51 勇者と勇者
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勇者を中心に発生した爆発──。
その威力は常人が生身で受ければ、全身が粉々になるほどの威力だろう。
だけどシルビナの鎧には魔法耐性も付与されているので、衝撃こそ受けるが、熱による影響はさほどない。
ただし──、
「地爪!!」
「っ!!」
爆炎に紛れて、床から巨大な岩の爪が私達に襲いかかる。
こういう質量のある攻撃は、それなりに効く。
たとえ致命傷にならなかったとしても、動きを阻害されれば、勇者による本命の攻撃を受けかねないのだ。
そういうことならば──と、私がその攻撃を解呪し、岩を砂へと分解する。
同時に土魔法で床を無数の槍に変形させ、勇者を狙い撃ちした。
この攻撃も勇者は魔剣で斬ることができるはずだけど、役割分担ができる私達から比べれば、対応はどうしても遅れるはずだ。
実際、100を超える石の槍を、勇者は全て破壊させることができず、身体にはいくつもの傷を作っていた。
そしてそれがわずかながらも、隙に繋がる。
『はあっ!!』
「ぐっ……!!」
シルビナの斬撃が勇者の胸を斬り裂き、そこからは大量の出血があった。
だけどその出血は、すぐに止まる。
そういえば回復魔法も使えるんだっけか。
そうなると、回復魔法を使う暇も無く絶命させるか、魔力切れを狙った持久戦をしかけるか……。
できれば前者だな。
とにかく攻撃をしつつ、チャンスを狙おう。
ただ、その判断は勇者も同じようで、連続して斬りかかってくる。
そしてこちらも、応酬──。
「あああああああーっ!!」
『オオオオオオオオーっ!!』
何十、何百とという斬撃の打ち合い──。
お互いに少しずつ傷が増えていくけど、心なしかこちらが受けている傷の方が多い。
まあ、こちらは鎧の表面を少し削られる程度なので、ダメージは皆無に等しいが、だからと言って無視するのは危険だ。
「どうしたの、シルビナ?
反応が少し鈍い!」
『よく分からないけど、動きが何かに阻害されているような気がする!』
……!!
もしかして魔剣か?
シルビナの本体は霊体で、鎧は魔力で動かしている。
一応、魔剣の「魔力を斬る」という能力に影響を受けないよう、鎧へ耐性術式を付与してはいるけど、それも万全ではなかったということか?
仮に魔剣の一撃による影響は少なかったとしても、それが何度も重なれば、無視できなくなるかもしれない。
最悪の場合、致命的な動作不良も有り得る。
それならば──、
「じゃあ、私が動くっ!!
シルビナは微調整を頼むっ!!」
『や、やってみる!!』
私の身体能力の数値は、勇者に劣るものではないはずだ。
ただ、剣で戦う技術が足りない。
ならばシルビナには、補助を任せる。
私達は足りないところを補い合って、最大の力を発揮するのだ!
私は渾身の力で、剣を振り下ろした。
「はっ、なんだその大振りは?」
勇者はそう言うが、必要以上に距離を取って回避し、その所為で即座に反撃してくることはなかった。
何故ならば私が放った一撃は、込められた力と速度だけなら一撃必殺とも言えるものだったからだ。
直撃すれば勇者だって、即戦闘不能になりかねない。
彼はそれを警戒したのだろう。
おかげで私は、更なる攻撃の機会を得た。
しかし今のように粗雑な攻撃が続けば、勇者はそれを見切って反撃してくるはずだ。
だけどそうはならない。
「ぐっ……!
ぬっ!」
私が剣を振るたびに、その狙いは鋭くなり、勇者の回避はギリギリになってゆく。
シルビナによる私の動作調整が、徐々に熟れていっているからだ。
一方で私は、相変わらず何も考えずに全力で剣を振っているので、勇者にとっては絶対に受けてはいけない威力を発揮し続けている。
それでもついに勇者は、私の斬撃を避けきれず、剣で受けざるを得なくなった。
そしてそこに狙いがある。
「ここだっ!!」
その斬撃が勇者の剣に触れる瞬間、我が剣に浄化の魔法を全力で付与して魔法剣を発動させる。
シルビナータソード!! 魔を斬り裂きし聖なる剣だ──。
「ガ、ガッ!!」
浄化魔法が付与された斬撃は、魔剣を魔剣たらしめている「魔の力」を消し去り、刀身を切断する。
それは剣で斬撃を受け止めようとしていた、勇者の身体も同様だ。
これで勝負はほぼ決まった。
勇者が受けた傷は、深手ではあるけれど、回復魔法でどうにかなる。
だが、魔剣を破壊された彼の戦闘力は、大幅に低下した。
少なくとも、私達を倒す手段はもう残っていないだろう。
「……まだ、戦う?」
「くっ……はははは……」
私達に剣の切っ先を突きつけられてもなお、勇者は笑う。
これは……まだ諦めてないな?
「……僕はね。
向こうの世界じゃ、誰にも期待されていなかったよ。
実際力不足で、どんなに努力しても、何かを成し遂げることはできなかったしね。
だけど力がある今は、最後までやり遂げたいんだよ……!!」
「……」
努力が報われなかった人の気持ちは分かる。
私だって前世では、生きるだけで精一杯で、なんとか状況を良くしようとしたけれど、結局死の結末は避けられなかった。
今は力もあって、好きなこともあるけど、それでも命を懸けて何かを成し遂げたいと思ったことは無い。
やっぱり努力しても、無駄なんじゃないか──そんな想いが、心の何処かにこびりついていたのだ。
しかし皮肉にも、この勇者がそれを与えてくれた。
親友の仇を討つ──そんな命を賭すべき価値のある目的を!
結果として、私は成長できたと思う。
だけどこの勇者に、感謝はしない。
前世での虚しさを共有できても、同情はしない。
あいつがやったことは、それだけ許されないことだ。
ただ、何かを成し遂げようと言う想いを、折れずに捨てなかったことだけは尊敬しよう。
私達は、剣を構えた。
全力で相手をする──それが強者への礼儀だ。
「僕は、誰かにとっての特別になりたかった……!」
……認めたくないけど、その目的は既に達成されているんじゃないかな?
こんな嫌な奴は、忘れようとしても忘れられない。
そう内心で毒づく私の前で、勇者の魔力は大きく膨れ上がっていった。
「だから最後まで、君には付き合ってもらう……!!」
まるで地獄まで付き合って欲しいと、言っているかのようだ。
謹んでお断り申し上げます。
『よし、全力を出せ』
「私達が、返り討ちにしてあげる!」
おそらく次の攻撃で、この戦いは終わるだろう。
まだ次回を1行も書いていないので、明日の更新が間に合うか微妙な情勢……。




