表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

337/392

59 一時の平和

 ブックマーク・☆での評価・いいね・感想をありがとうございました!

 カイリは今も、皇女(おうじょ)メディナッテの護衛をしている。


「疲れました~……」


 と、メディナッテは、ぐったりと会議室の椅子に身体(からだ)を預ける。

 先程ようやく、今日の分の仕事が終わったところだ。

 ここは急遽建てられた仮説の庁舎のようなもので、帝国の政治はここで行われていた。


「お疲れ、メディ。

 何か飲み物を用意するね」


「ありがとぉ……」


 メディナッテは、今日も敗戦処理や国政の立て直しに奔走していた。

 

 帝都が崩壊したあの日、帝国は敗戦国となってしまったから……。

 ただ、その事実は多くの国民……というか、帝都の住民は受け入れている。

 

 城から現れたあの巨大な怪物が、この帝都を崩壊させた。

 あれは人間が勝てるような相手ではない──誰もがその姿を一目見て、理解したと思う。

 なのに王国の誰かが、あの怪物を倒してしまったのだ。


 それに私よりも何倍も強かった九重(ここのえ)お兄ちゃんも、負けて死んじゃったらしい。

 どう考えても帝国は、最初から王国に勝ち目なんて無かったんだよね……。


 それを思い知らされたから、帝国の人間は王国に(さか)らおうという気持ちが起きないのだろうけれど、そればかりが理由ではない。

 あの崩壊した帝都で、多くの住民が王国の人に助けられた。

 そのことへの感謝も、きっとあるのだと思う。


 それに王国の最新技術によって、地震にも強いという建物が次々に建てられているので、そこに安心感を覚えている人も多いのかもしれない。

 ……って、これらの建物、日本で見慣れたものとそっくりなんだけど、王国にも転生者がいるの……?

 あの怪物を倒したのも、きっと召喚された勇者なんだろうね。


 ただ、王国もただ優しいばかりではない。

 メディナッテが皇族としての責任を取る為に、処刑されるようなことこそなかったけれど、多額の賠償金は請求されたし、犯罪奴隷以外の奴隷制度の禁止や、両国の戦死者遺族への賠償など、いくつもの条件もつけられた。


 とはいえ、その賠償金の多くは、反王国政策を主導した貴族の財産から没収したもので(まかな)われたので、国民に対する税金が大幅に上がった訳ではない。

 上がった税金も都市の復興費用という名目だったので、そちらはむしろ積極的に納めてくれる人もいるという。

 だから今のところ、国民から大きな反発は起こっていないようだ。

 

 勿論、財産を没収された貴族の反発はあったけど、それはカイリの魅了スキルで黙らせた。

 ……カイリのスキルは、悪用しようとすればいくらでも悪用できるので、あまり濫用するのは駄目な気もするけれど……。

 

 というか、実際に悪用できないように、奴隷契約によってカイリのスキルは制限されている。

 それは誰かを人質に取られて、無理矢理命令されたとしても、スキルは悪用できないほど厳しい制限だという。

 それでも使えたというのならば、反抗的な貴族を黙らせる程度のことは、制限の範囲外だったのだろう。

 それならば遠慮無く、メディナッテの立場を守る為にスキルを使わせてもらうよ。

 

 ……まあ、王国の要人に対しては、スキルが使えないように制限はかけられているから、帝国内でしか通用しない権力みたいなものだけどね。

 そのカイリのスキルが効かない人の内の1人が、今も会議室の中に残っている。


「今日もお仕事、頑張りましたね、皇女殿下」


「グラス様こそ……」

 

 王国から送り込まれ、現在この帝国で宰相をしているグラス様だ。

 この人、初めて会った時の服装からメイドなのかと思ったけど、やたらと政治に詳しいし、ただのメイドではなかったらしい。

 そして実質的に今の帝国を動かしているのは、この人だと言ってもいい。

 メディナッテって実質的に今はまだ、お飾りの国主だということになるね……。


 まあ実際、まだ正式に女帝へ就任した訳ではないし……。


「私はまだまだ上手くできなくて、情けないですぅ……」


「最初から上手くできる人なんて、殆どいませんから、少しずつできるようになっていけばいいと思いますよ。

 それを助ける為に私がいるのですから、どうか頼ってください」


「そぉーよー!

 うちのクラリスちゃんだって、昔は酷かったんだから!」


「クリス様……!」


 その時、会議室に入ってきたのは、王国の王太后──つまり現女王クラリス様の母親であるクリス様だった。

 女王の母親とは言っても、まだ30才くらいにしか見えないほど若々しい。

 異世界だと、老化を止めるような美容方法でもあるのかな?

 将来カイリが老けてきたら、聞いてみよう。


 で、クリス様は、宰相をやる為にこの国へ移り住んできたグラス様に付いてきて、一緒に暮らしているらしい。

 どういう関係なのかは分からないけれど、2人はとても仲がよさそうだ。

 少なくともクリス様は、こうしてグラス様の仕事が終わった頃合いを見計らって、わざわざ迎えに来ているくらいだし。


「クリス……。

 お前が言うな。

 お前はもっと酷かっただろう」


 と、グラス様は、クリス様の頭をペシペシと叩いている。

 一方クリス様も、


「や~ん、グラスちゃんだって、酷かったじゃない~!」


 と、反撃していた。


 ……本当に仲が良いのだろうか?

 でもグラス様は、クリス様に対してだけ口調が変わるので、素の自分を出せる相手ではあるんだよね……。


「それでは、お先に失礼します」


「じゃあね~」


 そして2人は家へと、帰ってゆく。

 それを見送りつつ、メディナッテは羨ましそうに、


「……なんだかあのおふたりは、長年連れ添った夫婦のようで素敵ですね」


 そう呟いた。


「……羨む必要は無いよ。

 カイリだって、これからずーっと、メディから離れないから」


 カイリはメディナッテを、一生守り続ける。

 この誓いは、もう決して破らないと決めている。


「そうでしたわね……」


 メディナッテは微笑む。

 カイリと彼女の関係は、これからも続いていくけど、帝国の新しい歴史は始まったばかりだ。

 これからの道程(みちのり)は、カイリには想像もできないくらい大変だろうけど、メディナッテの為にも、この国の平和は守っていきたいと思う。

 

「明日も、頑張ろうね」


「はい」


 さあ、私達の部屋に戻ろうか。

 

 

 




 あれほど強化した──既にかつての魔王様以上の力を得ていたヘンゼルすらも(やぶ)れるとは……。

 まだまだ準備不足ということか。

 ここは計画を見直す必要があるようだな……。


 となると、次に動く時まで……数十年はかかるかもしれないが……。


「いいだろう、人間共よ!

 一時の平和を、今は噛み締めているがいい!」


 だが、次に我々が動き出した時、そこから先に人間共の未来は無いぞ。


「ククククク……クックック……ハーッハッハッハー!!」


 今はまだ、魔族にとっての雌伏の時だ──。

 実質的に今回から6章のエピローグです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です!6章完了おめでとうございます! クリスさん夫婦は帝国に移住するのか。 カイリさん二人は無事で一緒に居られるのは良かったですね! なるほど、今回あの四天王は既に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ