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29 スライムは魔王になりたい

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 ユーは魔族も助けたいらしい。

 今回の戦争で甚大な被害が出ている人間側から見れば、裏切り者だと言われても仕方がない発言である。

 だから──、


「あまりそういうことは、口にしないでください」


 レイチェルが不機嫌そうな顔で、ユーを(とが)める。

 人類の代表者とも言える立場の彼女からしてみれば、あまりいい気のしない話だろう。

 ただし──、


「魔族に反感を持つ者に聞かれたら、あなたまで敵視されかねないのです。

 発言する時は、周囲の人間を確認し、よく考えて」


「はい……」

 

 と、あくまでもユーのことを心配しての発言でもある。

 レイチェルだってユーがスライムであり、どちらかというと魔族寄りの存在だということは理解しているのだから、その気持ちも全否定はできないのだ。


 それに私だって、魔族という種そのものを、根絶したいとは思っていない。

 もしもそんなことがまかり通ってしまえば、獣人などの亜人の扱いだって、今後は微妙になってしまいかねないからだ。

 (いさか)いが生じる(たび)に他種族を滅ぼしていたら、最終的には誰もいなくなってしまう。


 というか我が妹のシスや娘のリゼ達からして、分類上は魔族でしょ、きっと……。

 だから最初から滅ぼすなんて選択肢は無しだ。


 幸いユーから聞いた魔王の人柄を(かんが)みるに、魔族との共存が不可能だという印象は無かった。

 その感性や倫理観は、我ら人類と大きくは違っていないように思う。

 むしろかつて私と敵対していた奴隷商や悪徳貴族などからくらべれば、かなりまともだ。

 勿論、一部にはどうしても相容れない者もいるだろうけれど、そいつらは排除すればいい。


「でも、今は魔族も滅びるかどうかの瀬戸際なんだよ。

 だから動くのなら、早い方がいいと思うんだ。

 なんなら私が魔王になって魔族の一部を従えて、人類との共存や共闘を模索してもいいんだよ?」


「それは壮大な夢ね……」


 ユーの気持ちは分かるのだが、現状ではまずこの戦いを勝ち抜かないと、人類の滅亡も有り得る状況だ。

 魔族との和解の道を(さぐ)る余裕があるのかというと、今は難しいかもしれない。

 彼女が魔王になるとかいう話を、論じている場合ではないと言える。


 というか、マジで某リ●ル様を目指していないか、君?


「あ、そういうことなら丁度いい。

 ユーには、協力してもらいたいことがあるよ」


 と、アリタが何かを思いついたようだ。


「いいけど、何をすればいいの?」


「ちょっと待っててね……今大丈夫?」


 ん? 誰かと念話を始めた?


「いい? 

 じゃあ()ぶよ~。

 ほい!」


 アリタの掛け声が上がるのと同時に、天使の姿をした少女が現れた。

 召喚魔法か。


「母さんは初めてだよね。

 私の新しい眷属のファーンだよ。

 素体は魔王軍四天王のカシファーンと(ドラゴン)


 おいおい、とんでもない大物を素体に使っているなぁ……。

 しかも完全に別物になっているし、相当「変形」のスキルで弄くっているでしょ……。

 って、こんな天使の姿でも死に損ない(アンデッド)系の魔物なのか。


「ほら、ファーン。

 以前、あんたと戦ったのが、この母さんだよ」


「お前がっ──……いや、どうもお久しぶりです。

 あの時は失礼いたしました……」


 ファーンは一瞬、私に食ってかかろうとしたが、すぐに態度を改めて頭を下げた。

 それも謝罪の為というよりは、私と目を合わせたくないという感じで、言葉の最後の方も、常人には聞き取れるかどうかというくらい小さなものだ。

 身体(からだ)も小刻みに震えている。


「そう、よろしくね」


 私は短くそう答え、ファーンには興味が無いという風に、意図的に別の方へと視線を向ける。

 すると彼女は、


「お前の母親はどうなっているのだ!?

 以前の数倍──いや、十数倍以上の力の気配を感じるぞ

 本当に人間か!?」


 と、小声でアリタを問い詰めている。

 まあ、全部聞こえているけどね。


 ああ……なるほど。

 気配だけで私の実力を感じ取り、逆らわない方が良いと判断した訳か。

 情けなくはあるが、賢い選択でもある。


「母さんは母さんという、1個の超生命体で、人間とか魔族とかの枠にはハマらないよ?」


 アリタさん!?

 たとえ事実でも、娘から人間扱いされないのは、母として悲しいよ!?


「それで……何の為に我を喚んだのだ?」


 そうだった。

 何か用があるから、アリタはファーンを召喚したんだっけ。


「ああ、紹介したい子がいるんだよ。

 ほら、ユー。

 元魔族のお姉さんだよー。


 この人、魔族の切り崩し工作をしているから、手伝ってあげなよ。

 結果的に魔族を助けることになるよ」


「おお、そうなんだ!」


 ほう、私がいない間に、そんなこともしていたのか。

 確かにファーンによって反クジュラウス派を集めて人間の味方に付けることができれば、魔族の中にも色々な派閥があるのだということを人間達に理解させやすいし、「魔族は絶対的な人類の敵」という認識も少しは薄まるのかもしれない。

 そしてそれは、ユーの望む方向性にも合致するだろう。


「初めまして、ユーです!

 魔王を目指しているよ。

 これから、よろしくね!」


「魔王!?

 こんなチビが魔王様を差し置いて魔王!?

 何言っているんだ!?」


 当然というか、ユーの言葉を受けて、ファーンは激高した。

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