56 大怪獣総攻撃
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アリゼでございまーす。
……なんだかデカイのが現れて地震を起こしていたみたいだから、問答無用で蹴ったけど、私間違ってないよね?
そしてアリタに聞いたらこの巨大不明生物は、勇者召喚の秘術を改良して、生贄を捧げることで強化された存在であることが分かった。
つまり行方不明になっている我が国から拉致された人々やこの国の奴隷達も、こいつへの生贄にされたということなのだろう。
いや、それだけではない。
現れた魔物やその犠牲者達も、おそらくはこいつに吸収されているはずだ。
私も死亡したずの魔物や犠牲者達が、いつの間にか床に吸収されているという現象を目撃している。
つまりこいつの所為で、何百何千……いや、こいつが帝国を操って王国に戦争をしかけたのだとしたら、何万もの命が犠牲になったということになる。
これはもう、存在自体を許してはいけない。
世の中には、「死んでも良い命なんて無い」と綺麗事を言う者もいるが、実際には特定の個人によって多くの命が失われているという現実がある以上、死んだ方がいい存在というのは確実に存在する。
そうでなければ、そいつによって奪われた命の重さは、いったいなんなのだ……ということになるからね……。
ただ、私も言葉も知らぬ獣ではない。
最終的な結末は変わらずとも、話くらいは聞いてやる。
「あなたは一体何者で、何を目的にしているのか──それくらいは語る猶予を与えましょう!!
あなたは魔族──ということで間違いありませんね?」
私は落下した衝撃で脳震盪を起こしているのか、まだ立ち上がることができないそいつに呼びかけた。
まあ……魔族というのは間違い無いだろう。
死んだ者が城の床に吸収される現象は、ダンジョンでもお馴染みだが、そのダンジョンを造ったのは魔族なんだし。
『グガガ……貴様こそ何者だ……!?
この完全体として蘇った我に、あのような重い一撃をいれるとは……』
「私はただのメイドということでいいでしょう。
その方が負けた時のあなたの屈辱が、更に大きくなりますからね」
『ぬう……もう勝った気でいるのか、この小娘がっっ!!
この魔王軍四天王が1人、轟竜王ヘンゼル。
今や魔王様を討った勇者以上の力を得ているのだぞっ!!』
ほう、四天王の3人目か。
しかしヘンゼルとは……なんだか可愛らしい印象の名前だな。
もしかして、グレーテルって双子の妹とかいる?
でも、それ以外にも記憶にある名前だ。
乗っ取った帝国人の記憶の中では、帝国で古くから伝わる伝承の中に出てくる悪竜の名前として、有名だったようだ。
なんでもかつてヘンゼルは魔王の先兵として、この地で破壊の限りを尽くしていたが、勇者によって倒されたそうだ。
だが実際には完全に死んではおらず、帝国を裏から操って復活の機会を窺っていたということなのだろう。
まあ、それは正直どうでもいい。
王国に手出しさえしなければ、私もわざわざ帝国の問題に介入することも無かった……とは言わないが、もっと先の話になっていたはずだ。
「ああ、四天王ですか。
王国に攻撃を仕掛けてきたのも、仲間を倒されたことの報復ですか?」
『む……?
まさか貴様がカシファーンを撃退し、グリーグスを倒したのか?』
「ある意味では、間違ってはいませんね」
まあ、どちらもレイチェルがやったんだけどね。
カシファーンは私がレイチェルの身体の時に追い払ったし、グリーグスは私の分身とも言えるレイチェルが倒したんだもの。
仮に今回もレイチェルを連れてきていたとしたら、今度もあの子が倒すことになっていたのかもなぁ。
『丁度良い!!
王国に我ら魔族に敵対する者がいることは分かっていた。
王国に攻撃を仕掛けていれば、いずれは出てくると思っていたが、のこのこと我の前に自ら現れるとはな!
この極限まで強化された我が力で、直接叩き潰してくれるわっ!!』
……なるほど。
今までの帝国による王国への介入は、そういう理由か。
当初は人間同士を争わせて、魔族にとって有利な状況を作ろうとか考えていたのだろうけれど、四天王が2人もやられる事態になって、大きく動かざるを得なくなったってことかな?
実際、ヘンゼルは自身の復活が完全に終わる前に戦争を仕掛けてきたし、焦りもあったのかもしれないねぇ。
まあ、帝国内の政治的な事情も、あったのだろうけれど……。
帝国では「王国は邪悪な敵」だという洗脳教育も行っていたようだし、世論や軍部の制御ができなくなっていたなんてこともありそうだ。
いずれにしても、こいつが全ての元凶だという訳か。
うん、死ね。
『グオッ!?』
私は特大の──太さが直径10mくらいある岩の槍を生み出し、ヘンゼルを下から突き上げた。
お、刺さらないのか?
防御力は高いな。
でも、空中に浮かべることはできたから、連続で槍を生み出して、お手玉をしてやろう。
『グ、ガガ、ガッ、ガッ!!
いい加減にしろぉ!!』
ん!?
ヘンゼルの周囲に、数十個の光る球体が浮かび上がった。
そしてそのそれぞれが、熱線を発射してくる。
しかも全てが私を狙っている!!
おお、ファ●ネルによる遠隔攻撃みたいだ!!
格好いいから私も真似するぞ!!
しかも生み出す球体は、100以上だ!
ヘンゼルの熱線を熱線で相殺しつつ、更にヘンゼル本体も狙う。
『ガアアァァァァッ!?』
数十本の熱線の直撃を受けて、ヘンゼルは勿論、周囲も全てが爆炎で包まれる。
本来ならこれで帝都全体が吹き飛びかねない威力なんだけど、ヘンゼルとの戦いが始まる前に、ここを囲んでいる壁と上空の結界はかなり強化したから、外部にはさほど影響はない……はず。
その代わり、内部は灼熱地獄になっている。
私も「結界」で防御しないと、服が燃えちゃうなぁ。
「っ!!」
その時、炎の中から何か巨大な物体が私にぶつかってきた。
これはヘンゼルの尻尾か!?
その一撃は重く、私は壁に突っ込む。
「ぐっ……!!
痛~……!!」
壁は私自身の力で強化されているから、私が衝突しても壊れないほど硬い。
さすがに「結界」ごしでも、結構な衝撃が伝わってくる。
おおぅ……久しぶりにダメージを受けたわ。
それにしてもヘンゼルは、まだ生きているのか……!!
あの四天王カシファーン程度なら、1発で即死するような威力の熱線を数十発は受けたはずなのに、どんな耐久力をしているんだか……。
『このヘンゼルを、あの程度でどうにかできると思ってもらっては困る……!!』
どうやらそのようだね……。
こんな都市の真ん中で本気は出したくないけど、そうも言ってはいられないようだ。
グリーグスを倒したのはリゼなんだけど、リゼ本人を含めてその事実に気付いている者はいません。




