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14 業 火

 ブックマークと☆での評価、ありがとうございました。皆様の応援で筆が進みます。

 私、レイチェルさん。

 今、領主の息子を引きずりながら、廊下を歩いているの。


 索敵に反応があったあの部屋には、半裸の男女が潜んでいた。

 深夜のプロレスごっこの最中に、突然屋敷が襲撃されたということで、身の危険を感じて隠れていたようだ。

 あらあら、お盛んなことで。


 ……まあ、今の私は性的に酷い目にあったレイチェルの記憶の所為で、そういうのには嫌悪感しか湧かないけどな!

 死刑でいいかな、この2人……というのはさすがに乱暴か。


 いや、男の方は領主の息子だった。

 40代くらいの太ったおっさんで、領主によく似ている。

 こいつは領主の留守中に、何度かレイチェルのところに忍び込んで、乱暴を働いたという大罪がある。

 やっぱり死刑で。


 女の方は愛人か何かというだけのようなので、(にが)がしてあげよう。

 ……? 何か忘れているような……?

 まあ、重要なことなら、後で思い出すだろう。


 ともかく私は、領主の息子を蜘蛛糸で縛り上げて、それを引きずりながら領主の部屋へと向かう。

 彼は「痛い」とか「解放しろ」とか騒いでいるけど、当然無視をする。

 レイチェルが「やめて」って、泣いて頼んでもやめてくれなかった恨みは、絶対に忘れない。


 で、ついに辿り着きました、領主がいると思われる部屋の前。

 中には5人くらいいるようだけど、怪我をした領主の治療をしている人員かな?

 護衛だったら面倒臭いけど、ただの使用人なら脅せば逃げてくれるだろう。


 あと、領主夫人は何年も前に死去しているはずだから、それについては気にしなくていいな。

 というか、夫人がいなくなったから、レイチェルを囲ったりとか、好き勝手できるようになったのかもしれない。


 ともかく使用人達が逃げやすくする為にも、少々派手に部屋へ入ることにしよう。

 ん~と、まず扉を開けてから、即あの恐竜のように熱線を口から発射。

 室内は閃光に包まれ、熱線は正面の壁を突き破って、壁に丸く綺麗な大穴を穿(うが)った。


 おお……かなり手加減したのに、やっぱり強いな、熱線。 

 で、部屋の中にいた人間は、予想外の事態に驚愕している。

 特に領主は私の顔を見て、面白いように大口を開けて愕然としていた。


「き、貴様……っ!!

 なんで生きて……っ!?」


 ああ、自らの手で腹まで裂いたのだから、まだ生きているとは思わないよねぇ……。

 というか、実際にこの身体は1回死んでいる訳だし。


「ふふ……きれいな顔してるでしょ。

 ウソみたいでしょ?

 これでも、死んでるんですよ、私。


 でも、領主様への恨みで、死んでも死にきれないので……蘇ってきましたよ。

 さあ領主様……私の代わりに地獄へ墜ちてください!」


 私の言葉に、領主の顔が恐怖で引き()る。


「あ、こいつも、ついでにね」


「ぎゃあああぁぁっ、ぶぎゃっ!!」

 

 私は領主の息子を、領主に向けて放り投げた。

 息子は領主を巻き込んで、派手に転がる。

 落下の衝撃で骨くらいは折れたかもしれないけど、私の知ったことではない。

 それにどうせ、これから死ぬ訳だし?


 そしてその惨状を目の当たりにして、使用人達もあわてて領主の側から離れた。


「私の目的は領主とその息子だけなので、今すぐこの屋敷から出れば、命までは取りませんよ。

 でも、すぐに逃げないと、巻き込まれるかもしれませんね?」


 私はチラリと、先程熱線を撃ち込んだ壁を見遣る。

 熱線で穿たれた大穴の縁は、熱によって木材に引火し、燃え広がろうとしていた。

 どうやら耐火素材で家が建てるという概念は、この異世界にはまだ無いようで、屋敷全体に炎が広がるのも時間の問題だろう。


「ひいぃぃぃぃ~っ!?」


 一目散に逃げる使用人達。

 誰も領主を守ろうとする者はいない。

 人望が無いねぇ……。


 さて……領主の方は……。

 なんとか逃げようとして藻掻いているけど、息子の身体の下敷きになって、動けないようだ。

 親子揃って、太りすぎだわ。

 かつて組み敷かれていたレイチェルが、どんなに苦しかったことか……!


 まあこれなら、麻痺毒とかで動けなくする必要も無いかな?

 このまま放置しておけば、火災に巻き込まれて焼け死ぬだろう。

 そもそもこいつらに「乗っ取り」を使うつもりは無い……というか、レイチェルの身体を手放すつもりはないし、私が直接手を下す訳にもいかないからなぁ。

 だから放置以外の選択肢が、あまり無いんだよね……。

 

 ただ、それでレイチェル()の復讐心が満たされるかというと、ちょっと微妙……。

 しかしレイチェルが負ったトラウマの所為で、この親子とはなるべく関わりたくないというのも本音ではある。

 その辺の事情を勘案して、やはり領主が万が一にでも逃げ出さないように、その動きを完全に止めることだけはやっておこう。


 だけど麻痺毒や蜘蛛糸なんて、生ぬるいことはしないよ。

 私は右手の人差し指の先から、あの熱線を最小出力で放出する。

 ただし、1度撃ってそれで終わりではない。

 放出している状態を、常に維持している。


 つまりガスバーナーみたいな状態。

 もうちょっと出力を上げれば、ビームサーベルみたいになるかな?

 今度ガン●ムかジェ●イごっこをして遊ぼう。


 で、これを使って領主の両足首を焼き切る。


「ひぎゃああああっ!?」


 これでこいつは、もう動けない。

 しかもこれなら、傷口が焼かれて出血もしないから、失血死で乗っ取りが発動する心配も無いし、領主を苦しませることもできるので、一石三鳥である。


「ひっ……ひっ……!

 痛い、痛い、助けて……っ!!」


「あ~それ、私も何度も言いましたよね?

 でも、あなたは聞いてくれました?

 ……復讐されるようなことをした、あなた達が悪いんですよ?」


 最初から、あんなことをしなければ、こんなことにはならなかったのに……。

 復讐されたくなければ、されないような行動をしていればいいのに……。

 ……いや、だからこそか。


「ああ……、だから私を殺したのですか?

 私を生かしておいたら、いつか復讐されると確信していたんですね……?」


 私の指摘に、領主は図星をさされたような顔をした。

 ならば理解はしているだろう、私に助けを求めても無駄だということを──。


「そんなこと、どうでもいいから助けろよぉ!!

 領主様の命令だぞぉ!?」


「そ、そうだ!

 金なら、いくらでもやるから、な!?」


 あ……駄目だ、理解してない。

 根っからのクズだ、こいつら……。

 被害者のレイチェルに助けを求めるのが当然だと思っているなんて、どんな神経をしているのだろう。

 まあ、誰だって命が惜しいのだろうし、必死になるというのは理解できるけどねぇ……。


 だが、断る!


「知りません。

 お前達は、そこで燃えてゆけ」


「なっ……!!」

 

 私は何かを喚いている領主達に背を向けて、歩き出す。

 私もそろそろ脱出しないと、火災に巻き込まれるしね。

 それにもう一軒、燃やさなければならない場所があるので、もたもたしてはいられない。


 さ~て、今夜は長くなるぞぉ!

 私は激しく燃えさかる館を後にして、町へと向かった。

 ちなみに、離れは本館から距離があるので、延焼は免れています。また、ダグズが様子を見に行ったので、拘束されていた騎士も早期に救助されました。そして例の騎士には、解毒薬や痛み止めが処方されたのではないかと。

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