50 2人の力
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前回からちょっと時間が戻ります。
私に向かって振り下ろされた魔剣の一撃を、シルビナの剣が受け止めた。
すかさず私が魔法で反撃する。
今晩は、アリタです。
現在、勇者と交戦中。
ただ、既に1度戦った相手だし、今回はシルビナも勇者とそこそこ戦えるようになっているので、今のところはさほど危険を感じていない。
シルビナに防御を任せて、私が魔法攻撃に集中する──そんな感じで役割分担もできている。
ふふ……我らが親友ペアのコンビネーションは完璧だ。
でも、勇者も以前と同じではない。
明らかに強くなっている。
だけどそれは、勇者がレベルアップしたとか、そういうことではない。
生贄の儀式で、能力を上乗せした……ということでもないと思う。
それをやるのなら帝国を操っていた奴は、たぶん地下で眠っているあの怪獣の方を優先するはずだし、そもそも勇者に対しては召喚時に1度だけ通用する強化方法なんじゃないかな?
だからこそ勇者は魂だけをこの世界に呼び出され、そして生贄によって付与された能力に見合った強靱な身体を、後から再構築されてこの世界に転生してきたのだと思う。
そういう意味では、あの怪獣の身体もまだ、再構築の途中だと言える。
それが終わる前に、なんとか倒したいところだ。
しかし困ったことに、母さんに念話が届かない。
地下だから? 地下だから電波が届かないのか?
アンテナが立ってないの? Wi-Fiが無いの?
いや……おそらくは、なんらかの魔法的な処理が、この空間に施されているのだろう。
だとすると、転移魔法での移動もできないかもしれない。
う~ん、怪獣の対処を母さんに任せようと思っていたのに、これではそれができない。
いや、熱線で天井をぶち抜くとかすれば、念話が届くようになる可能性もあるけれど、あまり派手なことをすると、怪獣が目覚めちゃうかもしれないし……。
となるとさっさと勇者を倒して、一旦地上に戻る必要があるな……。
だけど勇者は、以前よりも強くなっているから、そう簡単にはいかないかもしれない。
そしてその原因はおそらく、あの魔剣だ。
きっと勇者は前国王ダグラスの時と同様に、魔剣に浸食されることによって、強化されているんじゃなかろうか。
それはつまり、半魔族化が進んでいるということだ。
そしてその魔剣の出所は、やっぱり魔族だろう。
たぶんこの帝国を裏から操っていたのは魔族だろうし、あの怪獣もたぶん魔族の関係者なんだと思う。
「よし、シルビナ!
あれをやるよ!」
『む、あれか?
もう使うのか?』
「ちょっと、ゆっくりもしていられないから……ねっ!!」
私は全力の浄化魔法を、勇者へと撃ち込んだ。
あの魔剣は魔法というか、魔力を斬るらしいけれど、それでも剣自体から不浄な力を発しているのならば、多少は効くんじゃないかな?
実際ダグラスの時は、それで魔剣を無力化できたし。
つまり魔剣の能力の正体は、ある種の「呪い」なのかもしれないねぇ。
そして狙い通り、勇者の動きが一瞬止まる。
魔剣による強化が、一瞬弱まった所為だろう。
よし、今だ!
「レーッツ、コンバインド!!」
『ハッ!!』
その私の掛け声と共にシルビナは空中へ高く跳躍し、次の瞬間にはその身体がバラバラと分離した。
それを追うように跳躍した私の身体に、シルビナの各パーツが装着されていく。
ここ、アニメや特撮なら、変身バンクになるね!
そして完成したのは──、
「『究極合身! シルビナータ顕現!!』」
そう、私達は合体したのだ!
「ふぃ~、シルビナの中、あったかいなりぃ~」
『や、やめろよ、なんだか恥ずかしい……』
でも実際この鎧の中は、シルビナの魂に包まれているようで、独特の心地良さがある。
「……なんだよ、驚かせて。
2人が1人になって、数の上での有利を捨てているじゃないか」
勇者は呆れたように言った。
確かに2人で戦った方が、有利に見えるかもしれない。
だけど私達の力は、そんなに単純なもではない。
「私達1人1人は単なる火だけど、2人合わされば炎となる。
2つの魂が炎となって燃えた私達は──」
『無敵だ!』
「は、そんな古くさいノリで、僕をどうにかできるとは、思わないことだっ!」
勇者が高速で斬りかかってきた。
それは今までの私なら、回避できないスピードだ。
シルビナだって、剣でその斬撃を受け止めるのが、やっとだっただろう。
だけど回避するのは、私達だ。
「なっ……!?」
勇者の剣が、虚空を斬る。
その時には既に私達は、勇者の側面に移動し、攻撃の態勢に入っていた。
『はあぁーっ!!』
「っ!!」
勇者は私達の斬撃を、慌てて剣で受け止める。
しかし彼は、斬撃の威力を受け止めきれず、片膝を突いた。
「ぐぅ……っ!?
なんだこの力は……っ!?」
「言ったでしょ、『炎』になった私達は無敵だ……と!」
私はシルビナの鎧を、ただ纏っただけではない。
どちらかと言えば、シルビナの方が私を内蔵し、私のエネルギーやスキルなどを活用している状態だと言う方が近い。
私は魔力と気の出力調整や、魔法の術式構築など、サポート的な役割がメインだ。
だからシルビナは今まで以上のパワーを発揮できるし、「感知」などの各種能力も大幅に上昇している。
とはいえ、シルビナだけが戦っている訳ではない。
2人の精神を同調させているので、細かい判断には私の意向も反映されている。
私達は2人で1人でもあり、1人で2人でもあるのだ。
「なるほど……確かに先程までとは違うようだ……」
『ぬ……!』
勇者から──いや、魔剣から発せられる魔力が大きく膨れ上がった。
「だが、僕もまだ、全力ではないぞっ!!
──勇爆っ!!」
勇者がシルビナの剣を弾き上げ、剣の切っ先を床に突き立てた瞬間、彼を中心にして激しい爆発が巻き起こった。




