33 発 進
ちょっと過去エピソードを色々と修正していました。
私はグラスです。
今はクバート帝国で宰相をしていますが、それ以前は長らくメイドをしていたので、その頃の所作がなかなか抜けません。
それ以前は……黒歴史ですね。
最近娘を亡くしました。
私の後継者としては、出来過ぎなくらい立派な女王だったと思います。
その娘は別の形で生き続けることになりましたが、それでも子に先立たれるのは、辛いものがありますね……。
ただこれは、愚かな過去の私に対する罰なのでしょう。
正直、あの御方ではないけれど、私も引きこもりたい気持ちだったのですよ。
妻にも先立たれていますし、こういうのは何度経験しても慣れることはできませんね……。
そんな風に気落ちしていた私でしたが、運命は私を休ませてくれませんでした。
このタイミングでまさかの魔王軍の侵攻──しかも、かつて例が無いほどの大軍勢です。
どう考えても帝国の兵力では、太刀打ちできません。
私は皇族の一部を、王国へ逃がすことにしました。
それが終わって帝国へ転移で戻ってくると、そこには朽ち果てた帝都の姿がありました。
元より全住民を避難させ、皇帝陛下も全軍を率いて撤退していた為、放棄された都市です。
あっさりと魔物の侵入を許してしまったが故の、当然の結果なのでしょう。
それでもこうして魔物に荒らされた姿を見るのは、辛いですね……。
私は魔物の群れを追う為、その足跡を辿っていきます。
万単位の足に踏み荒らされた地面は、雑草すらまともに残っておらず、大河の如き獣道となっていました。
この魔物の群れが避難民に追いつく前に、私が背後から強襲しなければ……!
そして私が魔物の群れに追いつくと、前方の方では戦端が開かれているようでした。
帝国兵が戦っているのでしょうか?
ならば私も早く参戦しなければ……!
……おや? 空中に何かいますね。
天使でしょうか?
確かアリタ様の新たな眷属が、天使の姿をしていると聞きましたが……あれがそうなのですね?
その天使が魔物の群れを攻撃しています。
それに巨大なスライムが、魔物の群れを飲み込んでいます。
アイ様が生きていた……?
それにしては身体のサイズも、内在しているエネルギー量も、私の知っているアイ様と比べると半分以下と、小さいような……。
他にも魔族と思しき者達が、魔物達と戦っています。
ふむ……状況に大きな変化が生じているのでしょうか?
いずれにしても、結果として犠牲者が減るのならば、それでいいのですけどね。
さて、私も傍観していられません。
本気で戦うとしましょう!
アリタだよ~。
現在シルビナと合流したところ。
かなり遠くの方に、巨神像が見える。
あいつの進路上の町には既に避難命令を出していたので、周囲数十kmには人がいない。
避難が遅れていた人達も、転移魔法で逃がしたから、もう大丈夫なはずだ。
「これで思いっきりやれる!」
「ついにあれを、実戦で使う日が来たか……。
そんな日はこない方が、良かったのかもしれないがな……」
シルビナは溜め息のように言った。
これから使うのは、母さんを除けば王国の──いや、人類の最大戦力。
その気になれば、核兵器に匹敵する働きができるだろう。
それが巨神像にどの程度通用するのか分からないけど、時間稼ぎくらいはできるはずだ。
「さあ、いくよ!」
「応っ!!」
私は空間収納からそれを呼び出す。
それはこの70年間をかけてコツコツと作り上げた、シルビナの強化外骨格──巨大なミスリルの騎士だ。
サイズはコ●バトラーVくらいかな。
まさに巨大ロボである。
名付けて勇者王シルビナータ・オメガだ!!
「フェー●イーン!!」
その掛け声と同時にオメガの胸から光が照射され、私とシルビナはそれに吸い込まれていく。
こいつはシルビナの身体の延長みたいなものだから、彼女の思うとおりに全身を動かせるし、私達が使える魔法やスキルはすべて発動が可能だ。
しかも魔力を増幅させる機能を有しているから、その性能を何倍も高めることができる。
その装置を組み込む為に、これだけ巨大なボディが必要だったのだ。
「発進!!」
この機体は、当然空を飛ぶこともできた。
私達は高速で飛翔しながら、巨神像へと迫る。
「まずは挨拶代わりに──。
空貫く光っ!!」
オメガの額から、熱線を撃ち出す。
しかし母さんの熱線さえも弾いた、巨神像の装甲には通用しない。
「それならば──」
熱線を巨神像の足下──地面に炸裂させる。
それは大爆発を引き起こし、地面そのものを吹き飛ばした。
いかに自重を何らかの技術でコントロールしていたとしても、さすがに立つべき地面を破壊されれば、まともに直立なんかしていられないだろう。
「今だよ、シルビナ!」
『ああっ!』
よろめく巨神像に向かって、高密度の魔力が込められた剣を──刃渡りが20mはある剣を振り下ろす。
『断空牙っ!!』
熱線を弾く巨神像の装甲でも、物理攻撃から生じた衝撃までは無効化できないはずだ。
巨神像は更に大きくよろめき、ついには転倒する。
普通なら中にいる魔族はこの衝撃だけで全滅するんだろうけれど、さすがになんらかの安全対策はしているんだろうな……。
実際──、
「回避!!」
巨神の目から、熱線が撃ち出された。
戦闘が継続できるということは、中の魔族も無事なんだろうね。
ただ、あれだけの巨体ならば、起き上がるのには時間がかかるはず……!
やはり時間稼ぎだけならば、問題なくできそうだ。
私達が時間を稼いでいる間に、頼むよ母さん……!!
令和4年6月13日現在、私の不手際で規約に引っかかる部分があった為、当作品が検索や作品一覧に表示されない状態になっています。皆様にはご不便をおかけして申し訳ありませんが、解除されるまで暫くお待ちください。
※現在規制は解除されました。




