36 葬 送
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今回はちょっと短めです。そして時系列は前回より前かも。
夜──戦場だった場所。
周囲には、私とシルビナ以外には誰もいない。
というか、人払いをしてある。
今していることは、ちょっと他人に見せられないしね……。
でも他人はいないけど、動き回っている者達はいた。
『アリタ……辛くはないか?』
ぎこちない動きで語りかけてくるシルビナの身体は、まだ不完全だ。
完全に修復する時間も足りなければ、素材となるミスリルも足りなかった。
今は仮の身体と言ったところかな。
「まあ……このまま野ざらしじゃ、可哀想だしね」
私達の周囲を動き回っているのは、動く死体──戦死した帝国兵の遺体だ。
彼らは私の「死霊魔術」のスキルで操られ、ある場所を目指して歩いていた。
このまま彼らに帝国を襲撃させるという手もあるにはあるが、それはさすがに外道すぎるのでやらない。
じゃあ、何故こんなことをしているのかというと、シルビナの為に「死霊魔術」のスキルを鍛える……というのもあるけど、主目的は彼らを葬る為だ。
転移魔法で帝国へ送り返すという手もあるのだけど、これから遺体はどんどんと腐敗していくし、伝染病の発生源にもなりかねない。
それに家族も、無残な身内の遺体は見たくないだろう。
だからこうして1ヶ所に遺体を集めて、火葬することにした。
遺族としては遺体も遺品も遺らないことになるけれど、まあ他国へ攻め込んだことの代償だと思って、諦めてもらおう。
それにしても酷い光景だ。
遺体の中には手足や頭が無い者もいるし、全身が焼けただれた者だっている。
見た目だけでも相当キツイけど、死臭も酷い。
それでもこの戦争に関わった者として、最後まで見届けようと思う。
「準備は整ったようですね……」
「母さん……!」
転移してきたのか、いつの間にか母さんとクラリス母さん、そしてレイチェル姉さんが傍にいた。
「うん、全員集めたから、後はお願い」
「はい、大変な作業をありがとうございました。
後は任せてください」
母さんが掌を向けると、集まった遺体の中心から、炎が立ち上った。
しかもただの炎ではなく、浄化魔法も併用した全てを清める炎だ。
淡く緑色に輝く炎は、数十mもの高さまで燃えさかり、3万もの遺体を飲み込んでいく。
……同時に浄化されているおかげが、肉がやける嫌な臭いはしなかった。
それが無かったら、暫くお肉が食べられなくなっていたことだろうね……。
それにまだ成仏していなかった幽霊も誘導して集めておいたから、少なくとも死に損ない系の魔物としてこの世に残る者はいないだろう。
まあ、死んだ者達が何処へ逝くのかは、1度死んだことがある私でもよく分からないけれど……。
天国というものが本当にあれば、いいんだけどね……。
いや……そういえば母さんって、転生する前に女神から天国行きの選択肢も与えられていたんだっけ?
でも、「魂を休める」とか言っていたような……。
ただ眠るだけの場所なら、私はあまり行きたくないかな……。
それから浄化の炎は完全に遺体を飲み込み、一際大きく燃えさかる。
火の粉に紛れて、沢山の霊が天へと昇っていった。
『これは……凄いな……』
シルビナがそんな感想を漏らした。
まあ、目の前の光景は、普通なら見ることができないものだろうし、誰でも同じような感想になるのかもしれない。
「さすがに母さんも、ナウーリャ教から聖女に認定されているだけのことはあるよ」
『え……そうなのか?』
シルビナは困惑気味に言う。
普段の母さんって、聖女っぽさは欠片も無いしね。
どちらかというと、魔王の方がイメージに近いと思う。
「……ん?
歌……?」
その時、歌が聞こえてきた。
歌っているのは姉さんだ。
これは姉さんがかつて生まれ育ったサンバートルの町で、流行っていた歌だね。
つまり姉さんにとっては、故郷の歌ということになる。
たぶん帝国兵達にも、故郷で慣れ親しんだ歌はあったのだろう。
けれど姉さんはそれを知らないから、せめて自分がよく知る故郷の歌で、霊達を慰めているのかもしれない。
……つまり姉さんは、鎮魂歌のつもりで歌っているのだろうな……。
『綺麗な歌だな……』
「うん……」
すぐ目の前で人間が焼けているのに変だとは思うけれど、私は少し感動していた。
そして夜更けには全てが終わったけど、この後には王国軍の戦死した者達への国葬を行わなければならないし、その他にも遺族への補償など、やることは沢山あるらしい。
実は戦争って、戦いが終わった後の方が大変なのかもしれないね……。




