60 晴れの日
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私はニナ。
吸血鬼メイド班の、班長に昇進したよ!
「何故だ!?
私はまだ平メイドのままなのにっ!!」
「だからリュミエルは、昔のやらかしが大きすぎるんだよ……」
「ぐぬぬぬぬぬ……!」
とはいえ、私の昇進も棚ぼたみたいなものだけどね。
副メイド長が、別の部署に異動になったので、コンスタンス班長が副メイド長へ昇進した結果、穴埋めとして私が繰り上がったのだ。
そしてこの人事異動で1番大変な思いをしているのは、コンスタンス新副メイド長だ。
前任者と比べると明らかに実力不足なので、メイド長直々に厳しい特訓を受け、毎日大変そうだ。
実年齢はともかく、死んだ目をしている幼女の姿は、さすがにちょっと可哀想になるなぁ……。
でも、メイド長によって本気で鍛えられたのならば、いずれはコンスタンス副メイド長も魔王のように強くなるだろう。
太陽の光を克服するのも、時間の問題じゃないかな?
それはちょっと羨ましいけど、私は自分のペースで無理せずに強くなるね……。
「さて、メイド長から、新人のセポネーテ達の指導を命じられていたし、そろそろ行くよ」
「……はいはい」
マルガちゃんの姉のセポネーテが、新しくメイド隊に入隊したし、帝国では複数の貴族も吸血鬼化させたので、我らがメイド隊の勢力は更に大きくなる。
新人達の模範になるよう、私達も一層努力しなければ。
有能なメイドへの道は、1日にしてならず──だ!
「もう少しで大きなイベントもあるし、頑張るぞー!」
「それ、昼間に開催だから、私達は準備だけで、見ることができないけどね……」
……やっぱり日光は、早めに克服したいなぁ。
4姉妹の母です。
帝国との戦争が終わってから、約1年が経過した。
破壊された帝都の復興も順調だし、その復興活動の為に王国の土建屋などが大活躍しているので、経済も上向いて悪くない状況が続いている。
まあ、帝国で動いていた魔族の情報については、未だによく分かっていないことが多いのが、ちょっと気がかりではあるけれど……。
ヘンゼルを乗っ取って記憶を奪えなかったのは痛いが、手加減すると生き延びてまた復活する可能性もあったからねぇ……。
でもそんなことは、忘れよう。
今日はいい日だ。
そう、今日はレイチェルとエリ……に、アイリスとカナウも含めた結婚式なのだ。
ただ、式の大筋については割愛する。
前世でも大した親しくもない知人の披露宴は、興味も薄くてダルいだけだったし、あんまり他人に長々と話すようなことでもないかな……。
でも、やっぱり自分の娘の結婚式は、感慨深いね……。
国民には非公開で(後日、パレードだけはする)、身内だけ集めてこぢんまりとした式だったけれど、だからこそ自由で楽しい式だった。
いやぁ、新郎新婦の全員がウエディングドレスで着飾っているというのは、前代未聞でしょ。
しかもエリが、1番似合っていたかもしれないし……。
やっぱりあの子、生まれてきた性別を間違えていると思う……。
その後の新郎新婦による、親族への感謝の歌は感動的だったねぇ。
私は前世では結婚もしていなかったし、当然子供もいなかったけど、まさか今になって子供の結婚に立ち会えるなんて思っていなかったよ……。
「ママ、私にもう一度人生をくれて、ありがとう」
「レイチェル……」
思わず感涙しちゃった……。
そんな私を見て、
「私、お母さんが泣いているのを、初めて見たような……」
と、アイ。
「あれ、レイちゃんは結構泣き虫だよ?」
「そうにゃ」
「ちょっ!? キエルさん! マルガ!」
「そうよね、よく泣くわよね」
「だよねぇ~」
クラリスと、アイ以外の娘達も同調する。
やめて! 恥ずかしいっ!
「ちぇー、私だけ仲間はずれじゃん」
「いや、あたしもだよ!」
そしてシスも参戦。
君達、私の子ギツネ時代を知っているじゃん……。
あの頃の私、結構泣いていたと思うよ?
生きるだけで精一杯だったし……。
それでもアイとシスは、私と一緒にいた時間が少ないからか、少し疎外感を覚えているらしい。
「……じゃあ、今度一緒に旅行にでも行きましょうか?」
「マジで!?」
「やったー!!」
2人は喜ぶが、レイチェルは怪訝な表情で突っ込んでくる。
「……まさか、私達の新婚旅行についてくるつもりじゃ……?」
「いけませんか?」
と、私は平然と返した。
「あなた、まだ完全に男性恐怖症を克服していませんよね?
エリとの初夜なんて、まだまだ先の話なんでしょ?
それならば普通の旅行ですし、みんなで行った方が楽しいですよね?」
「そ……それは……!!」
図星だったのか、レイチェルは口籠もる。
ただ、レイチェルとエリの間では無理でも、アイリスやカナウが相手ならば初夜を迎えることは可能だろう。
だけど特定の誰かだけが抜け駆けしたり、仲間はずれになったりしないように、4人の間では話し合っていると思うので、何も起こらないのではなかろうか。
正室や側室という表向きの立場の違いはあるだろうけれど、「全員が平等」──複数人で婚姻を結ぶのならば、それが長続きの鉄則だろう。
ここはレイチェルが覚悟を決めなければ、全員で先に進むことができない。
彼女もエリとの誓いのキスまではできたので、あと一歩だ。
ちなみにその時の牧師役はリーザがしていたけれど、何故か例の「健やかなる時も病める時も~~」というお馴染みの言葉を、教えてもいないのにスラスラと言っていた。
たぶん女神からの「お告げ」があったのだろうけれど、地球の事情に詳しすぎじゃない?
「いえ、大丈夫です! 大丈夫なのです!
だから4人だけで行かせてください!」
「そう?
それならば、私達は遠慮しますけど……」
まあ、実際に上手くいくかは分からないけれど、レイチェルの背中は押しておいた。
私も早く孫の顔を見たいし、頑張って欲しいね。
「ふふふ……」
「嬉しそうね、アリゼ」
「当たり前じゃないですか、クラリス。
今日は幸せな日ですよ」
この日を迎えることができて──転生して本当に良かった。
心の底からそう思える。
……だからあの女神にも、今は感謝をしてもいいかな……という気持ちになっていた。
「さあ、今日は一晩中飲み明かしますよー!」
そんな私の掛け声に、「おおー!」と皆の返事が返ってきた。
宴はまだまだ続く。
ずっと、続いていく。
みんなの笑顔と共に──。
あとは真エピローグと、閑話をやって6章は終了……なのですが、明日は用事があるので、更新は休みます。




