38 帝国へ
ブックマーク・☆での評価・誤字報告・いいね・感想をありがとうございました!
はい、アリタなのだが?
終戦から10日ほど経過し、母さん達が国内での問題に対応している間、私もシルビナの身体の改装や、アイ姉達との修行に時間を費やした。
そして今、初めて異国の地に来たよー。
なんとクバート帝国の、帝都にいる。
まさに敵地のど真ん中!
帝国は先の戦に大敗した後、慌てて国境の警備を強化していたけど、王国軍は必要最低人員人員を残し、それ以外は各領に帰還させたので、無駄な警戒だったね。
軍隊で侵攻とか、そんな非効率的なことはしないよ。
しかも帝都には母さんが近くまで来たことがあるので、転移魔法であっという間に到着した。
警備の監視をかいくぐって、国境を突破する必要すら無い。
ちなみにシルビナは全身が鎧姿で目立つし、マルガとセポネはこの国では奴隷階級の獣人なので、いらぬトラブルを避ける為に町の外で待機してもらっている。
それに母さんは、王国民の奴隷化に関わった奴隷商の下見に行った。
そんな訳で私は、異国の町を1人だけでうろついている。
……私も情報収集をしてみようかな。
帝国の奴隷の解放は、国家体制を潰した後で本格的に始めるにしても、マルガの一族だけは先に解放したいし、王国から攫われたまま、未だに行方不明の人達のことも気になる。
これからの帝国では何が起こるか分からないから、騒動に巻き込まれる前に救出したいところだねぇ……。
それにしても帝都とは言っても、我が王国の王都から比べると、かなり発展具合が遅れている印象がある。
まあ、母さんが国の実権を握る前は、王都もこんな感じだった──いや、もっと酷かったけれど……。
少なくとも、ここには貧民街が見当たらない。
まあ、貧民が全員奴隷にされているから……という理由もあるのかもしれないけれど、いずれにしても昔の王都よりは綺麗な町並みに見える。
ただ、発展の遅れを抜きにしても、少し寂れているようにも感じた。
行き交う人々の顔にも覇気が無く、活気を感じさせない。
やっぱり戦争に負けたことが影響しているのかな?
まあ、帝国が素直に敗戦を発表したとは思えないし、そもそも王国も勝利宣言とかしていないので、まだ継戦中だとも言えるんだけど、万単位の死人は隠し通せるものではないと思うんだよね。
どうしても家族はいるんだし、無理に隠そうとして情報統制を強めれば、それはそれで国民の間で違和感や反発が生じるだろう。
でも、混乱している感じではない。
追い詰められた皇帝が、何かとんでみないことを国民に対してやらかす可能性も考えていたけど、現時点ではそうでもないみたい。
母さんの前世の世界では、「そんな漫画の悪の帝国みたいなことを本当にする!?」って独裁者が実際にいたから、油断はできないけど……。
とりあえず私は、近くの露天商で買い物をしつつ、情報を引き出しみようと思う。
なお、帝国の通貨は、一時的に帝国軍に占領されたトガラの町にそれなりの額が残されていたので、それを利用させてもらうことにした。
あの町に残っていた帝国兵は少数だけだったので、奪還も簡単だったらしい。
「おじさん、これちょうだーい。
景気はどう?」
「へい、毎度。
いやぁ……良くないねぇ……。
今は何故だか物不足で、物価も上がっているだろ?」
「ああ……そうですねー」
やっぱり詳しい戦況は、国民に対して発表されていないんだ。
私は王国では見たことが無い果物を受け取りつつ、更に質問を続ける。
「あの、この辺に奴隷商はありませんかー?
私、田舎から出てきたばかりで、家事をしてくれる人が欲しいんですよねー」
「あるにはあるが……。
今、奴隷は買えないって話だぞ?」
おっと、どういうことだい?
「え、何故なんです?」
「なんでも国が奴隷を接収してしまったとかで、在庫が無いんだとさ。
だから店に行っても、買えないんじゃないかね」
「えー、それは不便ですねー?
でも、なんで奴隷を取っちゃったんだろう?」
「いやぁ……怖くてお上には聞けねぇなぁ……」
と、店主にも理由は分からないようだ。
その後私は、近所の奴隷商の場所を聞いて店まで行ってみたが、店の中に索敵をかけてみても人の気配がほとんど無く、確かに奴隷は売られていないようだった。
これはどういうことなんだろ……?
また奴隷を使って軍の編成をしている?
それならばまた母さんが救出すれば済むけど、なんだか嫌な予感がするなぁ……。
しかしそれからあちらこちらと歩き回って色々と聞いてみたけど、有力な情報は得られなかった。
これは母さんに、事情を知っている者の身体を乗っ取ってもらった方が、早そうだね……。
「ん?」
その時、前の方から小さな女の子が歩いてきた。
ただ、左側でサイドアップテールにした髪は黒色で、顔立ちも日本人風だ。
しかも服装が日本の小学校の制服っぽく、ちょっとセーラ服に似ている。
あんな服は、母さんがデザインした物や、その類似品が流行っている王都ならばともかく、この帝都ではかなり珍しい服装だと思う。
いや、輸入品だという可能性もあるけど、現在王国と帝国の間では、表向きは貿易をしていないし……。
これは間違いなく、召喚された勇者だよね……?
相手は私の正体に、まだ気がついていないみたいだけど……。
よし、一般人のふりをして通り過ぎよう。
私は内心の緊張を隠し、普通に歩いてその少女に近づく。
相手もまだ気付いていない。
魔力とかも一般人程度まで低く隠蔽しているし、「鑑定」のスキルでも使われなければ、気付かれないはずだが……。
でも、最初に戦った勇者は「鑑定」を持っていたっけ。
だけどこの前の勇者は持っていなかったっぽいし、全員が持っている訳じゃないのかな?
おっ、何事も無くすれ違うことができた。
どうやら気付かれなかったみたい。
「あれ?」
なっ!?
「ちょっとあんた……」
と、少女は振り返ろうとするが──、
「え? あれ?
なんで!?」
振り返った先には、既に私の姿は無かった。
馬鹿め、上だ。
私はとっくに、すぐ近くの建物の上に転移している。
気配も完全に「隠蔽」したから、私の居場所に気付くことはもうできないだろう。
それでもあの少女は、私とすれ違った瞬間に、確かな違和感を覚えたようだった。
そういう感覚の鋭さについては、油断できない相手だともいえる。
……でも、あんな小さな女の子とは、戦いたくないなぁ……。
現時点ではワクチンの副反応はまだ大丈夫……だが、風呂に入っていても悪寒がした……。
土日は定休日です。




