22 女王復活
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私は詳しい戦況を聞く為に、レイチェルがいるという王城へと向かった。
なんだか随分と久しぶりに来たような気がするけど、実際にクラリスが寝込むようになって自宅で介護をしはじめた数ヶ月くらい前から訪れる機会がなかったので、久しぶりなのも事実ではある。
でも、感覚的には年単位ぶりだ。
……この数ヶ月で、本当に色んな物が変わってしまったからなぁ……。
まあ、1番変わったのは、私の姿なのかもしれないが……。
「私が──来た──わよ!」
私はレイチェル達がいる会議室へと乗り込んだ。
室内にはレイチェルや孫のエリーシャ、その他の国の重鎮が集まっていたので、本来ならこの突然の闖入は、兵士によって即斬り殺されてもおかしくない行為だ。
実際私の背後では、アリタが片手で「ゴメンね」のポーズを取っている。
だけど今の私は元女王だし、問題はなかろう。
事実──、
「お祖母様……!」
「クラリス陛下……!」
クラリスの若い頃の姿を知っている古株は、比較的冷静だった。
上層部の中には私の能力を知っている者も多いので、何が起きているのかを察しているのだろう。
それでもクラリスの国葬は行われたばかりだし、どう反応して良いのか分からないという顔をしている。
それに事情を知らない若い世代は、さすがにざわついていた。
「はい、静粛に!
我が国の正統な女王が復帰したのです」
レイチェルの声で、室内がシーンと静まり返る。
「ようやく立ち直りましたか。
それではどうぞ」
上座にいたレイチェルは立ち上がり、私に席を譲ってくれた。
それはつまり、この場では私の序列が1番上ということを、雄弁に物語っている。
「まさか、お祖母様が表に出てくるとは……」
「国の一大事に死んでいられないわよ。
女王クラリスの復活って訳ね!
あ、勿論現女王は、今まで通りエリーシャでいいけど、私にも王族としてできることをさせてちょうだい」
と、私はクラリスが言いそうなことを演じている──のではなく、この状況ならばクラリスが本当に言うはずのことを喋っている。
これは「魂の融合」でクラリスの記憶を知っているから、それが分かるという訳ではない。
実はこれ、「共鳴LV99」というスキルの力によるものだ。
このスキルは長らく効果が謎だったが、通常は「LV10」でカンストするはずのスキルなのに、「魂の融合LV99」と同様に限界突破していたので、なにか特別なスキルであることは予想できた。
で、色々と検証した結果、融合した魂の人格と共鳴し、その人格を完全に再現することが可能だということが分かってきたのだ。
これはたぶん、過去にも自動で発動していたことがあると思うんだよね。
レイチェルの両親のことに対して、本気で泣いたり怒ったりしたしたことがあるけれど、あれは単なる感情移入という訳ではなかったのだ──と、今では思う
つまり今の私は「私」であるのと同時に、本物のクラリスと同じ思考と言動をすることができる。
誰にも「偽物」だとは言わせない。
「それでは……私がいなかった間のことを、聞かせてもらえるかしら?」
それから聞かされた戦況については、アリタからも少しは聞いていたけど、改めてかなり酷いことになっていると感じた。
北方のいくつもの都市が壊滅し、数十万人の犠牲者が出ているし、アイも生死不明……。
そしてトドメに巨神像──だ。
人類はかつてないほど、追い込まれていると言ってもいいだろう。
だけどある意味では、よくぞこの程度で済んでいるとも言える。
竜族を仲間に引き入れることができたとはいえ、魔物の軍勢を殲滅する目処は立っているし、巨神像さえどうにかすることができれば、勝ち筋は見えているように思う。
つまり多大な被害を出しているとは言え、現状では最善の結果を出しているということだ。
これならば私がもっと早い段階から参戦していても、魔物の群れを駆逐する作業に協力することくらいしか、やれることは無かったかもしれないな……。
いや、巨神像に関しては別の話だが。
ここは私が遅れてきた分だけ、働くことにしよう。
「私がいない間、よく国を支えてくれたわね。
あとは私に任せなさい」
「お願いします」
と、レイチェルは頭を下げる。
実質的な国の最高指導者だった者が頭を下げた為、室内が少しざわついた。
まだ状況についていけない者もいるようなので、この場で私の実力を示しておこう。
「まずは、内通者のあぶり出しね」
「内通者……ですか?」
レイチェル達の表情が険しくなる。
「確かに国葬の直後で、国内がごたついているこのタイミングでの侵攻は、狙ったとしか思えませんが……」
何者かが魔族へ情報を流している──。
その可能性を考えていなかった訳では無いだろうけど、実際にその人物を特定して検挙することは難しいことなのかもしれない。
だけど私ならば、怪しい人物を見つけることだけは可能だ。
私の「万能感知」の範囲を、王都全体に広げる。
これでオーラに異常がある者を特定──本来ならばオーラは直接本人を視ないと分からないのだけど、昔「吸収」で手に入れた「千里眼」のスキルを併用することで、この場にいながらにして、王都の全人口をスキャンすることができた。
何かしらの重大な犯罪を行った者は、オーラの色が酷く濁っている。
殺人程度ではそこまで濁らないだろう……というほど、特に酷い人物を特定した。
また、この王都には基本的に人間と獣人、そして人外のメイド隊しか存在しないはずなので、それとは別種の種族的特徴を備えたオーラを持つ者がいれば、魔族である可能性が高い。
それも特定──。
え~と……81人か。
これが百万人以上もいる王都の人口から比べると、多いとみるか少ないとみるべきか……。
まあ、彼らの存在が即今回の侵攻と関係しているという証拠にはならないが、どのみち死刑になってもおかしくないくらいの重大犯罪──例えば違法な奴隷売買とかに関わっている可能性があるので、放置はできない。
そんな連中が万が一この状況で大規模テロを起こしたら、シャレにならない被害が生じるだろうからね。
「どれ……」
私は右の掌の上に、無数の水滴を生み出して浮かべた。
「……麻痺毒かな?」
アリタやレイチェルもそれをよく使うので、水滴の正体は分かったようだ。
「正解」
次の瞬間、私はその麻痺毒を転移させ、特定していた怪しい人物や、その配下と思われる者達の体内へと直接送り込んだ。
これで余程強い耐性を持っていない限り、行動不能になるだろう。
「怪しい奴を動けなくしておいたから、官憲に伝えて捕縛しておいてちょうだい。
場所は──」
私は空間収納から王都の地図を出し、特定した人物の居場所を書き込みながら、エリーシャに伝える。
エリーシャの顔は、見る見るうちに強ばっていった。
81人は私が転移魔法で運んでもいいんだけど、その中には貴族も含まれていた為、これは国の責任者である女王が厳正に対処しなければならないことだろうと思い、任せることにした。
「分かりました。
必ず真相を明らかにします……!」
と、エリーシャ。
まあ、取り調べとかには時間がかかるのだろうから、罪状が確定するのはずっと先の話だろうけれど、少なくともこれ以上この戦いに悪影響を与えることは無いと思うし、今後王都では何かしらの重大犯罪は減るだろう。
「さあ、次は巨神像をどうにかしないとね……!」
そいつをどうにかしないと、人類に未来は無い……!




