18 神の火
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アイだよー。
……もうお腹いっぱい。
森から溢れ出した魔物を、もう数十万体は吸収したと思う。
別にまだ限界を迎えてはいないけど、気分的にはもう沢山だ……。
いい加減にしてほしい。
まあ、国の各地に出向いて戦っているリゼやシスから比べたら、楽なんだろうけどね。
私は触れた相手を自動的に吸収することもできるから、じっとしているだけでも突撃してくる馬鹿な魔物を始末することができる。
身体の一部を地面に擬態させておけば、あとはそのトラップに引っかかってくれるのを待つだけでいい。
ただ、魔王軍の侵攻が始まってから3日目。
戦いは終わる気配を見せていないんだよねぇ……。
さすがに私に対して不用意に突撃してくる魔物は減ったけど、敵の数自体は周囲に数万体規模で存在している。
そろそろこちらか打って出て、早期の決着を狙った方がいいのかもしれない。
つまり37564?
私を迂回して南に向かおうとする小賢しい連中もいるようなので、触手を森の中へ──それこそ伸ばせる限界の数km先まで伸ばした触手は、手当たり次第に魔物捕らえて吸収する。
結果、私の周囲数kmは、魔物の空白地帯となった。
よし、これで当面は魔族の侵攻が止まるな。
でもいっそ私が北に向かって、魔物を殲滅した方がいいのかなぁ?
だけど西の方にも魔王軍は展開しているらしいし、私が動いたらそいつらがこちらに来て抜けて行くかもしれない。
どうしたものかねぇ……。
そう考えていた時、リーザから念話が入る。
『え、なんかヤバイのが来ているって?』
いや、そんな気配は無かったはず──……おるな。
なんだか10kmほど先に、すっごく大きいのがいるんだけど。
超巨大な巨●兵……?
名付けたら知的レベルが上がりそう。
え……?
あんな大きいのがこれほど接近するまで、気付けないなんてことある?
あの大きさで、転移して来たとも思えないし……。
そんな大規模転移魔法に伴う魔力の動きに、私が気付かないなんてことはありえないっしょ……。
となると、「隠密」スキルでも使っていたのかな……?
それはそれで異常なことだけどさ……。
あんな巨大な物体が歩けば、普通なら地面から震動が伝わってくるはずだし、空気の動きだって生じる。
だけど歩いて少しずつこちらに向かってくる巨神からは、それが感じられない。
やはり特別な「隠密」スキルが、使われているってことかな?
まあ……あんな巨大な存在が突然都市の真ん中に転移して来たらシャレにならないから、転移魔法が使えないというのなら、そっちの方が救いはあるんだけどさぁ……。
いずれにしても、あれは魔王軍だって考えてもいいんだよね?
サイズ的に、最終兵器だという可能性もあるな……。
となると、ただ大きいだけの存在ではないのだろう。
『全員、今すぐ領都から退避して!
できるだけ遠くへ!!』
住民は既に避難しているけれど、一部の行政に関わる者や兵員は少しだけ残っている。
それにリーザもいるか。
彼女達を巻き込むのは拙い。
だけど巨神は逃げる暇すら、与えてくれなかった。
『っ!?』
巨神の目が光ったと思った瞬間、赤い光線がこちらへ伸びてくるのが感じられた。
熱線!? 10km以上離れているのに、届くのか!?
狙いは領都っ!?
私は身体を硬質化させつつ、自らを盾として熱線を受け止める。
『つっ!!』
くそっ、領都には被害は無かったけど、身体の一部が持っていかれた!!
結構な威力だぞ!
『この……!!』
私も反撃を試みる。
超圧縮した水流を、巨神目掛けて吹き付けた。
本来ならば鋼鉄すらも切断できる、ウォーターカッターだ。
しかし巨神は「結界」すらも形成せずに、身体で水流を受け止めてそのまま弾いてしまった。
だけどその水流は、強酸性で構成されている。
触れただけでも多少は溶けて……いないな。
ええぇ……ノーダメージかい……。
距離が離れすぎていた所為で威力が落ちていたとはいえ、あの巨神は恐るべき防御能力を持っているということだけは分かった。
見た目は岩のような装甲なのに、魔王軍の巨神は化け物かっ!?
ぬぅ……他に通用しそうな遠距離攻撃は無いし、どうしたものか……。
そもそも私は、魔法での遠距離攻撃が苦手なんだよ!
魔法を極める前のお母さんから分裂したから、魔法系のスキルはあまり引き継いでいないし、吸収した魔物からスキルを得ても、あまり使う必要が無かったから鍛えていないんだよなぁ……。
この無敵のスライムボディに、頼りすぎたか……!
ぬぅ……こうなったら、直接私が接近戦を挑むしかないな……。
まず私は巨神との距離を詰める為に、大きく飛び跳ねた。
ジャンプ力ぅ……ですかね。
そして空中で人間の姿に変身する。
ただしそのサイズは、あの巨神に合わせる。
その気になれば、その数倍のサイズになることもできるけど、そこまで大きくなってもさほどメリットは無い。
中身がスカスカになって防御力が下がるし、空気抵抗やら神経伝達やらの問題で、動きも鈍くなってしまう。
更に相手にとっても標的が大きくなることで、攻撃を当てやすくもなるだろう。
それよりは適度なサイズに質量を圧縮した方が、攻守共にバランスが良くなるのだ。
『げっ!?』
だが、まだ空中にいる私に向かって、巨神がまた熱線を撃ち込んできた。
私は慌て身体を捻り、その熱線を躱す。
そしてそのまま跳び蹴りだ。
『ラ●ダーキーック!!』
私の蹴りは巨神の胸部に命中したが、巨神は数歩後ろによろめいただけで、倒れることはなかった。
……打撃でダメージを与えることは難しい……のか?
それならば組み付いて関節技で……って、効いている気がしない!
テコの原理への耐性でも持っているのかい!?
こうなったら私のスライムボディに取り込んで、時間がかかっても良いから吸収を試みるか……。
それに完全に包み込んでしまえば酸素の供給が止まって、中で操縦していると思われる魔族が窒息するかもしれない。
私はすぐに人化を解いて、巨神に絡みついた。
巨神は私を振りほどこうとして暴れるけれど、粘液状になった私の身体を引き剥がすことは不可能だ。
だが──。
巨神の腹部に、物凄いエネルギー反応が……!?
これを波●砲的な感じで、撃ち出すのかい!?
そんなことをしたら、この辺一帯が吹き飛ぶ……っ!?
しかし私には、それを止める手段が無い。
発射口をなんとか塞ごうとしたけどそこは物凄い熱で、むしろ私の身体の方が焼かれてしまって無理だった。
『くっ……!』
私は巨神から離れ、その正面に自身の身体で壁を作る。
身体の構成を最高硬度に変換し、更に魔力を集中して「結界」も形成したが、これでなんとか領都を守ることができれば……!
直後、視界が真っ白に染まり……あっ、私の身体を光が貫通して──。
私は意識が薄らいでいくのを感じた。




