……?」
母さんはちょっと寂しそうだけど、勘弁して欲しい。
キツネや獣人なら微笑ましく見えるからまだいいよ?
でも今の私は二十代半ばの姿で、母さんの十代半ばの外見年齢を追い越しちゃっているし、そんな私と母さんがじゃれ合っていたら、傍目にはおねロリにしか見えないだろう。
日本ならポリスを呼ばれかねないんだから……。
それに私には必ず勝つつもりなんだから、後悔なんてあるわけない。
そして平和を取り戻したら、再びBL関連の作品を大量に生み出す為に、出版・印刷業界を復興させるからね!
可能ならアニメだって作るよ!
私は新異世界の漫画やアニメの神になる!
「みんなー、帰ってきていますかぁ?」
「あ、姉さん」
レイチェル姉さんがリビングに入ってきた。
「飛行型の魔物はどうなっているの?」
「カーシャと飛空挺艦隊が対処しています。
フレアも来ていますから、大丈夫なのです」
それなら負けはしないだろう。
問題なのは──、
「巨神像は?」
「王都まであと28kmといったところですね」
それは大丈夫なのか……?
私の不安そうな顔を見て、母さんは──、
「まだ、時間はあるわ。
私が解析した資料によると、あいつの腹部主砲は射程距離が17kmが限度よ」
と、まったく安心できないことを言った。
「あと10kmちょっとじゃん!?」
そのくらいの距離なら、山や谷などの地形的な障害物を考慮しても、あの巨神像は2時間程度で踏破するだろう。
「そう、時間はもう無いから、ぶっつけ本番になるわね。
あなた達には、この魔法を使ってもらうわよ」
と、母さんが1枚の紙を差し出した。
そこには解析した資料から得たと思われる、魔法の術式が書かれていた。
「うわっ、結構複雑だなぁ……」
難しいことが苦手なリゼが、早くも音を上げる。
「母さん、これは?」
「実演して見せるから、最弱の威力で私に魔法を撃ってみて」
「では、私が」
姉さんが掌にビー玉ほどの火の玉を発生させ、母さんに向けて投げた。
すると母さんの前に円形の光の膜が生じ、それに火の玉が吸い込まれる。
……と思ったら、火の玉はすぐに吐き出され、姉さんの方に戻ってきた。
「これは……反射ですか?」
ケシィーがそう言ったけど、たぶんその通りだろう。
「リフ●クだね」
「マホ●ンタですね」
リゼと姉さんが同時にそんなことを言って、顔を見合わせた。
微妙に好みのRPGの趣味が合わないんだよなぁ、この2人。
おいおい、マカ●カーン派はいないのかい?
だけどこれで理解した。
母さんはこの魔法で、巨神像の主砲を反射しようとしているということを──。
土日はいつも通り休みですが、ちょっと用事があるので月曜も休むと思います。




