表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

327/392

49 帝国崩壊の始まり

 ブックマーク・誤字報告・いいね・感想をありがとうございました!

 私は吸血鬼(ヴァンパイア)メイドのニナ。

 帝都の城攻めは、そろそろ佳境に入ろうとしている……んじゃないかなぁ?

 今私達は、勇者カイリが操っていた人達を介抱している。

 一方──、


「ご協力、ありがとうございました」


 メディナッテは副メイド長(グラス様)の前にひれ伏して、謝礼を述べていた。

 普通なら皇族がメイド相手にする態度じゃないし、(はた)から見てもシュールな光景だねぇ……。

 でも彼女にとって勇者カイリを止めて保護することは、それくらい重要なことだったのだろう。


「構いません、頭を上げてください。

 我らが王国としても、皇族の確保と勇者の無力化は必要なことでした。

 今後皇女(おうじょ)殿下には、戦後交渉などで協力していただきたいと思います」


「はい……」


 これから帝国は、事実上敗戦国の扱いになる。

 メイド長(アリゼ様)からは「皇帝が死亡していた」との報告も受けているし、他の皇族の生存も確認されていない。

 

 それどころか城にいた人間の大半は、魔物に襲われて駄目だったらしい。

 国政に関わる者達も、多くが死亡したということだ。

 皮肉にも昨晩制圧した貴族だけが生き残る結果になっているけれど、あれらの多くは王国に敵対する派閥の人間なので、帝国の代表としては使い物にならない。

 

 必然的にメディナッテ皇女が帝国側の最高責任者となり、戦後交渉の相手……ということになると思う。

 とはいえ彼女1人では国を動かすことはできないので、彼女を傀儡(かいらい)にして王国から送り込んだ人材が実質的に交渉を行うことになるんじゃないかなぁ。

 つまり自作自演。

 おそらくその為に、元国王である副メイド長がここに派遣されているのだろう。

 

「ただ勇者には奴隷契約をかけ直し、ある程度の能力の制限は(ほどこ)さなければなりません」


「それは……仕方がないことだと思います」


 副メイド長の言葉を受けて、メディナッテは悔しげに目を伏せる。

 奴隷契約に苦しめられたあの子に、また契約を()いるのは酷なことだとは思うけれど、こればかりは仕方がないだろう。

 それだけ勇者の能力は、厄介なものだし。


「まあ……悪いようにはしませんよ。

 私の(あるじ)は、子供に重い責任を背負わせるほど非情ではありません」


 と、副メイド長はメディナッテの頭を撫でた。


「お……副メイド長が優しい。

 私達の相手をしている時とは、態度が違わないか?」


 リュミエルが何か信じられない物を見た……というような顔をしている。

 副メイド長は、基本的に厳しい人だからなぁ……。


「まあ、副メイド長にも娘がいるから、子供には甘いのだと思うよ」


 今のメディナッテの立場は、帝国によって王国が敗北していた場合、クラリス女王陛下にも有り得た未来だ。

 だから副メイド長も、他人事には思えない部分もあったのだろう。


「え!? 副メイド長に娘なんかいたのか!?」


 むしろなんで知らないの?

 まあ、リュミエルは鉱山での作業や、ダンジョンでの訓練が業務のメインだから、副メイド長と女王陛下が一緒にいるところをあまり見たことが無いのかもしれないけれど。

 

 でも城で働いていると、結構親子のやりとりを垣間見る機会はあるんだけどね。

 意外と親子関係は良好だし、王太后陛下とも仲睦まじい……と言っても、リュミエルは信じないかもしれないな。


「女王陛下のことよ」


「ファッ!?

 え、でも陛下の母親ってクリス様で……。

 ……え、もしかして……!?」


 ある事実に気がついて、リュミエルは複雑な顔付きになった。


「そう、あなたと同じ立場よ、リュミエル」


「え~……本当かよ……。

 元国王じゃん……」


 前国王が女性になってメイドをしているとか、王国の「三大」表に出しちゃいけない機密情報だよね……。

 残る2つは、メイド長が真の女王だということと、ノーザンリリィ辺境伯の正体がスライムでメイド長の娘だということだろうか。


 他にも色々とあるんだけど、大抵はメイド長絡みだよねぇ……。


「そこ! 雑談はやめて、合流の準備を!

 コンスタンス達がもうすぐ到着します。

 怪我人も連れているようですよ」


「「は、はいっ!!」」


 おっと、副メイド長に話が聞こえていたのか、怒鳴られてしまった。

 私は慌てて怪我人の受け入れ準備を始める。

 どうやら他のチームも、少数の怪我人を保護しただけで、人質の救出や要人の確保はできなかったらしい。


 ある意味では作戦の失敗だと言えるのかもしれないけれど、メディナッテを保護した時点で、目標を達成したとも言える……ということにしておこう。

 魔物の駆逐もほぼ終わったようだし、もう私達にやれることは殆ど残っていない。


 他の勇者とかの始末は、メイド長やアリゼナータ様の仕事だしね。

 というか、我々には無理です!


「……ん?」


 気がつくと、副メイド長が倒したはずの魔物の死体が見当たらない。

 あれ……これって……?


「副メイド長、魔物の死体が消えています!

 ダンジョンみたいに!」


「これは……確かに……!

 嫌な予感がしますねぇ……」


 確かダンジョンで死体が消えるのって、吸収した死体をエネルギーに変換して、内部構造や生態系を維持する為だという話だよね。

 でも魔族がいた頃には、魔王を復活させる為にも、そのエネルギーを使っていた可能性があったらしい。

 実際にダンジョンの最下層には、その為の部屋だと思われる物が残っているし……。


 何者かがそれと同じことを、しようとしているってこと?

 だとすると突然現れて、手当たりしだいに虐殺を行っていた魔物は、エネルギーの吸収が目的だった……!?

 本格的に嫌な予感がしてきたぞ……!


「副メイド長!

 撤収を急ぎましょう!!」


「そうですね……。

 コンスタンス達と合流したら、すぐにでもそうしましょう」


 そう話し合っていると、


「……ん?

 床が揺れてる?」


 その事実に、私は気がついた。

 そしてその揺れは、徐々に激しくなっていく。


「わわわ、地震か!?」


「ひいぃぃぃ!?」


 あまり経験をしたことがない現象に、我々は動揺した。

 これ、城が崩れたりしないよね!?


 私も軽く半泣きになっていたその時──、


『あー、あー……よし、ようやく念話が通じた。

 みんな──っ!!

 今すぐ脱出して──っ!!

 ラスボスが出たあああぁぁぁぁ──っ!!!!』


 おそらくアリゼナータ様の、念話が届いた。

 一体何事!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ