表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

330/392

52 渾身の一撃

 ブックマーク・いいね・感想をありがとうございました!


 なんとか間に合った。

 勇者の魔力が大きく膨れ上がった次の瞬間、彼の正面の空間が水面(みなも)のように揺らぐ。


「冥界の扉──」


 勇者がそう唱えると、その揺らぎから何かが飛び出した。


「──こいつ!?」


 一直線に私達へ襲いかかってくるそいつは、あの帝国との戦争の時に、私が倒した格闘家勇者だった。

 あの勇者め、元仲間を死に損ない(アンデッド)系の魔物として召喚したのか。

 ……うん、他人(ひと)のことは言えないな……。


『アリタ、気をつけろ!』


「うん、分かってる」


 この格闘家は、勇者の攻撃の本命ではない。

 なぜならば、勇者の魔力はまだ膨れ上がっているからだ。

 この格闘家は、本命攻撃の準備が整うまでの、時間稼ぎに過ぎないのだと思う。


 いやこの格闘家、動きが以前よりも速くなっているし、力も上がっている。

 生きている人間ならばかけらけているはずの、身体(からだ)が限界以上の力を出して壊れないようにする為のリミッターが外れているのだ。

 今この瞬間だけ時間稼ぎができれば、後のことはどうでもいいということか。


「うお、危なっ!!」

 

 格闘家の回し蹴りが、私の「結界」を破壊した。


 ……まともに戦えば、こいつの方が苦戦しそうだな。

 でも再生怪人は、弱体化しているというのがお約束。

 そう、死に損ない系の魔物には、致命的な弱点がある。


「ほい、浄化!」


『グオッ!!』


 浄化の光を受けて、格闘家の身体が崩れていく。

 私の浄化魔法に耐えられる死に損ない系の魔物は、この世に存在しないだろう。

 だけど勇者にとっても、単なる時間稼ぎだったので、それでも問題はないはず……。


『む……そろそろか!』

 

 どうやら、勇者の方の準備は万全のようだ。

 魔力が限界まで充実しているのが、オーラを()ただけでも感じ取れる。


「受けてみるがいい……。

 『天地(あめつち)の怒り』を!」


 来る!

 勇者による最大最強の魔法攻撃が!


『うおっ!?』


 唐突に頭上から、無数の(いかずち)が降り(そそ)ぐ。

 それは豪雨の如く、数百か、それとも千を超えるか──。

 とても全てを(かわ)せるような数ではない。

 視界の全面が(まばゆ)い光に染まり、目を開けるのにも苦労する。


 これは「結界」で防御するしかないな。

 ──って!?


 私は慌てて跳躍した。

 いきなり床が溶け落ち、溶岩と化したのだ。

 さすがにここへ落ちたら、脱出には手こずるよ!?

 それに長時間(つか)かっていたら、さすがにシルビナのミスリルボディでも溶けるかもしれない。

 それはもう、ターミ●ーターのように!!


 勿論、中身の私も焼け死ぬだろう。

 早く安全圏まで脱出した方がいいんだけど、未だに雷は降り続けているし、更に溶岩も間欠泉のように吹き上がってくるので、下手に動けない。


 私達は空中で「結界」を張って、防御に徹することになった。

 そんな私達にとってすら危険な空間に、勇者が生身で突っ込んでくる。


『「なっ!?」』

  

 いや、勇者の右腕だけが、炎の塊となっていた。

 あの炎の巨人に変化する術のパワーを、腕1本に集中させたのか。


 どちらにしても捨て身だ。

 自分自身の魔法攻撃で、ダメージも受けている。

 それでも構わずに、勇者は炎と化した右腕を私の結界に叩きつけた。


 その一撃で、結界が破壊される──だと!?

 その力、さっきの格闘家と同等以上だ。

 まさか魔剣を失ってもなお、ここまで私達を追い込むとは!

 だけど私達も引く訳にはいかない。


「よーし、シルビナ!

 私達もあいつに(こた)えよう!

 防御は捨てる!」

 

『ああ、これが最後だ!!』


 シルビナが上段に剣を振り上げた。

 結果、がら空きになった胴体目掛けて、勇者が渾身の(こぶし)を打ち込んでくる。


「あああああああああ──っ!!」


『はああっ!!』


 拳を振るう勇者目掛けて、シルビナが剣を振り下ろす。

 まともに受ければ、勇者は致命傷を負うことになるだろう

 それでも構わずに、一切の回避行動を取らずに攻撃に集中した勇者の執念は、シルビナの一撃を上回った。


 そう、その斬撃が身体を斬り裂く前に、勇者の拳は私達の胸に届いたのだ。


「ふぎゃっ!!」


 勇者の拳を受け止めた鎧は大きく陥没し、それが私の脇腹に食い込んだ。

 これは、肋骨が逝ったか!?

 

 そしてその衝撃でシルビナの斬撃は()れ、勇者の左肩を浅く斬り裂くだけに終わった。

 つまり今の攻防は、勇者の方に軍配が上がったことになる。


 ──が、シルビナの斬撃が外れた瞬間、私は動く。

 振り終わった剣から左手を離し、勇者の身体を振り払うかのように横へ薙いだ。

 その指先からは、熱線が放たれている。


「……これで満足か?」


「──」


 勇者は熱線で喉を斬り裂かれ、既に言葉を発することはできない状態になっていた。

 だけど彼は、確かに笑みを浮かべたような気がする。

 満足したのか、それは勇者本人にしか分からないけれど、その笑みを私の記憶に残して、彼の首と胴体は離ればなれになり、溶岩の中へと落ちていった。


 さすがにこれで終わりだね……。

 さっさと安全なところへ、退避しよう。


 しかし実際には、床に着地してからが、大変だった。


「ガフッ!?」


『ア、アリタ!?』

 

 私は豪快に、吐血することになったのだ。

 あかん、内臓も逝ってる……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] この勇者は最早チート級強いですね!?小者性格なのは勿体無いです。悪い意味の奴だから無駄にしつこいの気持ちです。。。 アンデッドはアリタさん達も似た手段を使っていますので他人の事を言えないか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ