28 私達の歌を聞け
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私はレイチェルなのです。
なんだかママによって突然、西端のアリシャール砦に呼び出されました。
え、戦争なんですか?
嫌ですねぇ……。
でもアリタに余計なことを喋ったペナルティということで、無理矢理協力させられることになったのですよ。
で、開戦まで時間が無いとのことなので、私が王都や地方領を何往復もして、5万もの軍勢をかき集めてこの砦に運びました。
まあ、砦の中にはそんなに多くの人員は入らないので、砦の東側に宿営地を作って待機させていますがね。
アリシャール砦は渓谷の狭間に、ダムのごとく構築されています。
ここを抜けなければ、西方から王都へ辿り着くのは難しいでしょう。
その砦が目隠しとなっているので、西側にいる帝国軍がこの軍勢に気付くことは不可能だと思います。
あとは人質さえ解放できる算段がつけば……あ、ママからの念話です。
問題はなさそうですね。
では、明日の決戦に備えて、休むだけです。
「はぁ~っ……」
「お疲れのご様子ですね、姫様……」
「大丈夫ですか、レイチェル様?」
砦に用意された部屋で深々と椅子に腰をかけると、エリとアイリス様が気遣うように声をかけてきました。
ここには私の嫁達も同行しています。
危険が無い訳ではありませんが、国家の一大事に王族や貴族が働かないという訳にはいきません。
それはエリやアイリス様も同様です。
「大丈夫ですよ。
それよりもエリ、明日が本番ですから、しっかりと準備を整えておくのですよ?」
「ええぇ……本当にやるのですかぁ……?」
私の言葉を受けて、エリは嫌そうな顔をしました。
だけどこの作戦は、必要なことなのですよ。
その為にも、我々も全力を尽くさなければなりません。
え、カナウですか?
彼女なら、誰よりも先にベッドで寝ていますが、何か?
まあ……戦闘の時くらいしか、役に立ちませんからね、あの子……。
翌日、帝国軍の動きが確認されました。
あと2時間もすれば、このアリシャール砦に到達することでしょう。
そしてそれだけの時間があれば、我々の準備も十分に整えられます。
「──この帝国の暴挙を、許す訳にはいかないわ!
我が国の主権と、国民の生命と財産を守る為に、皆には生命を賭して戦ってもらいたい!」
現在、帝国を迎え撃つ防衛軍に対して、クラリスお姉ちゃんの演説が続いています。
それを聞く兵士達の士気は、高いようですね。
「さあ、準備はいいですか、エリ!
演説が終わったら、私達も舞台に立ちますよ」
「ど、どうしても、この格好で出なきゃ、駄目ですか?」
エリは顔を赤く染めて渋るけれど、拒否権は無いのですよ。
私も同じ格好をしているので、私にだけ恥をかかせないでください。
「レイチェル様、エリ様、とても素敵ですわ」
アイリス様が、私達の格好を最上級の笑顔で褒めてくれました。
私達が着ているのはアイドル──もしくは魔法少女を彷彿とさせる、ヒラヒラのドレスです。
これが恥ずかしくないと言えば嘘になりますが、アイリス様が喜んでくれるのならば、それだけでも報われた気持ちになりますね。
そう、これから私達は、「歌姫」としてステージに立つのですよ。
「さあ、今から皆を激励する為に、我が娘と弟が歌を披露してくれるそうよ。
心して聴くといいわ!」
お、出番ですね。
私達はステージに上がります。
兵士達から、大きな歓声が上がりました。
エリは男性人気が高いですからね……。
太股の絶対領域が見える衣装は、彼らにとってさぞかし刺激的でしょう。
……何かが間違っているような気もしますが、まあ皆が喜んでくれるのならば、それでいいのです。
いざ開戦となれば、確実にこの兵士達の中からも死人が出るので、できるだけ楽しい思い出を持って戦場に行ってほしいのですよ。
……まあ、私やママ達が戦えば、味方サイドの死者をほぼ皆無にすることも可能なのでしょうけれど、今回ばかりは帝国に対して大きな怒りを持っている者達も多いので、その怒りのぶつけ場所を奪うのもどうかと思うのです……。
それに侵略を受けていて、何もできなかった──では、国を守るべき兵士や騎士の誇りを傷つけ、更には彼らの存在意義も揺らぎますからね。
だから彼らは、命を懸けることも厭わずに戦うのです。
ただそれでも、犠牲は可能な限り少ない方がいい──。
これは、その為のステージでもあるのですよ。
なお、アイリス様はピアノでの伴奏役となります。
彼女が弾く曲は、ママが耳コピーした某有名RPGのメインテーマで、一部のファンからは「国歌」と呼ばれていた曲です。
『──あまねくひかーり、浴びて輝ーく。
清くゆうーがな、百合の花のよぉーに』
そして私とエリが歌うのは、その曲にみんなで歌詞を付けたもので、新たな国歌を意識して作った歌なのですよ。
グラスが統治していた頃の王国は荒れていて、その時の国歌って民の間ではあまりいいイメージを持たれていませんでしたからね。
しかもただの歌ではありません。
これは私の「歌唱」のスキルが成長して派生した「呪歌」を用いたものであり、これを聞いた者は各種ステータスが一時的に上昇する効果があります。
しかも私と手を繋ぎながら歌っているエリは、「吸精」のスキルで私から生命力や魔力を吸収し、それを我が軍の者達へと分配しているのです。
これによって我がローラント軍の戦力は大幅に上昇しており、帝国軍など物の数ではない状態になっていると思われます。
常識的に考えて、負ける要素はありませんね。
これは変則的なミン●イアタックで、デカル●ャーなのですよ!
……まあ、数日後には酷い筋肉痛などの副作用はあるのかもしれませんが、生存率が上がるのならば良いですよね?
『闇を越えー、暁照らす、希望の地平。
我らが故国ー、ロ~ラント~!
自由ーと、平和をー、永久に導ーく。
ほーこり、胸ーに、輝く道を~!』
私達の歌を聴いて、兵達のテンションは上がっているようです。
そして歌い終わった時には──、
ワアァァァァァァー!
鳴り止まぬ大きな歓声を受けて、私達はライブが成功したことを実感しました。
「みんなー、ありがとー!」
エリが声援に応えて手を振ります。
この子、なんだかんだでノリノリですよね……。
あ、ママから「人質達の奪還に成功した」との念話が届きました。
それでは転移魔法で、帝国軍の背後に我が軍を送り届けることにしましょう。
数万人もの人間を一気に運ぶのは、さすがに私でも大変ですが、なんとかやってみせますよ!
作詞は初めてのことなので、まあご愛敬ということで。それに時間もかかりそうだったので、一曲分全ては作っていません。




