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30 魔王再誕

 ブックマーク・いいねをありがとうございました!

 魔王を目指しているというユーの言葉を受けて、魔王の配下であったファーンは、怒りの表情を(あら)わにした。


 それをアリタがなだめる。


「まあ、落ち着きなよ、ファーン。

 残念ながら、魔王は既に死んでいる。

 そしてユーはその最期を看取って、魔族の未来を魔王本人から託されたんだよ」


「何!? 魔王様が!?

 復活を果たしたからこそ、この(たび)の人類掃討作戦を開始したのではないのか!?」


「実際はそうではないんだよ、ファーン」


 アリタはユーから教えられたことを、ファーンに説明した。

 だけど彼女は、その話を信じていない……というよりは、長い年月をかけて取り組んできた魔王の復活が、無駄に終わってしまったという事実と、敬愛する魔王の完全な死を信じたくない様子だった。

 ただ、「クジュラウスならばやりかねん……」とも言っている。


 そこでユーは、


「ねえ、お姉ちゃん。

 魔王ゼファーロリスって、こんな感じの人だったでしょ?」


「!」

 

 と、魔王の姿に擬態してみせた。

 ……なるほど、確かにアイの面影(おもかげ)と重なる部分がある。

 アイが魔王の娘を吸収して、人間体の素体にしたというのは、事実なのかもしれない。


「……確かに魔王様のお姿だが……。

 それでは……しかし……!」


 少なくともユーが魔王と直接面識があることは、ファーンも認めざるを得ないはずだ。

 しかしそれを認めてしまうと、魔王が既にこの世にいないことも認めなければならなくなってしまう。


「それに私のお母さんは、魔王の娘と一体化していたみたいだし、私は魔王の孫みたいなものなんだよ。

 だから私は魔王の跡を継いで、魔族を助け導きたいと思っているんだ。

 私は魔族を救うよ、(ばっ)ちゃんの名にかけて!


 その為にも、お姉ちゃんの手伝いをしてもいいでしょ……?」


「ぐっ……!」

 

 ファーンは何かを言いかけたが、それを飲み込んだ。

 おそらくユーに対する反発心はあったはずだと思う。

 しかし大局的に見れば、それを口にしても誰の得にもならない。


 そしてファーンは、片膝を突いて頭を下げる。

 それは私の時に見せた形だけのものではなく、臣下の礼を示すものであるようだ。


「我からも頼む、小さき姫よ……。

 どうか魔族を救う為に、力を貸してくれ」


 ユーの「魔王の孫」という肩書きは、魔族を口説き落として、現クジュラウス体制から離反させる為に有効活用できるものとなるはずだ。

 だから本音はどうあれ、ファーンはユーを受け入れた。


「うん、よろしくね」


 これが新魔王政権(暫定)樹立の、瞬間だと言える。

 まさか私の孫が魔王になるなんてねぇ……。

 

 ……ん?

 そういえば、今のアリタの称号って「勇者」じゃなかったっけ?

 叔母と姪で、勇者と魔王の関係になるのか……。

 将来戦うようなことにならなきゃいいけど……。


 


 その後、それぞれが各地へ(おもむ)き、自身の役割を果たす為に全力を尽くすことになる。


 さて、私も資料の解析を急がなければ。

 そんな訳で私は、膨大な資料と悪戦苦闘を始めたのだが、それから約1日が経過した頃──、


「ここに聖女様がおると、聞いたのじゃが……」


 リーザが顔をだした。


「あら、久しぶりね。

 魔力切れで寝込んでいたと聞いたけど、もう大丈夫なの?」


「おお……クラリス陛下の姿か……。

 な、懐かしい……が、違和感があるのぉ……」


 リーザは私の姿に面を食らっている。

 今のクラリスの姿自体が数十年前の物だし、かつては別人だった私がその身体(からだ)を使っているというのも、理解しがたいことだと思う。


「その……(わし)が不甲斐ないばかりに、辺境伯様をむざむざと……。

 済まなかったのじゃ……」


 と、リーザは頭を下げる。

 だけどアイのことは仕方がなかった……とは思いたくないけど、もうどうしようもない。


「リーザが悪い訳じゃないから、気にすることはないわよ。

 あの女神のお告げが、肝心な時に役に立たないのはいつものことだし、そこは期待していないわ。

 むしろあの状況で、数十人もの仲間を守り切ったあなたの功績は大きいのだから、そこは誇りなさい」


「そうなの……じゃろうか」


 しかしリーザの沈んだ顔色は晴れない。

 彼女にとってアイの存在は、一緒にノーザンリリィの発展に尽力してきた仲間であり、そして彼女を鍛えてくれた師でもある。

 その死は、当然悲しいのだろう。


 さすがに母親の私を差し置いて、涙を見せることはないが……。


「それよりも丁度良かったわ。

 この資料の解析を手伝ってくれないかしら?

 上手くいけば、あの巨神像(アトラス)を倒して、アイの(かたき)をとることができるかもしれないわ」


「も、勿論なのじゃ!」


 この時リーザの顔には、ようやく明るさが少し戻った。

 大きな目的を与えてあげれば、くよくよしていられる場合ではなくなるものだ。


「助かるわ」


 でも実際、猫の手を借りたいのも事実だった。

 高レベルの「言語理解」のスキルを持つ者自体が少なくて、困っていたのだ。

 その点リーザならば、エルフ語も使える関係で、「言語理解」も持っている。


 それに先程は「期待していない」とは言ったが、本当は女神がヒントを与えてくれることを、少しだけ願っていた。

 この戦いは絶対に負けられないから、借りられるものなら猫の手でも、女神の手でも借りパクするよ……!

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― 新着の感想 ―
[一言] どちらというと一番頼れるアリゼさん本人が一番肝心な時に動かなかったから本来救えるチャンスを逃したでしょう。 他の人達にはそんなに責任が大きくないだと思います。アリゼさんについては気持ちをある…
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