15 牢屋の中で
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私、レイチェルさん。
今、奴隷商の店の前にいるの。
町の外れにある、結構大きな建物ですね。
こんな辺境の開拓地でも、奴隷商の店はある。
むしろ開拓地だからこそ、厳しい開墾作業に酷使できる奴隷の需要があるのだろう。
そんな訳でこの土地でも奴隷は珍しくなく、奴隷商の店の位置は子供であるレイチェルでも元々知っていた。
更にそこへ自分自身も1度送られているので、忘れるはずもない。
領主の次は、レイチェルを売り飛ばした奴隷商人を始末しなければならない。
領主と共謀していたこいつも、このまま生かしてはおけないのだ。
うん、領主の館で起こった火災の火の粉が、たまたま燃え移った……という体で店ごと消えてもらおうと思う。
領主の館とも数百mしか離れていないので、そんなに不自然でもないだろう。
ただその前に、中には売られる前の奴隷が何人もいると思うので、彼らを逃がしてからだなぁ……。
しかし奴隷の中には、犯罪者が奴隷に落とされたパターンもあるのではなかろうか。
そういうのを逃がしちゃっても、大丈夫なのかなぁ……?
まあその辺は、追々考えよう。
とりあえず裏口から侵入するか。
で、侵入してからすぐに、襲撃を受けた。
あの領主の館にもいた暗殺者の、同類だと思われる連中だ。
さすがに奴隷商という裏社会とも繋がっていそうな業種らしく、雇っている人数も多い。
そんな集団が警告も無く、こんな可愛い女の子にいきなり刃物で斬りかかってくる辺り、根っからの殺人集団なのだろうな。
てめえらの血は、何色だぁーっ!?
だから見逃してあげる意義も感じなかったので、過剰防衛で叩きのめして動けなくした後に、遅効性の致死毒を注入してあげた。
死に至るのはまだ先の話なので、乗っ取りは発動しない。
そして彼らが死んだ後は、建物ごと燃やして証拠隠滅を図る予定である。
後々、警察的な組織や裏世界から私に追っ手がかけられる可能性もあるから、証拠はなるべく消しておいた方がいいだろう。
さて、残るは奴隷商のおっさんだけ……かな?
ん……?
奴隷商がいると思われる部屋に、もう1人気配があるな。
これは護衛か……それとも……。
ともかく、私は扉を開けて、部屋の中へと踏み込む。
するとそこには──、
「ごきげんよう、おじさま~。
おや……?
あなた、また会いましたね?」
「ひいっ!?」
そこには高級そうな服を身に纏った髭面の奴隷商の他に、領主の館で息子と寝ていた女の姿があった。
領主の館から逃げ出したはずだが、こんなところに逃げ込んでいるということは、ただの愛人ではなかったということか。
いや……まてよ……。
「あ~……そうか、そうでしたか。
私としたことが、すっかり失念していました。
あなた……私のお父さんを、誑かした人ですね?」
私の指摘で、女の顔がこれ以上無いくらいに引き誑る。
その怯えようは尋常ではなく、間違い無く心当たりがある様子だ。
やはりそうか。
この女が、レイチェルの家庭を直接崩壊に導いた実行犯だと言える。
ならば領主や奴隷商と同じレベルで、許せない存在だ。
それにしてもこの女、確かに美人で胸は大きいけど、よく見れば化粧は濃いし、年齢を誤魔化していそうな感じがする。
そしてなによりも、明らかに気質ではない雰囲気を身に纏っている。
こんな女に引っかかるなんて、馬鹿なお父さんだなぁ……。
今度会ったら、必ず殴っておこう。
ともかく、まずはこいつらの処遇である。
「さて、抵抗さえしなければ、私はあなた達を殺しません」
「ほ、本当か!?」
「ええ……」
お前達の身体なんかいらないしね。
少なくとも、乗っ取りが発動するようなことはしないよ。
「だから、大人しく私の指示に従ってくださいね。
まずは、奴隷達がどこにいるのか、案内してください。
彼らを解放する準備も、しておいてくださいね」
そう、奴隷達を解放する為に、奴隷商の協力が必要なのだ。
異世界では魔法で奴隷の行動を縛っているパターンが多いので、その場合は奴隷商に解除してもらわなければならないだろう。
「そ、そんな、売り物がなくなったら、大損だ!!
明日から、どうやって商売しろっていうんだ!」
「それは……生命よりも大切ですか?」
「ぐぬっ……!」
私の言葉に奴隷商は押し黙る。
指示に従わないのなら、用済みだからこの場で消すだけだ。
その後、地下牢の中に閉じ込められていた奴隷達を解放した。
地下牢はなかなか劣悪な環境で、奴隷達も不衛生に汚れている。
思わずレイチェルの身の回りの世話をしてくれていたダグズに、感謝をしてしまった。
まあ、あの離れは領主も訪れるから、汚くしておく訳にはいかなかったのだろうけれど。
……
奴隷は全部で16人──中には5~6才の女の子もいる。
その奴隷としての用途を考えると、反吐が出るな……!
しかも奴隷の大半は、獣人だった。
それは人間に動物の特徴を付け足したようなタイプではなく、動物が二足歩行で直立しているタイプだ。
ただ、手の先が蹄や肉球では、二足歩行できるメリットはあまり無いので、指は人間の形に近く、ちゃんと道具が使えるようだ。
いずれにしても、獣人の奴隷が多いということは、人種差別的な背景があることは間違いないだろう。
この世界もなかなか面倒臭そうだなぁ……。
ともかく彼らは逃がすけど、その後の行動については責任が持てない。
それでも、釘を刺すことくらいはしておこう。
「はい、これからあなた達は自由です。
ただし、生きる為にどうしても必要なことならば仕方がありませんが、なるべく殺人などの凶悪犯罪はやらないようにしてください。
あまりにも目に余るようなら、逃がした私が責任をとって討伐します」
まあ、そんなことは面倒なので、実際にはしないけどね。
いや、私の目の届く範囲で行われた凶行なら別だけど。
しかし皆は、今の私のような小さな女の子に言われても納得できないようで、「なんだこいつ?」というような顔をしている者も多い。
そこで私は、恐竜の熱線のアレンジ技として、掌からビームサーベルを生み出した。
そしてそれで、近くの牢屋の鉄格子を、バターのように斬り裂いてみせる。
「分かりましたね?」
「「「は、はい!」」」
私の実力を見せつけられて、元奴隷達は忙しなく頷いた。
これだけ脅しておけば、犯罪行為は自重してくれる……といいなぁ。
うむ、それじゃあ次は、用済みになった奴隷商とあの女の処遇だ。
私は奴隷商とあの女に、今し方鉄格子を斬った牢屋の中へ入るように促した。
彼らは怯えた表情で、素直に入っていく。
私が怖いというのもあるのかもしれないが、元奴隷達からも凄く睨まれているから、迂闊なことはできないのだろう。
恨まれているなぁ……。
「な……何をするつもりだ……?」
「私は何もしませんよ。
我々がここから脱出するまで、そこで大人しくしていてください」
そして私は彼らに背を向ける。
勿論、このままで済ますつもりは、毛頭無いけどね。
「あ、先程、凶悪犯罪はやらないようにと言いましたけど、今から10分間だけ、私は目を瞑りますよ?」
と、元奴隷達に呼びかけてから、奴隷商とあの女が入っている牢屋の方へと視線を送った。
「……!」
その意味を察した元奴隷達は、牢屋の方へと殺到していく。
鉄格子は斬っておいたから、多人数でも一気に入れますよ。
彼らも奴隷商に対しては、様々な恨み辛みがあるのだろう。
私だけ復讐して、彼らにはそれをさせないというのは、フェアじゃないからね。
「ひいぃ……っ!!
殺さないって、約束したのにぃ……っ!!」
「やめさせてぇぇ……っ!!
この人でなしぃぃっ!!」
集団から殴る蹴るの暴行を受けている奴隷商と女から、恨み言が聞こえてくる。
確かに「私は殺さない」って言ったね、私は。
「私が約束をいつ破りました?
言ってみなさい」
何処かの魚人みたいなことを言って、一蹴ですよ。
そもそも外道との約束なんて、守る必要性は感じないからねぇ……。
それよりもここには幼女もいるので、凄惨な暴行の現場が目に入らないように、配慮してあげよう。
私はまず、その小さな女の子をこの場から連れ出すことにした。
はうぅ~、可愛いよぉ。
お持ち帰りぃ~!
なお、「私」がパロとかで悪ふざけをしている時は、軽く現実逃避して心の安定を図っている場合も多いです。