58 天の光
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私、アリタは今、超忙しい。
あの怪獣が起こした地震によって、帝都の各所で建物が倒壊している。
そこで私は瓦礫の下敷きになった生存者を索敵で見つけ出し、転移魔法で運び出す作業を繰り返していた。
余裕があれば、最低限の回復魔法での治療もしておく。
「シルビナ、この人達を避難所へ運んで」
『了解!』
でもなぁ……、この転移魔法を用いた救助方法ができるのは私とグラスだけなので、ちょっと効率が悪い。
だから残念ながら、既に絶命している人の遺体は、後回しにするしかなかった。
そもそも索敵だと遺体の反応を見つけるのは、ちょっと手間がかかる。
それに回復魔法を使える人間も足りていないので、重傷者を全員助けることは難しいかもしれないなぁ……。
一応、王国のレイチェル姉さんに連絡を入れて、増援を送ってくれるように頼んではいるけど、人員を集めることにはちょっと時間がかかるだろうし、到着はまだ先の話だろうね……。
それでも私達がいない時にあの怪獣が復活していたら、帝都の住人は全滅していたかもしれない。
今もあの壁の向こうからは、眩しい光が見えたり、物凄い衝撃が伝わってきたりするけど、かなり激しい戦いが続いているようだ。
私が見た感じ、あの壁と上空の「結界」が無かったら、帝都全体が今頃は跡形も無く消滅していたと思う。
というか、母さんでも瞬殺できていない時点で、かなりヤバイよ、あの怪獣……。
私達姉妹だったら、アイ姉がギリ勝てるくらいで、他の者では勝てないほどの難敵なんじゃないかなぁ……。
もしも母さんがここに来ていなかったら、あの怪獣は帝国どころか王国にも侵攻して、壊滅的な打撃をもたらしていたかもしれない。
「……えっ?」
その時、あの壁の上空にあった「結界」が消えるのを感じた。
次の瞬間──、
ドオォォン!!
という、物凄い音が聞こえてくる。
音速の壁を突き抜ける速度で、何かが上空へ飛んでいった?
その所為で衝撃波が発生したようだ。
上空を覆っていた雲に、穴が空いたよ……。
飛んでいったのは、20~30mほどもある大きな物体だったようだけど、索敵からあの怪獣の反応が消えたので、飛んでいったのはあいつか。
母さんが何かやったのかな?
そしてその物体を追うように、今度は──、
「うわっ!?」
一条の光が空に昇っていく。
あれは熱線!?
でも、太さが数十mくらいもあるんだけど……。
え、あんな太くなるものなの!?
もうハイパーデ●ラー砲じゃん……。
母さんが本気になったら、こうなるのか……!!
その熱線が通り過ぎたあと、穴が空いていた雲は、今度こそ完全に吹き飛んだ。
そして現れた夜空は、すぐに真っ白に染まる。
なんだか物凄い大爆発が起こったみたいだけど、いつまで経っても爆発音が聞こえてこないということは、もしかしてあの熱線は宇宙空間にまで行ったのだろうか……?
おかげで爆発の衝撃波も、ここまでは届かなかったので助かったけれど、ちょっと現実の光景とは思えない……。
いずれにしても、さすがにあの怪獣も生きてはいないだろうね……。
あんなの魔王でも無理だと思う。
「あ~……綺麗な空」
こんな大変な時に不謹慎かもしれないけれど、私はそう思った。
眩い光が消え、雲が吹き飛んだ上空には、綺麗な星空が広がっている。
これがこの国の未来を、象徴するものならいいんだけどね……。
翌朝、救出作業は一通り終わり、王国からの増援も到着したので、ようやく一休みすることができた。
「ご苦労様なのです」
「姉さん……」
『これは王女殿下!』
私が休んでいると、レイチェル姉さんが話しかけてきた。
増援の数百名からなる人員を、一度に転移魔法で運んでこられるような人は、国に残っている者だと姉さんくらいだろうしねぇ。
一国の王女でも、直接敵国へ出てこざるを得なかったという訳だ。
「シルビナー、君は私の直属だから、姉さん相手に跪かなくてもいいよー」
『いや……それは……』
「私も妹の友人に尊大な態度を取る趣味はないので、楽にするといいのです」
『はあ……』
うちの家族、本当は権威とか嫌いだかね。
まあ、使えるものは利用するけど。
「この惨状を見ると、作戦が成功した……とは言いがたいですね……」
姉さんは周囲を見渡してそう言った。
人質の救出も不発に終わったし、皇帝も捕縛できなかった。
その上で帝都の崩壊という事態は、想定していたよりも大分悪い。
「まあ、私は目的の勇者を倒せただけでも、よしとするよ……」
私達も全能じゃないからなぁ……。
全てを理想通り進めるのは、無理なんだよ……。
「そうですか……。
で、ママは?」
「この帝都全体に回復魔法をかけて、またどっかへ行っちゃったよー。
たぶん魔族の残党がいないか、調べているんだと思う」
「ああ……また魔族……。
本当にロクなことをしない……。
でも、想定していたよりも、怪我人が少ないのはそういうことですか」
「あと、あの小さな勇者がいたのも幸いだったかなー」
「ほう?」
私が指さした方に、勇者カイリが休んでいた。
カイリが持つ「魅了」のスキルは、パニック状態になっていた群衆を制御して、効率よく避難誘導をするのに、かなり役立ってくれたらしい。
これのおかけで、犠牲者は相当減ったと思う。
そしてその勇者の隣には、現在唯一確認されている皇帝直系の生き残り、メディナッテ皇女もいる。
彼女も勇者の補佐をする為に必死で群衆に呼びかけていたので、帝国人による皇女への心象は、それなりに良くなったのではないだろうか。
まあ、ある面では皇帝がこの国を破滅させたようなものなので、その親族にも責任がのしかかってくるのは当然なんだけど、皇帝の背後に魔族がいたことや、皇女達の避難誘導の功績によって、皇族が処刑されるような事態だけは回避されるかもしれない。
「……されるよね?
あんまり女の子がギロチンにかけられるのは、見たく無いなぁ」
「こればかりは帝国の国民感情もあるので、王国の意向だけではどうすることもできないのです。
けれど、魔族と皇帝が全部悪いということにしておけば、皇女が背負うはずの罪はかなり軽減できるはず……。
ママの前世の世界でも、独裁者に戦争の責任の大部分を押しつけた国の例はいくつもあります」
まあ、魔族は「絶対悪」みたいなネームバリューなので、責任転嫁の材料には丁度いいよね。
「さて、取りあえず、皇女には挨拶しておきますかね。
長い付き合いになるのならば、良いのですが……」
と、姉さんはメディナッテの方へ歩み寄って行く。
彼女が処刑されるようなことにならなければ、将来の女王同士として、協力体制を築いていけるかもしれない。
でも、そういう政治的な話は、帝都の復興とかが片付いた後になって、ようやく本格的に進めるべきことだろうね。
これから色々と大変だぞ……。
ただ、王国と帝国の争いはこれで終わった──と、思うので、それだけが救いかな……。
土日はお休みです。




