55 厄災の獣
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怪獣が地上へ出てくる時の振動で、城が崩れ始めた。
それはもう「バ●ス」を唱えた後の、ラ●ュタのように。
私とシルビナは、地上部分には出たけど、まだ城の中だ。
このままでは、瓦礫の下敷きになってしまう。
ここは転移魔法で、一気に外まで脱出しようか。
あ、周囲に誰かがいるのなら、その人達も一緒に──。
数十mくらいなら、離れていてもなんとかなるだろう。
「テレポ──ト!」
と、私達が外に出ると、大きな壁があった。
あれ……城壁は母さんが壊したはずだけど……。
ああ、魔物を外へ出さないようにする為に、また壁を作ったのかな?
「はあ、はあ……。
死ぬかと思いました~……」
お、私と一緒に転移してきたのは、コンスタンス達だったんだ。
私が初めて彼女に会った時は、ちょっと年上のお姉さんだったけど、今ではすっかり外見年齢を追い越してしまったなぁ。
吸血鬼故に、幼い姿のままで成長できないというのは、キャラとしては合法ロリとして美味しいけれど、色々と大変な部分もあるのだろうと思う。
母さんの記憶の中には、そんな吸血鬼映画の話もあったっけ。
それでもコンスタンスは、いつも陽気でいい子だと思う。
「コンスタンス、大丈夫?」
「お嬢様ぁ、ありがとうございますぅ~。
危うく脱出が、間に合わないところでしたぁ~」
涙目で謝礼を述べる吸血幼女……お可愛いこと……。
「あ、他の者達は?」
「副メイド長とは合流予定でしたが、間に合わず……。
おそらく、自前の転移魔法で脱出しているとは思いますが……」
まあ、グラスならそうだろうね。
私達も改めて、壁の外へ脱出した方が良いかな……とか考えていたら、
『おい、アリタ。
城が本格的に崩れ始めたぞ……!!』
「うん、そろそろ出てくるねぇ……」
城の一部が崩壊し、大量の粉塵が巻き上がった。
その粉塵の奥に、巨大な影が見える。
そしてそれは直立したのか、粉塵の中から頭を出す。
あ~……初代ゴ●ラの出現シーンを、思い出すなぁ……。
でも翼があるから、どちらかというとデス●ロイアの方が近いのかな……。
いずれにしても、最初の「怪獣」という第一印象は、より強固なものになった。
で、その怪獣は周囲を見渡し──、
『大地の咆哮』
と、唱える。
喋ったあああぁぁーっ!?
言葉を扱える程度の、知性はあるのか。
って──、
「お、おお?」
『おおおおおおおお!?』
地面が揺れる。
あいつ、土魔法で地震を起こしたな!?
周囲の壁が邪魔だから、崩そうとでも思ったのだろう。
まあ、母さんが作った壁ならば、この程度では崩れないだろうけれど……。
しかし……、
「ひいぃぃぃぃっ!?
世界の終わりですぅ~!?」
「お助けぇぇぇぇぇぇっ!?」
メイド達は大パニックだ。
この世界、あまり地震が起こらないからなぁ……。
だから耐震構造の建物も少なくて、簡単にくずれる。
目の前の城だって、それは例外ではなかった。
まあ、控えめに言っても大惨事だよね……。
でも私は日本人として母さんの記憶も共有しているから、この程度──おそらく震度4くらいかな?
これくらいなら慣れたものだ。
それに母さんは、もっと大きな震災も経験している。
だけどそれだけに──、
「揺らすのをやめなさい、この馬鹿者っ!!」
『ゴアッ!?』
何処かから母さんが突然現れて、怪獣の顎を蹴り上げた。
あ~あ……、激おこだよ。
元日本人に対して、地震と津波の攻撃は、ガチ切れポイントだと思う。
で、蹴られた怪獣は、衝撃で浮き上がる。
よく頭が吹き飛ばなかったねぇ……。
それだけ防御力が高いということか。
そして浮き上がった怪獣は、そのまま空へと高く吹っ飛んでいくのかと思ったんだけど、何かに衝突して落ちてくる。
ああ、「結界」があるんだ。
その辺の魔物があの勢いでぶつかったら、それだけで死亡するんだろうけれど、怪獣はまだ生きているというか、衝突自体では大したダメージを受けていない印象だ。
そして墜落してくる大怪獣。
うん、怪獣映画で何度か見た光景だな。
……つまり、ヤバイ!
「全員、衝撃に備えろーっ!!」
私は全力で「結界」を形成した直後、物凄い衝撃が襲いかかってきた。
さすがに私も、ちょっとよろめいてしまう。
いくら「結界」でガードしていても、地面が割れるとさすがにバランスをとるのは難しい。
「わわっ!」
『おっと、大丈夫か、アリタ』
「あ、ありがと、シルビナ……」
『なに、私はアリタの騎士だから、当然さ』
倒れそうになった私は、シルビナによってお姫様抱っこをされて事なきを得る。
「……あなた達は趣味がアレなのに、無自覚に百合ムーブを見せつけてきますね……」
「母さん!」
気がつくと、近くまで母さんが来ていた。
「母さん、あの大きいのがたぶん黒幕だよ!
拉致されて見つかっていない人達は、あいつに吸収されて強化材料にされたっぽい!」
私はあの勇者から聞いたことを、母さんに説明した。
母さんは顔こそ冷静な表情をしていたけど、発しているオーラがヤバイ。
怒気を通り越して、強い殺気になっている。
弱い生物なら、これを受けただけで死ぬレベルだ……!
「なるほど……分かりました。
アリタ達はここから脱出して、帝都の住人の保護をしてください」
「か……母さんは……?」
その答えは、聞くまでも無かったが、つい聞いてしまった。
「勿論、あの巨大不明生物を、できるだけ苦しめてから、この世より排除します!」
「……うん、任せた!」
私はちょっとだけ、あの怪獣に同情した。




