表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

367/392

25 スライムの冒険

 ブックマーク・☆での評価・いいね・感想をありがとうございました!


 今回は途中で視点が変わります。

「やあ、私はアイが生み出した分身──お祖母(ばあ)ちゃんにとっての娘達みたいな存在だよ。

 ユー(YOU)とでも呼んでおくれよ」


 アイにそっくりな幼女はそう言った。

 姿だけではなく言動まで似ていることから、おそらくは記憶や能力も受け継いでいる。

 だけどアリゼ(元私)とアリタが、同じ身体を持っていても別人であったのと同様に、この子はアイ本人ではない。

 少なくとも、魂の質が微妙に異なることは、オーラを()れば分かる。


 アイ本人はまだ見つかっていない。

 実は王城へ行く前に私も、ノーザンリリィの様子を見に行ったのだけど、そこには焦土が広がっているだけで、アイどころか生物の気配すらも感じられなかった。

 

 スライムの身体(からだ)を持つ彼女が、そう簡単に死ぬとは思えなかったが、それだけに生きているのならば、姿を現さない理由も無い。

 私の脳裏に最悪の結末がよぎったけど、できるだけそれを考えないようにしていた。

 でも──、


「そう……ユーね」


「うん」


 今まで分身を生み出すことがなかったアイが、こうして娘を作ったということは、きっと死を覚悟してのことだったのだろう。

 少なくとも死の可能性が皆無だったのならば、必要の無い行為だった。


 まだ確定ではないとは言え、まさか妻に続いて娘までも失うことになろうとは……。

 こんなことになっていたのに、部屋で(ほう)けていた自分に腹が立つ。


「アリタ、ちょっと私のことを本気で殴ってちょうだい」


「イエス、マム!」


 と、アリタは私の想いを察してくれたのか、すぐに応じてくれた。

 でも、そのデン●シー・ロールの動きは必要?

 そして──、


「ぐふっ!」


 顔にくると思っていたパンチがボディにきて、予想以上の衝撃を感じた。


「な、なにしてるの、お祖母ちゃん達!?」


「ユーは気にしなくてもいいのよ」


 私は平静を(よそお)いつつ、微笑(ほほえ)んだ。

 アイを失ったかもしれないという事実は悲しいけれど、だからといってユーには泣き顔を見せられなかった。

 新しい孫の誕生は、笑顔で祝福しなければならない。

 そうしなければユーは、「自分よりもアイが生きていた方が良かった」と気に病んでしまうのかもしれないのだから。


 でも、子に先立たれるのは、思っていたよりもキツイなぁ……。

 先程別れたばかりのグラスの気持ちを、こんなに早く実感することになろうとは、全く想像していなかった。

 娘に先立たれ、そしてその娘が幼い頃の姿で──しかし別人として目の前に現れるって、まったく同じシチュエーションだわ……。

 今度グラスに会った時は、もっと色々と話し合おうと思う。


 だけど今は、くよくよしてられない。

 もう後悔をしない為に──。


「ねえ、ユー。

 あの巨人のところで、何があったのか教えてくれないかしら?」


「いいよー、お祖母ちゃん!」


 それからユーが話してくれたことは、重要な情報が沢山含まれていた。




 私が目を覚ますと、スライムの状態であの巨神の体表にへばりついていた。

 背中の辺りだろうか?

 

 確か私は巨神と戦って──いや、違う。

 あれは本体だ。

 私は「分裂」のスキルで生み出された、分身の方だね。

 

 記憶は巨神が腹ビームを撃とうした直前に、「分裂」のスキルで分身を生み出すことを決めたところまでしかない。

 そこから先は、何があったのか分からなかった。

 

 他にも、所々で記憶に穴がある。

 それに能力が大幅に弱体化しているのが、なんとなく分かる。

 たぶん急いで分裂したから、コピーが完全ではなかったのだ。 


 本体は……死んだのかな?

 自身が作りあげた領都と領民を守る為とは言え、無茶しやがって……。

 ただ、こうして私の方に記憶が繋がっているから、いまいち死の実感が無いんだよね……。

 

 それでも部分的な記憶の断絶と能力の低下で、私は本体とは別の存在であることを実感してしまう。

 ……まあ、それでもやることは変わらない。


『さあ、巨神を倒す方法を(さぐ)るぞ~!』


 今の姿は精々数十cmのスライムに過ぎないので、巨神には身体にへばりついていても気付かれないと思うけれど、一応「隠密」や「擬態」のスキルで身を隠しつつ、巨神の体表を調べながら移動する。

 そしてたまに鳥や虫が近づいてきたら、それ捕らえて吸収し、低下した能力の回復に(つと)めていた。


 しかしなかなか結果が出ない。

 巨神の中に侵入しようと思っていたのだけど、入れそうな隙間が見つからないのだ。

 関節部ですら隙間が無いって、どうなっているんだ、これ?


 そもそも大きすぎるんだよ、こいつ!

 こんなでっかい奴の体表を全部調べようとしたら、何日かかるんだよ!?

 私は途方に暮れそうになったけど、なんとか(くじ)けずに作業を続けること約1日──ようやく小さな穴を見つけた。


『空気穴かな……?』

 

 巨神の中に魔族がいるのならば、それは絶対に必要なものであるはずだ。

 その直径10cmほどの穴に、私は入ってみることにした。

 不定型なスライムの身体ならば、侵入は容易(たやす)い。


 あれ……?

 途中で塞がっている。

 でも、これ金属製の隔壁みたいで、動きそうだな……。


 たぶんここから水や毒ガスなどを流し込まれないように、今は塞いであるんだな。

 だけど空気穴だという私の予想が正しいのなら、いずれは開くはず。

 その可能性に懸けて、私は待つ。

 ただひたすら待つ。


 そして何時間経過したのか分からないけど、それほど長い時間を待った結果、その隔壁は開いた。


『やった!』


 しかし空気を取り入れる為か、掃除機のような吸引力が私を襲う。


『うあぁぁぁぁ!?』

 

 私はなす(すべ)なく吸い込まれ、やがてゴミなどを取り除く為のフィルターなのか、細かい網に引っかかった。

 不定形の私ならば、通り抜けられないこともないけれど、網で心太(ところてん)のように身体が麺状にされるのは、気持ちのいいものではない。


 バラバラになった身体を集合させて、再結合するのは可能だけど、あまり小さな破片は、自ら動く能力が無くなってしまう。

 この吸引によって身体が拡散してしまわないように、私は必死で千切れた身体をかき集めた。


 そうしている間に私は、いつの間にか先程よりも広い、換気ダクトらしき場所にいることに気がつく。

 どうやら巨神の内部への侵入に成功したようだ。


 よし、探検だーっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ