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41 宣戦布告

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 カイリの日課はお散歩だ。

 スマホも何も無いこの世界では、そうやって暇を潰すしかないし。


 まあ、メディナッテ皇女(おうじょ)の護衛役が、頻繁にその(そば)から離れるのは問題なので、皇女から頼まれたお使いという名目(みょうもく)で出掛けている。

 実際には2人で食べる、おやつの買い出し程度のことしかしていないけどね。


 その日、不思議なことがあった。

 カイリが持っているスキルは、「魅了」だ。

 これのおかげで大抵の人は、カイリのことを好意的に感じ、優しくしてくれる場合が多い。


 メディナッテもこのスキルの所為で優しいのだろうか……と思ったら、少しもやっとするけれど、少なくともこのスキルの所為で損をしたということは無かった。

 いや……見ず知らずの人が、カイリのことをじっと見つめてくることも多いから、そういうのは気持ち悪いかな……。


 でもその日たまたま町で会った女の人は、カイリに対してまったく興味が無いような態度で、私とすれ違った。

 この異世界に来て、ここまで無視されたことは初めてかもしれない。

 そのことに違和感を覚えたカイリは、その女の人に話しかけようとしたけど、振り向いたらその人の姿は何処にも無かった。


 昼間なのに、まるで幽霊にでも出会ったかのような気分だよ……。


 そのことを城に戻ってから、九重(ここのえ)お兄ちゃんに話したら、


「そいつは、こんな見た目じゃなかったか……?」


 と聞いてくる。

 お兄ちゃんが話した特徴は、カイリが見た人と一致していた。

 だから「そうだ」と答えると、お兄ちゃんはニイィィと気持ち悪い笑顔を作った。


「あいつが来たな……。

 たぶん満月さんも、そいつが倒した」


「えっ!?」


 あの可愛い人が、おじさんでも勝てないほど強いの!?

 というか、そんな人がこの帝都に攻めてきたってことは──、


「危ないじゃんっっ!?」


 戦いになったら、カイリも死んじゃうかもしれないってことだよ!?


「……まあ、あいつだけなら、僕と互角だからどうにかなる……。

 だが、あの邪神の使徒が来ているとしたら……誰も勝てないだろうなぁ……」


「え……?

 ど、どうするの?」


「さあ……どうするんだろうね……?

 僕は勇者をするのは楽しいけれど、色々と強制してくる帝国は嫌いなんだよ。

 ここがどうなろうと、知ったことではないけどね……!」


「……っ!」


 お兄ちゃんは、カイリの怖がる顔を楽しむように笑った。

 ホント……何を考えているのか、まったく分からない。

 ひょっとしなくても、頭がおかしいんじゃないかな……?


 その後、お兄ちゃんと話したことを城の人に報告しておいたけれど、これでどうにかなるとは思えないんだよねぇ……。

 だからその晩は、なんだか不安で仕方がなかった。

 なので、メディナッテと一緒のベッドで寝かせてもらうことにしたんだけど……。


「ふふ……カイリ様の小さな身体(からだ)……ぬいぐるみみたいです」


「カイリは抱き枕じゃないんだけど?」


 メディナッテも普段から1人で寝るのが寂しかったらしく、一緒に寝ることを嬉しそうにしていたけど、カイリがこんなことを言い出した理由を知ったら、きっとカイリ以上に不安がるだろうから、何も言えなかったなぁ……。




 翌日、城の雰囲気がおかしくなった。

 朝の時点ではそうでもなかったんだけど、昼過ぎになると怪訝(けげん)そうに話し合っている人の姿をよく見るようになった。


「なんなのでしょう……?」


 メディナッテも不安そうにしているので、カイリは近くにいた文官の人に聞いてみると──、


「帝都の主立った奴隷商が、行方不明になっているそうだ」


 と、答えた。

 ふ~ん、カイリは「奴隷って良くないことだ」と日本では教えられてきたから、正直言ってあまり悪いことが起こっているとは感じなかった。

 まあ……事件であることは確かだけど。


「それと……有力な貴族の方々が10人以上、公務を休んでおられる。

 こんな一斉にとは……国政にも影響が出かねない。

 今、使いの者を出してどうなっているのかを確認しているが、皆『突然の(やまい)』の一点張りで、代理で公務を行う者すら出してはくれない……」


 それは大変ですね……よく分からないけれど。

 でもこれって、昨日見た人と関係があるのかな……。

 何かしらの攻撃を、この国が受けているってこと……?


 これは今の内に、逃げた方がいいのだろうか?

 でも、何処に?

 どうやって?


 メディナッテと話し合ったけれど、結局どうすればいいのか決められなかった。

 ただ無駄に彼女を怖がらせただけだ。


 そして夕方になると、事態は動いた。


『帝都のすべての者に告げます』


 突然大きな声が響き渡った。

 いや、声じゃない。

 直接頭の中に言葉が届いている──?


「これ、メディも聞こえる?」


「は、はいっ!」


 と言うことは本当に、帝都中の人間全員がこれを聞いている?

 どうやったらそんなことを……。

 普通の力じゃない。


『私は偉大なるローラント王国女王の筆頭侍女、アリゼ・キンガリーと申します。

 本日は帝都攻略の任を受け、ここに参上致しました」


 参上って何処に!?

 いや、それよりも攻略って、やっぱりこれから攻撃が始まるってこと!?


 だけどその言葉はまだ続くようだった。


『帝国は十数年前、我が国内で麻薬を蔓延させた上に、当時の国王を洗脳することで政治を(とどこお)らせて、国を荒廃させました。

 私はその所業に対し、この帝都から見えるあの山を崩壊させることで警告を与えたつもりでしたが、帝国は懲りずに我が国への干渉を続けています。

 そしてついには我が国民を千人単位で拉致し、彼らを人質に取った上で7万もの軍を率いて我が国土に踏み入りました』


 え……なにそれ?

 王国は悪い国だと聞いていたけど、今の話が本当なら、帝国の方が悪いじゃん。


 ……というか、あの山を崩壊させた?

 それができるなら、この帝都だって一撃で滅ぼせるんじゃ……!?

 なんでそんなのに喧嘩を売ってるの!?


 ……いや、あまりにも常識外れで、あれが人間の仕業だとは思えなかった……というか、思いたくなかったのかな?


『幸い人質の救出は成功し、侵攻してきた軍も打ち破りました。

 帝国兵のほぼ全員は、戦死か捕虜という扱いになっています。

 しかし我が方の勝利に終わったとはいえ、この(たび)の帝国の暴挙は許しがたいものだと私は考えます。

 

 なお、この事実を帝国は、国民に対して隠している様子。

 あなた達の家族や隣人が戦争で命を落とし、虜囚となっているのに……その事実すら無かったことにしようとしています。

 その責任を追及されることを、国は恐れているのでしょう。

 我が国に対して行った蛮行もさることながら、自国民に対する統治も真っ当なものではない……。


 最早このような愚かな行為を繰り返す皇帝や貴族達は、国民にとっても不要なものではありませんか?

 ですから私は、彼らをこの国から排除することにしました。

 帝国という国は、今夜解体されます。


 ただ、一般市民には手出しするつもりはありません。

 どうか皆様、今夜は決して城に近づかないでください。

 生命(いのち)の保証はできませんので』


 直後、大きな音が響き渡る。

 カイリが慌てて窓の外を見ると、城を囲んでいた城壁が崩れていくのが見えた。

 ど、どうやって……!?


 でもこれで、あの頭に響いてきた言葉が、全部本気のものだということが実感できた。


 それはこの国に対する、宣戦布告……というよりは、死刑宣告だった。

 ご指摘を受けて、ちょっと(1行)だけ文章を修正しました。

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― 新着の感想 ―
[一言] あっ、あのカイリさんの魅了はゴミスキルぽいですね。本当に他人の好意を起こせるなら最低ても上位貴族待遇、そもそも帝国に命令されてこき使われる下っ端には成らなかった筈でしょう。
[気になる点] >カイリは近くにいた文官の人に聞いてみると── 「帝都の主立った奴隷商が、行方不明になっているそうだ」と、答えた。 >ふ~ん、カイリは「奴隷って良くないことだ」と日本では教えられてきた…
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