28 逃げ場無し
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魔王を吸収した私は、自身の変化を確認してみる。
私の「吸収」は、吸収した相手の能力や記憶を、ランダムで手に入れることができる。
当然、能力値やスキル数などが多い者からの方が、得る物は大きい。
魔王ほどの存在から獲得した物ならば……と、期待したのだが──。
ん~……スキルが増えた感じは、全然しないねぇ……。
やっぱり魔王は、スキルを全て奪われた状態だったのだろうなぁ……。
ただ、膨大な質量を吸収したので、生命力や体力の数値とかは伸びたんじゃないかな?……って気はする。
魔力は……よく分からないや。
でも魔王の記憶は断片的に手に入ったから魔法の知識は多少増えたし、以前よりも魔法が使えるようにはなったのかもしれない。
それとその記憶なんだけど、やはり王者としての苦悩が見え隠れしていた。
彼女も好んで人間と争いたかった訳じゃなかったみたい。
種族が違うというだけでも軋轢は生じるものだけど、それが国と国との関係ともなれば、どうしても折り合いが付かないこともあり、お互いの国民単位で戦争に突き進んでしまった……ということのようだ。
そして魔王にとって最大の心残りは、一人娘の存在だ。
彼女が勇者に敗れた後、娘がどうなってしまったのかについては知らないらしい。
復活後も再会できていなかったことを考えると、もう存命してはいないのだろうね……。
……いよいよその娘と本体の間に、大きな関わりがありそうだな……。
クジュラウスの魔王への扱いを考えると、娘も謀殺されそうになったとかで逃げ出した後、瀕死になったていたところを本体に拾われて吸収された……というようなことがあったのかも……。
だとしたらある意味魔王と娘は、私の中でようやく再会できた……ということなるるだろうか。
はぁ……そんな因縁があるのだとしたら、私が魔族のこともなんとかしてあげたいな……。
取りあえず戦いを終わらせて、その後に人間と和解する方向へ持って行けるように──。
その為には私が魔王になる──なんてことも必要なのかな。
ま、今後のことは、お祖母ちゃんと合流してから相談しよう。
じゃ、そろそろここから脱出するか。
え~と、出口は……吸収した魔族の記憶によると、何ヶ所かあるけど1番近いのは巨神のうなじ部分かな?
ちなみに内部からしか扉は開けられないらしく、外部からの侵入には使えない。
そして司令部が頭部だから、そこに近いと敵が増えそうだけど……。
そんなことを考えながら、取りあえず最寄りの階段へ向かって進んでいると、突然巨神の内部全体が揺らぐような衝撃を感じた。
あ……今までも何度か感じたけれど、誰かが攻撃しているってことかな?
つまり近くに味方が来ているってことだ。
それならやっぱり1番近い出口から出て、味方との合流を優先しよう!
急いで脱出だよ!
まあ、出口にはさすがに警備兵がいて、強行突破する形になってしまったから、ちょっと慌ただしい脱出劇になってしまったけどね。
そして追っ手が来る前に脱出する為、私は巨神から飛び降りることにする。
I can fly!!
近くまで誰かが来ていることは知っていたから、回収してくれることを期待してのことだけど、まさか巨神が攻撃してくるとは思っていなかったから、凄くヒヤヒヤとしたよ……。
お祖母ちゃんが間に合ってくれて良かった……。
ν・クラリスよ!
私達は王都に帰還して、巨神像より脱出してきたユーから詳しい話を聞いた。
ユーが持ち帰った情報は、なかなか貴重なものばかりだ。
魔王は既に死に、倒すべき敵が四天王のクジュラウスであること。
アイが魔王の娘を、吸収していたかもしれないということ。
そしてユーが手に入れた研究資料らしき物の数々──。
「……これを解析すれば、巨神像の攻略することもできるかもしれないわ!」
ただ量が量だけに、これを解析するのには時間がかかるだろう。
本棚の1つや2つ分くらいはある。
しかも魔族語か……あるいは古代文明語で書かれているであろうこれを解析するには、高レベルの「言語理解」のスキルを持っている私か、私の娘達くらいしかできないだろう。
……いや、リゼはこういう作業には向かないな。
あの子、小説すら読まないし。
それに他の娘達も、侵攻中の魔族軍と戦う貴重な戦力だし、どうしたものかねぇ……。
いずれにしても、攻略法が見つかるかどうかは現時点では分からないし、時間にも限りはある。
念の為に巨神像の進行予想ルート上にある町は勿論、王都の住人も避難させた方がいいな……。
「住民を避難させるのなら、やはり南よね……。
数十万人を短期間で避難させるのは難しいけれど、やらないよりはマシ……かしら」
「いえ……それは先程不可能になりました」
私の言葉をレイチェルは否定した。
「……なんで?」
「南の海から無数の魔獣が上陸した……と、監視をしていたメイド隊から連絡がありました。
今までに見たこともないおぞましい姿で、しかも竜種に匹敵するほどの強大な力を感じたそうです」
「ユーが話していた合成魔獣ね」
「あっ、やっぱり戦力を温存していたんだ」
くっ……北も駄目、南も駄目。
西は帝国からの避難民が押し寄せてきているし、北東では巨神像が移動中……。
王都の住民を逃がそうにも、適当な場所が無い……!
これならば王都から住民を動かさない方が、防衛しやすいのかもしれないな……。
「これは……巨神像が王都に到達する前に、決着をつけるしかないということね……!」
「ん~、じゃあ私とシルビナで、巨神像の足止めをしてくるよ。
その間に母さんは資料の解析をお願い。
姉さん達はキメラの迎撃ってことでどう?」
「……それでいいの、アリタ?」
「まあ……私しかいないっしょ!」
巨神像にはアイすらも負けた。
それだけに、奴と対峙するのは危険が大きい。
だけどアリタとシルビナのコンビは、状況次第でアイ以上の戦闘力を発揮できる。
「それなら、お願いするわ」
「うん、任せて!」
これで数日は、巨神像の進行を遅らせることができるかな……?
私はその間に、資料の解析をできる限り進めよう。
「あっ、はいはい!」
「なに、ユー?」
突然ユーが手を上げて騒ぎ出す。
「私、魔族も助けたいんだけど、どうしたらいいかな?」
そんなことをユーは言い出したけど、そんな余裕がある状況かなぁ……?
魔王の娘については、「私」が「乗っ取り」以外のスキルを得て転生して来た場合、生存ルートが開けるかと……。本編完結後に、機会があれば書くこともあるかもしれませんが……。




