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閑話 守られた命

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 ミナトは、摩津野水都(まつのみなと)

 小学6年生だ。


 ミナトには海里(カイリ)というお姉ちゃんがいた……らしいんだけど、実はよく憶えていない。

 ミナトは小さすぎた所為で、お姉ちゃんの記憶は曖昧だ。

 ただ、お姉ちゃんに突き飛ばされた──そのことだけは強く印象に残っている。


 だからミナトにとってのお姉ちゃんのイメージは、実のところ良くない。

 だけどお母さんや周囲の人は、お姉ちゃんのことを「立派だった」と褒める。


 トラックに轢かれそうになっていたミナトのことを、お姉ちゃんが身代わりになって助けてくれたからだ。


 でも、ミナトにはその記憶が無いから、どう受け止めたらいいのか分からないんだ……。

 むしろみんながお姉ちゃんを褒めるから、ミナトは出来の悪い子であるように感じてしまう。

 少なくともミナトの所為でお姉ちゃんが死んだのは事実なのだから、お姉ちゃんの存在を思い出す(たび)に、ミナトは罪悪感を覚える。


 いっそ死んだのがミナトだった方が、みんなにとっても幸せだったんじゃないかな……。


 そう投げやりな気持ちになることもあるけれど、お姉ちゃんの命と引き換えに助かったこの命を、無駄にする訳にはいかないよね……。

 結局、命を粗末にするようなことはできない。

 そういう意味では、ミナトはお姉ちゃんに今も守られているのかもしれないね……。


「相変わらずつまらない毎日だけど……まあ、なんとか頑張ってみるよ」


 ミナトはお姉ちゃんのお墓に、そう呼びかけた。

 気分が落ち込んだ時はいつもここにきて、お姉ちゃんに話しかけている。

 

 ミナトにとってお姉ちゃんは、邪魔な存在だと言ってもいいけど、お姉ちゃんが死んじゃった所為か、やたらと過保護になっているお母さんに悩み事を話して心配させるのは嫌だし、相談するような友達もいない。


 だから一方的に不満をぶつけられるお姉ちゃん(お墓)は、ミナトにとって都合が良いストレス発散の相手になっている。

 ただ、墓場で墓石(はかいし)に話しかけている女子小学生なんて、傍目(はため)には気味が悪いだろうし、実際にクラスでは変な噂も立ってハブられているんだけど、ミナトは人と関わるのが好きじゃないからそれでもいいや……。


 幸い直接的なイジメを受けている訳でもないし、むしろ都合が良い。

 まあ、これは過去にいじめられそうになった時に、徹底的に反撃して「こいつヤバイ」と周囲に認識されたおかげではあるんだけれどね。


 ところがその日は、ミナトに声をかけてくる人がいた。


「君は……その……大丈夫かい?」


「……」


 誰このお兄……いや、ギリおじさんかな?

 美形で身なりは良さそうだけど、ちょっと陰気な雰囲気がある。


「おっと、防犯ブザーに手をかけるのはやめてくれ。

 こんな墓場に子供が1人でいるのはおかしいから、声をかけただけなんだ」


「そうですか……ミナ……私は、ここにお姉ちゃんがいるから、お参りにきただけです」


「そうか……僕は弟がそうだよ」


 ……この人も、兄弟を亡くしているんだ……。


「とにかく、あまり1人でこない方がいいよ。

 この辺の山では以前、修行していた武道家らしき男が徘徊していた──なんて話もあるからね。

 いつの間にか行方不明になっちゃったらしいけれど……。

 そうじゃなくても、昔から神隠しが多い土地だって言われているんだし」


「ああ……学校で怖い噂話になっていました」


 今時、山にこもって修行とか、それだけでも奇人変人だよね……。

 それに方不明になる人の昔話が、妙に多い土地柄だ。

 そんな話を信じている訳ではないけれど、この日はおじさんとそのまま別れて帰ることにした。


 だけどそれからこの墓地に来ると、何度もそのおじさんと出会うことになる。

 数ヶ月から年に1回くらいなので、本当に偶然だと思う。


 それでも何回も会っていたら、顔見知りとして少しくらいは話をすることがあった。

 おじさんは九重(ここのえ)医院というところで、お医者さんをしているという。

 昔からお医者さんの家系で、弟さんはその家庭環境に耐えきれなくなって……ってことらしい。


「あの子は医者に向いていなかった……。

 だから違う道に進んで欲しいと思って、僕も親も自由にさせていたんだけど……。

 彼にはそれが不満だったのだろうね……。

 たぶん誰にも期待されていないと失望して、全てを(あきら)めて……」


 ……ふーん。

 その弟さん、ミナトと何処か似ているかもしれないね……。


「君はそんな風になるなよ」


「……余計なお世話」


 なんだか図星を指された気がして、ドキリとした。

 そんなつもりはないけど、気をつけなきゃいけないのかも……。


 それとおじさんはミナトと15才ほど年齢差があるけど、同じ学校に通っていたらしい。


「あの学校か……。

 僕も卒業生だよ。

 過去には有名な作家さんも、卒業しているよね」


「ああ……女の子同士の恋愛ばかり書いていたという、あの……。

 他にも学者とか色々とやっていたと聞きます」


 そしてうちの学校は、地元の有名人の卒業校でもあった。

 で、その人の寄付のおかげで、学校の設備も結構充実しているんだよね。

 いや、学校だけではなく、図書館や病院なんかもそうだ。

 

 まあその人も、かなり前に死んじゃったらしいけれど……。

 でもこんな風に、生きた(あか)しを(のこ)せるのは、少し羨ましいと思う。


 あ……そうか。

 お姉ちゃんにとって、ミナトが生きた証しになるのか。

 それじゃあミナトも、あまり恥ずかしい生き方はできないなぁ……。




「そんな感じで、おぬしの妹御は健気(けなげ)に生きているぞよ」


「そ、そうですか……」


 カイリはグラス様の紹介で、ナウーリャ教団の教祖・リーザ様に会いに行った。

 彼女は女神様のお告げを聞くことができるそうで、妹のミナトのことが気になっていたカイリは、そのことを聞いてみたのだ。

 その結果、妹は今も無事に生きているという。


 良かった……カイリのしたことは、無駄じゃなかった……。

 それにしても九重……って。

 お兄ちゃんって、近所に住んでいたの?


「その土地、実はこの世界と空間が隣接しているそうじゃよ。

 昔は召喚したら、人間が生きたままこちらに来ることもあったそうじゃ。

 最近は魂だけ召喚する方式の方が効率が良いらしいから、異世界転移は(すた)れたらしいがの」


 それでカイリ達がこっちにきたのか……。

 でも、本来ならそのまま終わった人生が、こうして続いているんだから、悪いことばかりではないよね……。


 いつか本当に死んだ時に、ミナトと会うことができればいいなぁ……。

 

「またね、ミナト……」


 その時の為に、カイリは一生懸命最後まで生きようと思う。

 次回から最終章となる予定の7章です。シリアス要素は増えるかもしれません。

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