29 戦場に現れし者
ブックマーク・☆での評価・誤字報告・いいね・感想をありがとうございましたっ!
え~と、アリタだよー。
そしてここは戦場で、周囲では殺し合いが行われている。
え、えらいことだ……戦争だぁ……。
まあ、私の役割は、負傷者や投降した帝国兵の救護であって、戦うことが主目的じゃないんだけどね。
母さんからも、そういう方向で手伝うようにと言われている。
いくら戦争でも、積極的に殺人はしたくないし、人命救助ならば少しは気が楽だ。
とはいえ戦場の光景は、グロ描写が満載なんだよね……。
薄い本では邪魔にしか感じなかったモザイクが、こんなに欲しいと思ったのは初めてだよ……。
あと、兵隊を転移魔法で運ぶことも手伝わされた。
そして今は、怪我人を転移で運んでいる。
まあ、投降した帝国兵を送る場所は、収容所だけどね。
ちなみにアイ姉は、どさくさに紛れて魔族が攻めて来る可能性も考えて、ノーザンリリィに居残って北方の守りを固めている。
また、念の為にシス姉とリゼも、南方に行って帝国の動きを警戒してもらっているそうだ。
そしてシルビナは私の護衛役として、私の方に向かってくる帝国兵を、ばったばったと斬り倒していた。
さすがに元々騎士志望だということもあって、斬殺にも躊躇いが無いなぁ……。
でもそれが今は頼もしい。
なお、今の彼女は、フルアーマー・シルビナだ。
ミスリルを「変形」のスキルで鎧に加工し、その鎧の中にシルビナの魂を定着させている。
つまり「死霊魔術」のスキルも併用して、「生きた鎧」という死に損ない系の魔物へと進化させたのだ。
私の「変形」のレベルがもっと高ければ、より人間っぽく作ってやることもできたのだろうけれど、今はこれが精一杯。
現在は全身が鎧に覆われていて素顔も見えないし、どちらかというとロボっぽい印象かも……。
いずれはK●S-MOSのような、人間に近いロボ娘にしてあげるからね。
それでもただの幽霊だった頃よりは、シルビナの戦闘力は格段にあがっているはずだ。
まあ、他人からは見えないという、隠密性能が犠牲になってはいるけど、それはデメリットでもあったから、シルビナ本人としてはこちらの方が良いらしい。
それにこの鎧には「錬金術」や「魔道具作成」のスキルも駆使して、浄化魔法などへの耐性も付与させておいたので、弱点を突かれて一瞬で消滅するような危険性もなくなった。
今の彼女ならば、勇者ともそこそこ戦えるようになっているんじゃないかなぁ?
それくらい強化したつもりだ。
ただ、そんなシルビナの能力をフルで発揮する必要は、この戦場では無さそうだが……。
『アリタ、どうやら帝国軍の制圧も、時間の問題だな』
「だね……。
私らの勝利は、もう確定でしょ」
ただ、人的被害は皆無ではないし、純粋に喜べることでもないけれどね……。
しかもまさかこの段階から、被害が拡大するとは思ってもいなかった。
ゴアアァァァァァァ──っ!!
「!?」
何か獣の咆哮のようなものが、聞こえてくる。
そしてその方向を見ると、戦場に巨大な怪物が出現していた。
え~と、ヘビ……ではないね。
巨大なミミズというか、ヒルというか……。
とにかくそんな感じの怪物が、地面を突き破って突然現れたらしい。
「あれは……ワームとかいう奴?」
『だな……。
下等な竜種だと聞く』
竜……竜か。
南方でも、帝国の船を運んでいたらしいね……。
つまりあれも、帝国の支配下にあるのかな?
しかしいくら下等とはいえ、一般兵には厳しい相手だと思う。
実際、数十mはあるあの巨体で暴れ回ったら、押し潰されてしまう者が続出するだろう。
しかも敵味方が入り乱れているこの戦場では、帝国兵も巻き込まれるはずだ。
帝国は追い詰められて、なりふり構わなくなったってことかな?
とにかくこれ以上被害が拡大する前に、止めなきゃ!
「いくよ、シルビナ!」
『応!』
私達は、ワームに向かって走り出した。
しかし変だね……。
ワームと同じかそれ以上の強さの気配が、もう1つあるんだけど……。
「もう1匹潜んでいるかも……。
気をつけて!」
『分かった!』
その時、ワームが眩い電流に包まれた。
あれは……クラリス母さんの雷撃魔法だね。
いや、帝国が許せない気持ちは分かるけど、女王自らが、敵軍の中につっこんでどうするのさ!?
確かにクラリス母さんは、一騎当千の実力があるけどさぁ……。
身内では母さんと私達4姉妹、それにシス姉とグラスとフレアとカーシャ……このメンバー以外でクラリス母さんに確実に勝てる者って、王国には存在しないと思う。
他は精々キエルとマルガとハゴータなら、互角に戦えるかもしれない……って程度だ。
そして帝国にだって、そんなに強い奴はいないだろう。
人間ならば勇者くらいかな。
それでもあのワームは、クラリス母さんにはちょっと厳しい相手だと思うよ。
まあ、近くでカーシャが護衛していると思うので、万が一のことは滅多に起こらないと思うけど、それでも油断はできない。
「私、先に行く」
と、転移魔法でワームの頭上に転移し、魔法攻撃を撃ち込もうとしたその時──、
「──っ!?」
真横から、何者かが突っ込んできた。
ここ、空中なんですけどぉ!?
私はすぐさま「結界」で防御──したけど、その者が撃ち込んできた拳の威力は、予想外に凄まじかった。
私は「結界」ごと、戦場の外まで押し出される。
『ちっ!!
シルビナ、ワームの方はお願いっ!!』
『ああ!』
念話で指示を送りつつ、私は地面に降り立つ。
そして私を追って、地面に降り立ったのは──、
「なんだ、あんたは……?」
「なんだと思う……?」
ボロボロの空手着のようなものを着込み、顔中が髭に覆われた男──。
それはまるで、山に篭もっていた格闘家のような容貌だ。
その明らかにこの世界に似つかわしくない異質な姿は、ある可能性を私に気付かせてくれた。
「まさか……勇者なのかな?」
そう、召喚された勇者が、1人だけだとは限らないということに──。
土日はお休みです。




