33 決 着
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男の奥義とやらは、戦場へと向かって放たれた。
たぶん戦場の端から端まで、突き抜けるだけの威力はありそうだ。
あれが戦場に到達すれば、敵味方関係なく数百人は命を落とすかもしれない。
だから私は、それを止める。
まずは私の全力の「結界」で受け止める。
──嘘っ!?
けっ、「結界」が壊れるっ!?
それならばっ!
「なっ、真轟が消え──があああぁぁっ!?」
よし、上手くいった。
私は受け止めていた攻撃ごと、転移魔法で男の真上に移動したのだ。
ただし方向は入れ替えて、あの技が男の方へと落ちるように調整している。
勿論私は、再び転移で更に上空へと脱出していた。
結果として男は、自分で自分の技を受けることになる。
直前でクラリス母さんが、空間収納で似たような技を使っていたのを見ていなかったら、対処できなかったかもしれない。
サンキュー、女王様!
ただ、ぶっつけ本番だったので、タイミングはシビアだ。
実際、私が展開していた「結界」は破壊されてしまい、苦し紛れに攻撃を受け止めた両手は無くなっている。
「いったぁぁぁ~~っ!!」
私の可愛いお手々が無いとか、嘘だと言ってよバー●ィ!
めっちゃ痛いよ、これぇ!?
「万能耐性」に含まれているはずの「痛覚耐性」が、レベル不足なのか仕事をしていないっ!!
ああ……そういえば昔、母さんがゴブリンだった頃に、同じようなことがあったな……。
しかし実際に経験すると、こんなに痛いのか……っ。
「ぐうぅぅ……おのれっ!!」
「げっ!?」
しかし私の腕を吹き飛ばすほどの凄まじい攻撃──その直撃を受けた男は、全身を血に染めながらもまだ生きていた。
さすがに自分の技で、死ぬような間抜けではないか。
そしてあいつがまだ戦えるのなら、私も腕を治している場合ではない。
まずは、あいつを倒すことを優先するっ!!
いくぞ、スーパーイナ●マキィィィィック────!!!!
私は全身に電流を纏って、雷のごとき勢いで男へと蹴りを落とす。
「──っ!!」
だけど男は、左腕1本で私の蹴りを受け止めた。
本当になんなんだよ、その防御力はっ!?
その上男の右の拳に、オーラが集中していく。
片腕だからさっきの奥義ほどじゃないだろうけれど、それに近い威力での迎撃がくるっ!!
だが──、
「ぐがっ!?」
男の身体が熱線に貫かれた。
彼がガードしている私の蹴りから──正確には足の裏から零距離で撃った熱線は、さすがに回避することはできなかったようだ。
この熱線は母さんが使う技の中でも、転移魔法による即死攻撃を除けば、おそらく最強の威力を持っていると思う。
それは私が使う技の中でも同様だ。
その熱線を最大出力で撃ったのだから、いくら勇者といえども直撃して生き残れるとは思えない。
本当は殺人を犯すことに迷いがあったけど、こいつが同情もできないようなクズな真似をしてくれたおかげで、迷いが吹っ切れたよ。
「不本意だけど、ありがとう」
「いい殺意だ──」
血が溢れる口から男が何かを言いかけた瞬間、男を貫いて地下深くへと突き刺さった熱線が、爆発を引き起こした。
男はその爆発に飲み込まれる。
それどころか、このままでは私も危ない。
私は転移で戦場まで下がり、そして戦場に爆発の影響が及ばないように、全力で「結界」を形成した。
うわぁ……ヤバイ、ヤバイっ!!
爆発の威力を、完全には抑え切れないかもっ!!
「なにをやっているのですか、あなたは……」
「姉さん!?」
気がつくと、私の背後にレイチェル姉さんがいる。
姉さんは私の「結界」に魔力を供給し、強化してくれた。
よかった……これでなんとか乗り切れる……。
そして爆発が収まった頃、私はへたり込む。
さすがにちょっと消耗しすぎたよ……。
「まったく……またこんな大怪我をして……。
もう一度アイに、鍛え直してもらわなければならないのです」
そう言いながらも、姉さんは私の無くなった手を、回復魔法で再生させてくれた。
「はは……ありがとう姉さん。
確かにまだまだ実力不足だねぇ……。
勇者を生け捕る余裕は……無かった」
それでしたくもない殺人を、する結果になってしまった。
「生け捕りは、圧倒的な実力差が無いと無理なのです」
その言葉は、私に重くのし掛かる。
私にもっと力があれば、選択肢も多くあったのに……。
「それでもまあ……あの大爆発を見て、戦いを続けようと思う者は、もういないでしょう」
「あ……」
戦場を──いや、戦場だった場所を見ると、静まり返っていた。
危うく自分達が巨大な爆発に飲み込まれて全滅しかけたのだと思えば、心も冷えて戦いを続ける気も萎えてしまったのかもしれない。
「あなたが戦争を止めたのです。
役には立っていますよ」
「そっか……」
結果的に死ぬ人間が減っているのなら、良しとしよう……。
「ところでアリタ……」
「ん? なに?」
「あなたのお友達の反応が、『結界』の外だった場所にあるのですけど……」
「えっ、シルビナ!?」
慌ててシルビナを探しに行くと、彼女は半壊して土砂に埋まるという、変わり果てた姿で発見された。
人間だったらあの爆発に飲み込まれたら助からなかっただろうけど、ミスリルの身体であることが幸いしたようで、生きている……というか活動は停止していない。
それでも、無残な姿になっていることには紛れもない事実。
「ごめんねぇぇぇぇぇ、シルビナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
『ああ……アリタか……。
アリタに加勢しようとしたが、この有様だ……。
どうやら私はまだまだ、アリタと一緒に戦うのには、実力不足のようだ』
「そんなこと……」
どちらかというと今回のことは、周囲に目を向ける余裕が無かった私の問題だ。
『だけどついていけるように、もっと修行するからな!』
「う……うん」
……シルビナは前向きだなぁ。
私も彼女に負けないように、一生懸命頑張ろう。
『だから、後で身体を修理してくれ……』
「勿論だよ。
前よりも更に強くしてあげるからね!」
私達の戦いは、まだこれからだ。
昨日は去年手術した場所で症状が再発したので、病院へ行っていました。当面は薬で様子見……ってことになりましたが、調子が悪い時は執筆ペースが落ちるかも……。
そして土日はお休みです。




