25 スライムの冒険
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今回は途中で視点が変わります。
「やあ、私はアイが生み出した分身──お祖母ちゃんにとっての娘達みたいな存在だよ。
ユーとでも呼んでおくれよ」
アイにそっくりな幼女はそう言った。
姿だけではなく言動まで似ていることから、おそらくは記憶や能力も受け継いでいる。
だけどアリゼとアリタが、同じ身体を持っていても別人であったのと同様に、この子はアイ本人ではない。
少なくとも、魂の質が微妙に異なることは、オーラを視れば分かる。
アイ本人はまだ見つかっていない。
実は王城へ行く前に私も、ノーザンリリィの様子を見に行ったのだけど、そこには焦土が広がっているだけで、アイどころか生物の気配すらも感じられなかった。
スライムの身体を持つ彼女が、そう簡単に死ぬとは思えなかったが、それだけに生きているのならば、姿を現さない理由も無い。
私の脳裏に最悪の結末がよぎったけど、できるだけそれを考えないようにしていた。
でも──、
「そう……ユーね」
「うん」
今まで分身を生み出すことがなかったアイが、こうして娘を作ったということは、きっと死を覚悟してのことだったのだろう。
少なくとも死の可能性が皆無だったのならば、必要の無い行為だった。
まだ確定ではないとは言え、まさか妻に続いて娘までも失うことになろうとは……。
こんなことになっていたのに、部屋で呆けていた自分に腹が立つ。
「アリタ、ちょっと私のことを本気で殴ってちょうだい」
「イエス、マム!」
と、アリタは私の想いを察してくれたのか、すぐに応じてくれた。
でも、そのデン●シー・ロールの動きは必要?
そして──、
「ぐふっ!」
顔にくると思っていたパンチがボディにきて、予想以上の衝撃を感じた。
「な、なにしてるの、お祖母ちゃん達!?」
「ユーは気にしなくてもいいのよ」
私は平静を装いつつ、微笑んだ。
アイを失ったかもしれないという事実は悲しいけれど、だからといってユーには泣き顔を見せられなかった。
新しい孫の誕生は、笑顔で祝福しなければならない。
そうしなければユーは、「自分よりもアイが生きていた方が良かった」と気に病んでしまうのかもしれないのだから。
でも、子に先立たれるのは、思っていたよりもキツイなぁ……。
先程別れたばかりのグラスの気持ちを、こんなに早く実感することになろうとは、全く想像していなかった。
娘に先立たれ、そしてその娘が幼い頃の姿で──しかし別人として目の前に現れるって、まったく同じシチュエーションだわ……。
今度グラスに会った時は、もっと色々と話し合おうと思う。
だけど今は、くよくよしてられない。
もう後悔をしない為に──。
「ねえ、ユー。
あの巨人のところで、何があったのか教えてくれないかしら?」
「いいよー、お祖母ちゃん!」
それからユーが話してくれたことは、重要な情報が沢山含まれていた。
私が目を覚ますと、スライムの状態であの巨神の体表にへばりついていた。
背中の辺りだろうか?
確か私は巨神と戦って──いや、違う。
あれは本体だ。
私は「分裂」のスキルで生み出された、分身の方だね。
記憶は巨神が腹ビームを撃とうした直前に、「分裂」のスキルで分身を生み出すことを決めたところまでしかない。
そこから先は、何があったのか分からなかった。
他にも、所々で記憶に穴がある。
それに能力が大幅に弱体化しているのが、なんとなく分かる。
たぶん急いで分裂したから、コピーが完全ではなかったのだ。
本体は……死んだのかな?
自身が作りあげた領都と領民を守る為とは言え、無茶しやがって……。
ただ、こうして私の方に記憶が繋がっているから、いまいち死の実感が無いんだよね……。
それでも部分的な記憶の断絶と能力の低下で、私は本体とは別の存在であることを実感してしまう。
……まあ、それでもやることは変わらない。
『さあ、巨神を倒す方法を探るぞ~!』
今の姿は精々数十cmのスライムに過ぎないので、巨神には身体にへばりついていても気付かれないと思うけれど、一応「隠密」や「擬態」のスキルで身を隠しつつ、巨神の体表を調べながら移動する。
そしてたまに鳥や虫が近づいてきたら、それ捕らえて吸収し、低下した能力の回復に努めていた。
しかしなかなか結果が出ない。
巨神の中に侵入しようと思っていたのだけど、入れそうな隙間が見つからないのだ。
関節部ですら隙間が無いって、どうなっているんだ、これ?
そもそも大きすぎるんだよ、こいつ!
こんなでっかい奴の体表を全部調べようとしたら、何日かかるんだよ!?
私は途方に暮れそうになったけど、なんとか挫けずに作業を続けること約1日──ようやく小さな穴を見つけた。
『空気穴かな……?』
巨神の中に魔族がいるのならば、それは絶対に必要なものであるはずだ。
その直径10cmほどの穴に、私は入ってみることにした。
不定型なスライムの身体ならば、侵入は容易い。
あれ……?
途中で塞がっている。
でも、これ金属製の隔壁みたいで、動きそうだな……。
たぶんここから水や毒ガスなどを流し込まれないように、今は塞いであるんだな。
だけど空気穴だという私の予想が正しいのなら、いずれは開くはず。
その可能性に懸けて、私は待つ。
ただひたすら待つ。
そして何時間経過したのか分からないけど、それほど長い時間を待った結果、その隔壁は開いた。
『やった!』
しかし空気を取り入れる為か、掃除機のような吸引力が私を襲う。
『うあぁぁぁぁ!?』
私はなす術なく吸い込まれ、やがてゴミなどを取り除く為のフィルターなのか、細かい網に引っかかった。
不定形の私ならば、通り抜けられないこともないけれど、網で心太のように身体が麺状にされるのは、気持ちのいいものではない。
バラバラになった身体を集合させて、再結合するのは可能だけど、あまり小さな破片は、自ら動く能力が無くなってしまう。
この吸引によって身体が拡散してしまわないように、私は必死で千切れた身体をかき集めた。
そうしている間に私は、いつの間にか先程よりも広い、換気ダクトらしき場所にいることに気がつく。
どうやら巨神の内部への侵入に成功したようだ。
よし、探検だーっ!




