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47 皇女の願い

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 私──ニナが、切り離された上半身と下半身を接合させた後、次にリュミエルの首を胴体に接合させる作業を始めた。

 とりあえず断面同士をくっつければ、勝手に再生能力が働くはずだ。

 ……よし、治った。


「ほら、起きなさい、リュミエル」


「はっ……!?

 ……なんだ、夢か……。

 自分の首の切断面とか、見えるはずがないよな……」


「いや、現実、現実」


 こいつ、まだ人間だった頃の感覚を、引きずっているな……。


「ん? 誰だい、そこのお嬢さんは?」


 リュミエルは、(そば)で倒れている女の子の存在に気が付いた。


「たぶん皇族の子じゃないかなぁ……」


「なんだって!?

 確保したら手柄になるんじゃないか!?」


 リュミエルはもう何年も平メイドで、鉱山での業務も多いから、昇進しようと必死なんだねぇ……。

 でも過去に王族に逆らったのにも関わらず、斬首にされなかっただけでも温情だったんだから、そう簡単にこれ以上許されるとは思えないけど……。

 あと四半世紀はこのままなんじゃないかな?


「おい、起きろ。

 おい!」


 リュミエルが、女の子の頬をペチペチと叩いている。

 こいつは元男の所為か、未だに女の子の扱いが荒い。


「こら、女の子は丁重に扱いなさい。

 そういうの、メイド長はうるさいよ」


「う……分かったよ」


 私に注意されて、リュミエルは素直に従う。

 役職にこそついていないけど、立場的には私の方が上だしね。


「ん……ここは……?」


 リュミエルに肩を揺すられて、女の子は目を覚ました。


「あなた、自分の名前を言える?」


「ひっ!?

 なんで……生きているの……?」


 私達の姿を見て、女の子は(おび)えた表情を浮かべる。

 まあ、普通の人間なら、死んでいるような状態の私達を見ているしね……。


「いいから、聞かれたことに答えろ」


「ひっ……!」


「リュミエル、脅さない。

 あなたも抵抗しないなら何もしないから、話してくれるかな……?」


「……は……はい」


 怯えながら答えた彼女によると、名前はメディナッテ。

 やはり帝国の皇女(おうじょ)らしいけど、皇位継承権の順位は低いとのこと。

 ただ、他のチームから皇族を捕らえたという報告は無いので、現状では唯一保護できた皇族の可能性もある。


 それならば城外へ連れ出して、身の安全を確保した方がいいかもしれないなぁ……。

 でも、今この城って封鎖されているらしいし、転移魔法はメイド長(アリゼ様)副メイド長(グラス様)、そしてアリゼナータ様しか使えないんだよなぁ……。

 城の外まで運んでもらう為にも、早く合流しないと。


「それでは私達に付いてきてください。

 安全な場所までお連れしますので」


 しかしメディナッテは、首を縦に振らなかった。

 そして酷く言いにくそうにしながらも、私達に懇願する。


「……お願いします。

 (わたくし)は、勇者……カイリ様を止めたい……。

 彼女は奴隷契約で操られているだけで、本当は戦う気なんて無いのです。

 先程まで私と一緒に、国を捨てて逃げようとしていたくらいなのですから……。

 どうか協力してください」


 勇者カイリ……。

 それって、さっき私達をぶった切った奴か。

 確かに正常な思考力は、奪われている感じだったけれど……。


 ただ、勇者も皇女も、私達の敵勢力に属していて、どうしても救わなきゃならない相手ではない。

 我々にもメリットは必要だ。


「あなたが今後、我らが王国の指示に従うことを確約してくだされば、考慮しましょう」


「わ、私にできることならば……!」


 よし、皇女の処遇を考えるのはメイド長だけど、ここで言質(げんち)を取れたのは良かった。

 彼女の存在は、これからの帝国の統治に役立つかもしれない。


「それでは、メイド長か副メイド長と連絡を取って……」


「あの~……」


 その時、リュミエルが声をかけてくる。


「副メイド長が、今まさにその勇者と交戦中らしいんだけど……」


「なっ……!?」


 う~ん……それはちょっと(まず)いのでは?

 正直勇者はどうでもいいけど、勇者が死んでしまうと、皇女が自ら積極的に協力してくれることはなくなるかもしれない。

 まあ、最悪の場合、言うことを聞かせる手段は色々とあるけど、それは人道的とは言いがたいし……。


「行きましょう!

 手遅れになる前に……!」


「は、はい……!」


 私達は副メイド長と合流すべく、駆け出した。


 その途中、魔物にやられたのか、既に事切れている人間の姿をいくつも見た。

 メディナッテとしては、それらの遺体を見るのが辛そうだったが、それは同じ城で生活を共にしていた人間が死んだことに衝撃を受けているということもあるようだけど、単純に遺体をあまり見たことがないということも影響していそうだ。

 実際、たまに嘔吐しそうにもなっていたし、もう生理的に気持ち悪いのだろうね……。


 そんなメディナッテが、特に大きく反応する遺体と我々は出会う。


「に、兄様!?

 な……なんでこんな……」


 ん? それって皇子(おうじ)ってことだよね?

 あの魔物達って、私達を撃退する為に放たれたと思ったんだけど、帝国人だろうが皇族だろうが、見境無しに襲っているってことなの?


「……一体何が起こっているんだ?」


 そんなリュミエルの言葉には、私も同感だった。

 一体何の為に、あの魔物達は現れたんだ?

 これじゃあまるで、この城にいる人間を皆殺しにしようとしているかのような……。


 誰が何の得があって、そんなことをしようとしているのか……。

 それはよく分からなかったけど、早めに副メイド長とは合流した方がいいな……と、私は思った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど、下っ端だと念話とか即時情報伝達の手段が無さそうですね。
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