エピローグ2 ただいま
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そしてついに訪れたカミングアウトの日──。
私とシルビナは、再びナタリー邸へと訪れる。
「これはこれはキンガリー様、さあ奥へどうぞ」
玄関で出迎えてくれたナタリアさんは、私達を応接室へと案内しようとしたが──、
「ああ、少々お待ちください。
今日は紹介したい人がいます。
彼女は私直属の騎士であり、親友でもあります」
そう私が促すと、シルビナが一歩前に出る。
そして彼女は、兜を脱いだ。
「……!」
「ただいまです……母上」
シルビナの顔を見たナタリアさんは、一瞬言葉を失ったが、目に涙を浮かべる。
「やっぱり……以前会った時に、仕草や雰囲気が似ているとは思いましたが……。
生きていたのですね……!」
ああ、ハンカチ以外でも気付いていたんだな。
さすがは母親だ。
「あの……生きているかどうかは、怪しいのですが、こうして帰還しました」
「そう、良かった……。
どんな形でも、こうして帰ってきて嬉しいわ」
ナタリアさんはシルビナを抱きしめ、すすり泣きを始めた。
シルビナもたぶん泣いているけど、さすがに涙を流せるほど器用な真似はまだできないんだよねぇ……。
それでも、感動の母娘の再会だ。
ここに水を差すのは、さすがに悪いかな。
「じゃあ、私は先に帰るよ。
あとは2人で思う存分、語り合ってちょうだい」
「え、キンガリー様も、夕食をご一緒にいかがですか?」
「私は食べられないのだが……。
というか、私を1人にするのか!?」
シルビナにはお母さんがいるでしょ……。
「いえ、私はこれを届けにきただけなので」
と、私はナタリアさんに手紙を渡した。
「これは……招待状ですか?」
「はい、今度私の姉さんが結婚するので、記念パーティーを開きます。
まだ先の話ですが、是非参加してください」
「そ、そうですか……それはおめでとうございます。
それならば是非とも参加を……。
あら……この度の戦役で延期されていた王女殿下の、ご成婚の儀と同時期ですわね?」
「……母上、アリタの姉は、そのレイチェル殿下だぞ」
「は?」
「アリタも実質的に、この国の王女なのだ……」
「えぇ……?」
衝撃の事実を聞いて、ナタリアさんは固まってしまった。
じゃあ、この隙に帰ろうか。
「それじゃあ、あとはよろしくね、シルビナ!」
「あ、ちょっと待てよ!」
私はシルビナが止めるのを無視して、転移で帰宅する。
「ただいま、ケシィー」
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「私は部屋にこもるから、夕食まで呼びにこないでね」
「かしこまりました」
私は自室に入り、ホッと胸をなで下ろす。
「ふぅ……招待状が無駄にならなくて良かった」
もしもナタリアさんが、人間ではなくなってしまったシルビナを受け入れられないようなら、招待はしないつもりだった。
でも、受け入れてくれたから、彼女とは今後も長い付き合いになると思って、招待したのだ。
たぶんクラリス母さん達にもナタリアさんを紹介することになるだろうから、将来的には陞爵も有り得るだろうね。
勇者を倒す為に戦ったシルビナの功績は大きいけど、彼女は爵位とかの地位にはさほど興味が無さそうだし、仮に爵位を得たとしても、貴族の世界で無難に活動できるほど、人間への擬態が完璧でもないからなぁ……。
だからシルビナの功績に対する褒賞は、ナタリアさんに受けてもらおうと思っている。
「……さて、落ち着いたから、久しぶりに絵を描くかな」
ここ最近は忙しくて、絵を描く暇も無かったからなぁ……。
たぶんかなり鈍ってしまっている……。
……改めてこういう趣味や、娯楽というものは、平和だからこそできるものなのだと実感させられた。
世の中が大変な時って、衣食住の生きていく上で必須の要素──それ以外の物から、切り捨てられていくんだよねぇ……。
自由や人権だってそうだ。
つまり私がこの世界に広めようとしている漫画だって、平和じゃなければ普及は難しくなるということになる。
「はあ……これからは平和維持のことも、考えないといけないなぁ……」
好きな事ばかりは、やってられない……か。
これが大人になるって、ことなのかもね……。
まあ、これからのことは、後で母さんと話し合うとして、今は思う存分絵を描いたり妄想したりしよう。
帝国の皇女と勇者はなんか良い雰囲気だったから、彼女達をモデルにして性別を逆転すれば、いいBLになるんじゃないかな?
よし、ノってきた……。
今日は徹夜で、描き続けるぞー!!
願わくば、こんな日々が末永く続きますように──。
まだ閑話は残っていますが、取りあえず6章本編はこれで終わりです。当初の構想では4章が終わったら、即最終章に入る予定だったので、5章と6章でこんなに長くなるのは想定外でしたねぇ……。
それでは土日は定休日なので、最終章である7章に入るのは来週になります。




