42 国を守れ
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今回は途中から視点が変わります
カイリは崩れていく城壁を、呆然と見つめていた。
あの水に溶けるかのように、壁が崩れていくってのは……土魔法の力……?
でも、それが簡単にできるのなら、城壁なんか最初から意味が無くなるよね……。
普通なら魔法への対策もしているはずだし、本来有り得ないことが目の前で起こっている。
そしてあの言葉が、また頭の中に響いてきた。
『改めて一般人の方々には、城に近づかないように警告します。
できれば不測の事態が起こることを考慮して、帝都の外まで避難するのがより望ましい。
また、次の貴族の邸宅は既に我々が制圧済みである為、いざという時は避難所として開放します。
アンダーゾン公爵邸、カシバ伯爵邸、コロンバス侯爵邸──』
うわぁ、貴族が公務を休んでいるって話があったけど、全部やられているじゃん。
もう駄目だよね、この国!?
でも、一般人の避難にはかなり配慮してくれているみたいだから、結構優しい相手かも?
下手に抵抗しなければ許してもらえる?
「メディ、なるべく侍女っぽい格好に着替えて!
身分を隠して逃げよう!」
「は、はい、カイリ様!」
あんな城壁を破壊するような相手とは、戦いになんてなるはずがない。
一方的に負けて終わりだ。
それに何も悪くないメディナッテを、皇族というだけでこのまま死なせたくなんかない。
ここは何が何でも、逃げさせてもらうよ……!
しかしその時、大きな声が響く。
今度は頭の中に響くものではなく、風の魔法を使って声を大きくした本物の音だ。
『勇者達よ! 我が帝国の敵を討ち、余を守るのだ。
余こそが帝国そのものであり、余の存在無くして帝国の存続は有り得ぬ!
国を守る為に、ゆけぇ!』
それは皇帝の声だった。
い……嫌だ。
皇帝の為に死にたくなんかない……っ!
でも、身体がふらふらと、部屋の出口に向かって勝手に動く。
本当は戦いたくないと思っているのに、戦わなければいけないという気持ちが湧いてくる。
「え……?
カイリ様、何処へ? カイリ様っ!?」
「退け……!」
「きゃっ!?」
必死で引き留めようとするメディナッテを残して、カイリは部屋を出た。
そして敵を迎え撃つ為に城の外へと向かう道すがら、出会った兵士達に「魅了」のスキルをかけて従わせる。
さあ……みンなデ、敵ヲ討ツヨ……!
『アリタ、突入するぞ!』
「うん!」
母さんによって、城壁が破壊された。
これが城へ突入する合図だ。
突入するメンバーは、私とシルビナ、母さんとグラス、そして陽が沈んだので吸血鬼メイド隊も投入されることになっている。
マルガとセポネは、さすがに戦争行為に加担させるのはどうかと思い、制圧した貴族の屋敷で待機してもらった。
結果、城に突入するのは15人程度だ。
それでも、ぶっちゃけ母さんだけでも過剰戦力なので、城を落とすだけならば問題は無いだろう。
だけど1番の目的は、拉致された国民を取り戻すことだ。
しかし結局、奴隷達が城に運ばれたということくらいしか分かってないので、母さんが「乗っ取り」で関係者から情報を得るまでは、救出は難しいいかもしれない。
でも、奴隷達が監禁されていそうな場所を、一応探してみる。
う~ん、怪しい場所というと、地下牢とかかな?
地下の入り口はどこだろう?
しかもあちこちから兵士が出てきて、なかなか前に進めない。
魔法の一発でも撃ち込めばそれで済むんだけど、さすがに問答無用で常人にとっての即死攻撃を使うのは気が咎めるんだよねぇ……。
どんなに手加減しても、私の魔法攻撃に耐えられる人って、あまりいないんだもの……。
となると、やっぱり麻痺毒や蜘蛛糸を駆使して無力化するしかないな……。
よし、拘束した兵士から聞こうか。
「ねえ、地下はどっち?」
「そ、それは……」
兵士はなかなか口を割ろうとしなかった。
つまりは何か機密になるようなものが、地下にはあるということだ。
そういうことなら……、
「私の目を見て……!」
「!」
その兵士には「邪眼」のスキルで、身体が動く死体になり、全身を斬り刻まれても死ねない……最後は首だけになっても──そんな幻を見てもらった。
「今のは、本当に有り得る未来なんだけど、もう一度経験したい?
今度は元に戻れないよー?」
「わ、分かった!
話すっ、話すからっ!!」
兵士は折れた。
拷問の苦痛には耐えられたとしても、人間って欠損とかの回復不可能なダメージを負うのは、やっぱり本能的に恐れるからね。
しかもそれが永遠に終わらない──その恐怖には、耐えられなかったらしい。
『なかなかエグいことをするな……』
「……そう?」
シルビナにちょっと引かれた。
どうせ私は闇属性寄りですよ……。
ともかく地下への入り口の場所は分かったし、そこへ向かって進んでいくと、敵兵の数が徐々に減ってきた。
まあ、無限に人員がいるはずも無いし、倒していけばそうなるよね……。
ん? また増援の気配が……。
しかも結構数が多いな……。
一体何処にそんな戦力が……?
……って、あれ?
なんかおかしいんですけど?
『アリタ、あれは魔物ではないか?』
「……そうだね。
何故城の中に魔物がいるのか分からないけど……」
どういう訳か、目の前から魔物の群れが押し寄せてきた。
うわぁ、なんだか凄いことになっちゃったぞ……!
こいつらが城の外に出たら、大惨事だ!?
カイリの魅了能力は、現状では強い相手には効きませんし、制御も甘いので何らかの拍子で解除される可能性もあります。だから帝国からは、「奴隷契約の方が使い勝手が良い」と、あまり重要視されていません。鍛えれば国を丸ごと支配できるかもしれない能力なのですけどね。
さて、明日は更新できるのか、ちょっと微妙です。そして土日はいつも通りお休みの予定。




