19 そういえば
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私は王都に転移し、魔力が枯渇したリーザへ治療を施した。
しかしリーザは、1日が経過した現在もまだ目を覚ましてはいない。
その間に私は、他の生き残った者達から詳しい話を聞いた。
どうやらアイ姉は、あの巨神像と正面から戦い、その上で敗北したということのようだ。
あのアイ姉が純粋に力負けしたというのだから、ちょっと信じられない事態ではある。
「そんな……アイが……!」
私の報告を受けて、レイチェル姉さんが言葉を失う。
姉さんは前線に出て、魔物の群れを殲滅する作業にかかりきりだったけど、この非常事態を受けて王都に帰還してもらった。
このままでは、この王都も滅亡する。
アイ姉が自ら盾となってノーザンリリィの領都を庇ったらしいけれど、それでも一帯は全て吹き飛んだ。
その破壊の渦は、10kmほど離れた場所へ避難していたリーザ達にも襲いかかり、彼女が全魔力を消費して形成した「結界」で皆を守っていなければ、誰も生き残ることはできなかっただろう。
住民が既に南へ避難していて幸いだった。
その護衛にゴブリン王達が同行しているけど、他の土地の人間達にちゃんと受け入れてもらえるのか、それがちょっと心配だが……。
今のところノーザンリリィでしか、人間と共存しているゴブリンはいなかったからねぇ……。
なお、ゴブリン王は母さんの時代から現在に至るまで、現役である。
この世界の生物って、強い個体は種族とか関係なく寿命が延びる傾向にあるらしい。
それは母さんや、私達姉妹も同様ではあるが。
「まさかアイが負けるなんて……。
どうすればいいのですか……!?」
姉さんが動揺している。
アイ姉の生死については確かめようが無いので、今は考えても仕方がないが、それを抜きにしても巨神像の存在は大問題である。
あいつの接近を許せば、この王都もノーザンリリィの領都と同じ運命を辿ることになるだろう。
アイ姉が止められないような攻撃なら、母さんですら止められない可能性もある。
ただ、今すぐ答えを出さなければならない──という訳でもない。
「さっき威力偵察してきたけど、こっちの攻撃は効かない一方で、動きは遅いから、王都に攻め込んでくるまでには10日とかそれ以上かかると思う。
転移魔法が使えないということが大前提だけどね」
「そうですか……。
それならば、今は先に侵攻してくる魔物の群れを止めることを優先し、その後に全戦力でその巨神像を迎え撃った方がいいのかもしれないですね……」
「うん、今フレアに命じて竜族を動かしているから、雑魚の侵攻を止めることは時間の問題だと思う」
さすがに数が数だけに、魔物の群れを全滅させることは難しいと思うけれど、分断さえしてしまえば、群れの統率はとれなくなり、侵攻が止まる可能性は高い。
その間に魔物を操っている魔族を倒してしまえば、脅威度はかなり減るだろう。
そうなれば数年かけてゆっくりと、魔物達を駆逐していくことも可能だと思う。
ただ平行して、巨神像の対策も考えなければならない。
そんな訳で、重要参考人を呼ぶことにしよう。
『シルビナ~、ちょっとファーンを借りていい?』
『ん、アリタか。
いいぞ』
私は念話で、現在竜族と一緒に行動しているシルビナに呼びかけた。
ファーンも対魔族の貴重な戦力なんだけど、今は問題は無さそうだ。
「ほい、召喚」
「……はえ?」
いきなり王都に呼び出されたファーンは、きょとんとした顔で周囲を見回す。
そして私の顔を見て大体事情を察したのか、渋面となった。
だけどそれも、姉さんの顔を見て劇的に変わる。
「貴様……っ!」
ファーンは敵意のこもった表情を姉さんに向けたが、
「貴様……?
あなた様──でしょ……?」
「ひいっ!?」
鋭い視線で睨まれて、ファーンは即へたれた。
姉さん、めっちゃ偉そうだけど、実際に偉いのだから仕方がない。
しかもあの視線には、ガチの殺気と魔力が込められていたし。
弱い生き物が相手なら、睨み殺すことも可能だったと思う。
「ちなみにこの人、あんたが戦ったことがある母さんの方じゃなくて、私の姉さんだからね」
「こんなにそっくりなのに……?
というか、お前と全然似ていないな……」
ファーンは腑に落ちない顔をしていた。
そんなんじゃ、私の妹のリゼやケシィーを見たら、もっと訳が分からなくなるぞ。
種族からして違うからね。
一方姉さんは、
「……これがあのカシファーンですか。
随分と変わりましたね」
と、魔族から天使の姿になったファーンを、興味深げに見ている。
姉さんは「死霊魔術」を極めていないから、こういう形では眷属を作れないからなぁ……。
ただ、寿命がいつまで続くのか分からない私達は、シルビナやファーンのような不死の眷属がいた方が、後々寂しくならない……ということはあると思う。
だから姉さんも、今後眷属を作ることを考えているのかもしれない。
まあ現状では、吸血鬼メイド隊で十分かもしれないが……。
それはさておき、今は情報の収集が優先すべきことだ。
「ねえ、ファーン。
さっき一緒に見に行ったあの巨大動く石像って、何なのか知っている?」
「わ……我は知らんぞ。
さっきも言ったが、あんなのは初めて見る……」
「役に立たないではないですか……」
姉さんは呆れたような顔をする。
しかしファーンの証言は、1つの事実を導き出していた。
「でも、姉さん。
アイ姉に勝てるほど巨大で強い巨神像なんて、ファーンが魔王軍から離れていたここ数十年で開発できると思う?」
「それは……確かに難しいかもしれないのです……」
姿だけならば、土魔法を駆使すれば作れるかもしれないけど、実際にアイ姉と互角以上に戦えるだけの性能を持たせることは、かなり難しいことのように思う。
そこで私は思いついた。
これは未知のテクノロジーが使われているのではないか──ということに。
そしてそれと同類と思われる物を、私は先日見たばかりだ。
「魔王軍の本拠地だった浮遊大陸は、古代文明の力で浮いていた。
そうだよね、ファーン?」
「そ、そうだが?
我はよく知らぬが、クジュラウスはそう言っていた」
「つまり最後の四天王であるクジュラウスは、古代文明を研究していた可能性が高いってことだ」
「……!!
巨神像も古代文明の産物ってことですか……!?」
そう、あの巨神像は、古代文明の遺産かもしれない。
そしてそれが何処から来たのかと言えば──。
「姉さん、昔母さんがフレアを拾ってきた地下空洞が、あの巨神像の出所だよ。
巨大な力でミスリル鉱山の岩盤を貫いて、何者かが外に抜け出した形跡があったという、あそこが──」
「あっ、ああ──っ!?」
姉さんはすっかり忘れていたその事実を思い出して、声を上げた。




