30 魔獣に立ち向かう者
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クラリス・ドーラ・ローラントよ!
ついにクバート帝国との、本格的な戦闘が始まったわ。
敵はおよそ7万、それに対して我が軍は5万。
軍は急遽集めたものだから、数の上では不利のように見えるわね。
だけど我が軍の総合的な能力は、帝国軍をはるかに上回っているわ。
レイチェルとエリのスキルで、能力の底上げもされているしね。
そもそも本来なら、竜であるフレアを投入すれば、それで済む話なのよ。
それにも関わらず兵を招集したのは、帝国軍を自らの手でぶん殴りたいと主張した者達が、沢山いたからなのよね。
さすがに我が国民を人質にとったのは、帝国の失策だったと思うわよ?
もうあれで私の側近の中でも激怒する者が続出し、そして彼らに何もさせないのでは、国内で不満がくすぶりそうだったから、軍を動かすことになったのだもの。
その上でフレアも投入したら過剰戦力だし、他の者達の出番も無くなるから、あの子には帝国軍の退路を断つ作業だけで我慢してもらったわ。
アリゼによる人質の救出も成功したようだし、もうなんの憂いもないわね。
戦況はこちらの有利に運んでいるし、私も前線に出て舐めた真似をしてくれた帝国に、一泡吹かせてあげるわ!
「へ、陛下、お下がりください!
危険ですっ!!」
配下の者はそう言うけど──、
「ふ~ん?」
帝国の魔法攻撃が、私の方に向かって飛んでくるけれど、それは空間収納に入れてしまえば、全くの無害よね。
そしてそれをそのまま、帝国軍へ送り返してあげるわ。
言うまでも無く帝国兵は、自分達が撃った魔法を受ける訳よ。
「危険って、どこが?」
「お……おみそれいたしました」
私も伊達にアリゼの隣にいた訳じゃないのよ?
あの子に釣り合う実力を身につけるのは不可能だとしても、それでも努力を欠かしたつもりは無いんだから!
さて……そろそろ勝敗は見えてきたわね。
圧倒的じゃない、我が軍は。
これくらい力の差を見せつければ、帝国も2度と侵攻してこようなんて思わないでしょうね。
……あれ? そもそも帝国自体を解体するんだったっけ?
アリゼはそのつもりっぽいけど、いきなり併合しても統治が面倒臭くなりそうだから、属国にしてある程度自立してもらう方が楽なんだけどねぇ……。
まあそれは後で考えるとして、そろそろ改めて降伏勧告を出すべきかしら?
「「「うわあぁぁぁぁぁっ!?」」」
「ん?」
なにやら悲鳴が聞こえてきのだけど……。
そちらの方に目を向けると、なんだか気持ちが悪い奴がいるわね……。
ヘビのような……それにしては大きいわね。
「陛下、あれは危険です。
どうか退避を……!!」
「そうね……でもその前にっ!」
あの化け物目掛けて、電撃の魔法を撃ち込んでおくわ!
……でも、効果は微妙ね。
「兵達に退避命令を。
あれはフレアじゃなければ無理でしょう」
「はっ!」
それかフレアが来る前に、レイチェルかアリタがどうにかすると思うわ。
でも、レイチェルは軍の転移で疲れて休んでいるはずだから、まだ動けないかしら……?
「私も下がるわ。
あとはお願いね」
私も戦おうと思えば、あの化け物と戦えるけれど、護衛を守りながらだと苦労しそうだわ。
ここは大人しく引き下がるとしましょう。
あら、何かが来たわ?
ああ、あれはアリタのお友達ね。
凄いわよね、全身ミスリルで……。
なんだか私よりも強そうだし、あの子に任せましょうか。
私は転移で戦場を後にした。
『なんだっ!?』
アリタが何者かによって、戦場の外まで弾き飛ばされた。
どうやらあのワームの相手は、私がしなければいけないらしいな。
以前の幽霊だった頃の私は、アリタから一定の距離は離れることができなかったけど、今はこの鎧自体が私の核となっている。
私1人だけでも、自由に活動することができるぞ!
しかしこの戦場では、ワームに近づくこと自体が難しいな。
今はワームから逃げようとしている者達が、敵味方関係なく入り乱れてこちらに押し寄せてくる為、地上からは近づけそうにない。
よし、跳ぶか!
今の私は、幽霊の時ほど自由に空を飛ぶことはできない。
やはり鎧の重みがあるからだ。
以前のように飛ぶ為には、まだ修練を重ねる必要があるだろう。
ただ、多少は浮くことができるし、それを応用して跳躍力を大幅に上げることもできる。
今なら50mくらいならば、問題無く跳べるはずだ。
『ハッ!!』
うむ、丁度あのワームに届くな。
まずは一撃!
私はワームに斬撃を入れつつ、地面に着地した。
むう……さすがに致命傷にはなっていないな……。
「お……あんたか」
『スコップの人!』
そこにはノーザンリリィ辺境伯領で、出会った人がいた。
名前は聞いたけど忘れた。
ともかくスコップで戦う奇妙な人で、そっちのインパクトばかりが記憶に残っている。
でもあそこでは、シスさんの次に強い人だった。
『殿を買って出ているのですか?』
「一般兵では、あの怪物から逃げることも難しいからな。
時間稼ぎくらいならば、俺でもできる」
『それでは、あいつの相手は私がしましょう。
その間に退避を!』
「ま、アイ様とリゼ嬢ちゃんに鍛えられたあんたなら、大丈夫だろう。
任せたぞ」
『はい──おっと!』
私がスコップの人へと返事をした瞬間、何か鞭のようなものがこちらに向かってきた。
それを私は、剣で叩き落とす。
うえっ……あいつの舌か。
気持ち悪いな……。
だが、アイさんの攻撃から比べたら、余裕で避けることができる。
まあ、負ける気はしないな!
私はワームへと斬りかかった。




