13 くぐり抜けた地獄の数が違う
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『リ、リビーよ!
竜族の長の座を賭けて、一対一の決闘を申し込む!
あたしと勝負しろっ!!』
そんなフレアの呼びかけを受けて、リビーは怒りに満ちた視線を彼女へと向けた。
『なんじゃと……?
貴様ごときが、妾に勝てると思っておるのか……?』
取るに足らない相手に、計画を悉く邪魔された怒りだろうか。
だけどこの決闘は、リビーにとって渡りに船だ。
今やリビー派の勝ち目は無く、逆転を狙うにはこの決闘を受けて勝利するしかない。
『良かろう。
貴様を倒せば、反乱軍を名乗る連中は、我が軍門に降るということじゃな?』
『そ、そうだ……!』
フレアとリビーは対峙する。
しかし両者を見比べてみると、明らかにフレアの方が弱そうに見えた。
実際、全身の鱗の色が真紅のフレアに対して、リビーは深い青色で対照的だが、その体躯は大人と子供ほどの差があり、リビーはフレアの倍近い大きさだった。
そして何よりも、フレアには覇気が無い。
明らかに怯えているのが分かる。
この子、案外気が弱いからなぁ……。
しかも相手が自身をいじめていた継母ならば、気後れするのも当然だろう。
だからなのか、竜族の間からも『大丈夫なのか……?』と、フレアを心配する声が聞こえてくる。
だけどここは、フレアに勝ってもらわなければ困る。
「いけー、アレアーっ!!
レイリーとエリカの歌で強化されているから、負けるはずなんてないんだから!!」
『そ、そうか!』
自身が強化されていることで少しは気が大きくなったのか、フレアはリビー目掛けて飛んだ。
一方リビーは、迫り来るフレアに向かって、息攻撃を撃ち放つ。
それは炎というよりは、ガスバーナーのようで、触れれば金属ですらも焼き切ることができそうだ。
つまり私達が使う熱線に近い。
だけどその息攻撃は、フレアに当たらない。
『なんと!?』
フレアは人間の姿に変身して、回避したのだ。
的が小さくなれば、命中率が下がるのも道理。
『クッ……!
この小虫がぁ!!』
リビーは更に魔法で攻撃を繰り返すが、その全てをフレアは躱していく。
まあ、竜の巨体で翼を羽ばたかせて飛ぶよりも、人間の姿になって魔法で飛ぶ方が小回りも利くしね。
それに──、
「はあああぁぁ──っ!!」
リビーの頭上に回り込んだフレアは、急降下してその頭部に蹴りを入れる。
見事な烈●太陽脚だな。
『ガッ!?』
竜のように爪や牙という武器は無くても、格闘の技術に関しては人間の方がはるかに上だ。
人間は大多数の野生動物から比べて劣った身体能力しか持っていないからこそ、何百、何千という年月をかけて技を鍛え上げ、それを継承してきたのだ。
そもそも母さんに鍛えられてきたフレアが、その辺の竜に劣るということが有り得ない。
見てきた地獄の数が違う。
だからおそらく、レイリーとエリカの歌の力が無かったとしても、フレアはリビーと互角以上に戦えたはずだ。
単に気合いで負けていたから、不利なように見えていただけなのだ。
そして歌で強化されているのならば、なおのこと負ける要素はない。
というか今のフレアは、『ドラ●ンボール』のキャラみたいな動きをしているからね。
やっぱり竜族は元々身体能力のスペックが高いから、そこに高度な格闘術が加わると、とんでもない力を発揮するなぁ。
よし、「父さんのうらみ」、「兄さんのうらみ」、「折られたモップの分」と、勝手にアテレコしておこうか。
でもフレアも、家族の恨みを晴らすつもりで戦っていると思う。
最初は怯えていた彼女だったけど、今はその表情に怒りの色が強い。
やはり復讐の機会があるのならば、しておきたいと言うのは当然の感情だろう。
『ば、馬鹿な……っ!!』
リビーはフレアによって一方的にボコられ、その身体へ確実にダメージを積み重ねていく。
しかもフレアは、竜にとって最大の攻撃手段である息攻撃や魔法を使っていない。
まだまだ余裕があるということだ。
そんなフレアの姿を見る竜族の視線も変わっていく。
最初は頼りなく感じていたようだが、今はその勝利を疑わないものになっている。
これだけ実力を見せつければ、リビー派だった者達もフレアには逆らおうとは思わないだろう。
ただ、まだ決闘は終わっておらず、そして追い詰められた者は、何をするのか分からない。
油断は禁物だった。
『いつまでも調子に乗るな、この小虫がーっ!!』
お、切れたか。
リビーの魔力が膨れ上がる。
『かああぁぁーっ!!』
直後、リビーは全方位に向かって、膨大なエネルギー波が放つ。
当然、敵も味方も無い、無差別攻撃だ。
この時点で彼女もう敗北を悟っている。
フレアに自分の配下だった者も渡したくないから、殺しても構わないということなのだろう。
まあ、私が「結界」を形成して守ったので、全員無事だけどね。
それと──、
『なっ!?』
リビーの攻撃が終わったその時、その場から彼女の姿は消えていた。
無差別攻撃によって生じた混乱に乗じて、転移魔法を使って逃げたのだろう。
でもそれは、予想済みなんだよなぁ。
私の「操影」スキルでマーキングしてあるから、リビーの位置は既に確認してある。
「フレア、追うよ!」
「はい!」
私が伸ばした右手を、フレアは掴む。
その瞬間、私達は転移した。




